幼馴染たちと妹が三角関係らしい。~え? いや、僕はもう彼女いるんで。え? だから、シスコンでもないって!~
「ただま~」
気の抜けた声で、僕は誰もいない(ハズの)家に帰宅を告げた。
ガチャリ。
鍵をかけ、玄関からリビングへ向かう。
二重鍵の片方しかかかっていなかったな……。
まあ、誰しもミスはある。おおかた、両親のどちらかがかけ忘れたのだろう。
そう思いつつ、リビングへの扉を開いた。
「ん、あ~、とーちゃんおかり~」
「何でお前がいるんだ? アカリ」
リビングには、向かって左隣の家に住む幼馴染で同級生の、前山朱莉が、ソファでゆっくりとくつろいでいた。
とーちゃんというのは、僕の名前である遠山和也からとっているものだ。
断じて僕の娘とかではない。
……、というか、
「何で同じ時間に授業が終わって同時に下校したハズのお前がここにいるんだ? しかも、お前荷物は家において、ジャージに着替えて、そのポテチはコンソメ味だから自分の家から持ってきたな? そんでその三ツ○サイダーも自宅からだな? いや、速すぎないか……?」
僕はそう早口でまくし立てた。
うちの家族はポテチはうすしお派、炭酸飲料はコカ○コーラ派だ。彼女の持つそれらは、僕の家にはあり得ない。すべて彼女が自宅から持ってきたものだろう。ポテチは絶対うすしおだろう。意味がわからん。
いや、主義信条は自由だ。憲法にも明記されている。
それより今は、この侵入者の事だ。
「いや、マジでなんでいんの? 自宅でくつろげよ」
「あっはっは、一人じゃさびしーじゃん? それと、早く来れたんじゃなくて、とーちゃんたちが遅いの。彼女と喋りながら帰ってきたんでしょ?」
「彼女を連れてきたっていうのに幼馴染がいちゃなんかこう、あれだろ。なあ春山?」
そう僕は彼女であるところの春山小春を振り返った。
え? そんなやつさっきまでいなかったろって?
記述しなかっただけで、初めからいたよ? お邪魔しますとも言ってたしね。
「別に嫌じゃないよ……? アカリちゃんは、横山君が好きなんだし……、私は別にアカリちゃんだけは大丈夫だと思ってるから……」
「あ、そう? じゃあよかった。いや違うだろ! 二人きりになれないだろってこと!」
「まーいーじゃんか。ハルちゃんそう言ってるんだし、それに、カズくん来るし」
「人が増えりゃいいって訳でもないだろ……」
カズくんというのは、僕の家の右隣の家に住む幼馴染、横山一樹の事だ。
僕の和也と被るんだよな……。まあ、小さい頃からそう呼んでいたので、とっくに慣れた。
「まあまあ、二人きりだと緊張しちゃうし……」
僕の後ろに控えめに立つ西園寺春がそう言って笑う。
かわいい。
「そう。わかった。春山に感謝しとけよ? アカリ」
「はいはい」
なげやりな返事が帰ってきた。
まったく……。
ガチャリ。
玄関の鍵が開く音がして、直後に扉が開いた。
「おじゃましま~す」
「邪魔だと自覚あるなら帰れ」
「おおう、暴君カズヤのご登場だ」
「アカリはもう来てるぞ。ってか、部活はどうしたんだよ」
「俺より弱い先輩の当たりが強いからやめた。双葉ちゃんいる?」
「双葉は修学旅行中。おい、何で双葉の部屋に向かおうとしてる?」
「いないのか~。残念だな~」
「だから、何で双葉の部屋に向かおうとしてるんだ!」
「いや~、残念だな~」
「だから、……、止まれぇ!」
「なんだよ義兄ちゃん。邪魔しないでくれる?」
「妹の部屋には入れさせないぞ! そしてお前におにーちゃんと呼ばれる筋合いもない!」
そんな感じで、僕とカズキが引っ張り合う。
絶対にこの変態を妹の部屋に近づけるわけにはいかない。
そんなことをしていると、
「も~。いつもいつも、どんどん変態じみてきてるよ? 二人とも」
「僕は変態じゃない! こいつだろう!」
「うるせーシスコン!」
