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ⅩⅩⅧ

わたしがトリスになって一週間が経った。


この間わたしはキュクレイの塔にいたのだが、ここは学院からも離れていて今のわたしには居心地が良かった。それにアドラが意外にもおしゃべり好きで、彼からは隣国の城に仕えていたときのことや、貴族のゴシップをよく聞いていた。しかもこの話が結構面白いのだ。


今日もいつものようにアドラから話を聞きながら、二人で楽しくお茶をしていると、わたし達の前に突然キュクレイが現れた。


「あ。キュクレイお帰り」

「魔王様。お帰りなさいませ」


転移魔法で現れたキュクレイは、疲れているようだった。実は彼は今までエルフの里に行っていたのである。


というのも、互換の魔法具は元々エルフが作り出したものだそうで、エルフの里に行けばわたしが元に戻る方法が見付かるかもしれないとキュクレイが思い付いたのだ。


わたしも一緒に行くとは言ったのだが、ラフィムに何かされるかもしれないと断られてしまった。そのためわたしはアドラと二人、こうして留守番をしていた。


「アドラ。飲み物を貰えるか」

「かしこまりました」


よくよく見ると、キュクレイの顔色が悪い気がする。もしかして戻る方法が見つからなかったのだろうか?キュクレイはアドラからお茶を受け取ると、一気に飲み干した。


「シヴィル。ちょっとこっちに来い」

「え?わ、分かった」


突然キュクレイに呼ばれて彼に近付くと、キュクレイは苦々しい顔をしていた。自分からこっちにこいと言ったのに、この顔は失礼だと思う。


「互換の魔法をラフィムから教わった。その魔法を使えばすぐに元に戻れる」

「…戻れるの?キュクレイの顔色が悪かったから、てっきり戻る方法が見つからなかったと思ってたよ」

「いや…悪い。ラフィムに散々な目に合わされたからな」


なるほど。キュクレイの顔がずっと険しかったのはそういうことだったのか。それにしても今回は一体どんなことをされたのだろうか?ラフィムに監禁されたわたしとしては…想像するのも恐ろしい。


「ただ魔法を使う前に、お前の姿をシヴィルに変えささてもらう」

「シヴィルに?それに姿を変えるって…変化の魔法だよね?わたしは今魔法が使えないけど」


わたしの言う変化の魔法とは、自分の姿を全くの別人に変化させることが出来るものだ。ただこの魔法は自分自身にしか使えないため、他人の姿は変えることは出来ない。キュクレイの言葉にわたしは首を傾げた。


「禁書を読んだお前なら、変化の魔法は使わなくても姿を変えることが出来る方法を知ってるだろう?」


キュクレイの言うように、禁書には竜や