「僕は断じてシスコンではない! 世の兄たちはたいていこうだ!」
そんな下らない、いや下らなくない! 下る下る!下るって何?まあいいや、そんなやり取りをしていると、
「あはは、いつもこんな感じなの……?」
と、春山が笑って言った。
そのかわいさに、カズキの腕を掴む手が緩んだ。
「あ、しまった!」
「よっしゃ!」
逃げられる。とうとうこの変態に妹の部屋への侵入を許してしまうのか。
そう思ったときだった。
「はいストップ」
そう言って、アカリがカズキの首根っこをつかんでリビングへ連れていく。
カズキが妹の部屋に入ろうとするときは、たいていこうやって終わる。
今度から、妹の部屋だけ鍵かけとこうかな。
「あんたも来なさい」
そんなことを考えていると、僕も首根っこをつかまれてリビングへ運ばれた。
「また部活やめたのかよ」
「今回は三ヶ月くらい続いたろ?」
「普通ずっと入ってるもんなんだよ。優秀ってのも困りもんだな」
カズキは優秀で、どんな競技もすぐにできるようになってしまうため、たいてい入部から一ヶ月くらいでいやがらせに会い、やめてしまっているのだ。
優秀ゆえの弊害というのもあるんだな。
アカリは、陸上部に入っていたが、同様の理由で先輩からのいやがらせに会い、やめてしまった。
「それより、カズヤこそ部活はどうしたんだよ」
「文芸部は人数足りなくて休部中だよ」
つい先日三年生が引退し、部員が僕と春山の二人だけになってしまったのだ。
最低五人は必要と言うことで、部活は休部となっている。
「残念だな、そりゃあ」
「まあ、悪いことばっかじゃないと思うけどね。どのみちとーちゃんとハルちゃんは一緒にいるんだし」
「部員が入らないのって、お前らがいちゃついてるからだったりしないよな?」
「え? い、いや、そんなことは……」
「ないと思うけどなぁ。そんないちゃつくとかしてないし」
春山と僕が交互に否定したので、そっかということになった。
別に、部室でキスなんて、してないんだからねっ!
キモいですね。やめます。
「にしても、双葉ちゃんも修学旅行、てことは、俺らが三年になる頃には、入学してくるってことか!」
「いや、あいつ頭もいいから、もっとレベル上のとこいくだろ?」
「そうなの? じゃあ、同じとこ転校するわ」
「だからキモいって」
僕たちがそんなやり取りをしていると、春山とアカリは別で喋り始めた。
「そっかぁ、むずかしいねぇ」
「そうなんだよね。こいつ鈍感だからさ~」
恋ばなというやつだろうか。
アカリの思いは、双葉にご執心なカズキにはかすりもしない。さっさとこの二人がくっついてくれれば、双葉に対する驚異も消えるというのに。
まったく、うまく進まないものだ。
「ってアブね! これコンソメじゃねーか!」
カズキが驚いたようにいう。
危ない危ない。コンソメの毒牙にかかるところだった。
「危なかったな。うすしおとってくるから、待ってろ」
そう言って僕はポテチをとりに立ち上がろうとする。
「いや、ポテチは白醤油だろ」
「はあ? ポテチはうすしおだろうがよ。誰がそんなマイナーなやつを好んで食べるんだよ」
「おいおい、うすしおなんていう雑な味付けより、絶対に白醤油のあの甘味としょっぱさが絶妙な味の方がいいに決まってるだろ? お前の方こそ何を言ってるんだ」
「いやいや、あの簡素でシンプルな味付けがいいんだろ?」
「はあ? ポテチは白醤油なんだよ!」
「絶対にうすしおだよ!」
「まあまあ、これでも食べて、落ち着きなよ二人とも」
そう言って、アカリがポテチを数枚渡してくる。
受け取って食べる。
「「ってこれコンソメ!」」
これが僕たちの日常だ。
仲良く楽しく、時に喧嘩も。
そんな普通の日常。
でも、ポテチはうすしおだ!
連載するか迷っていますので、感想など教えてもらえると幸いです。
評価がよければ、そのうち連載版も書きます。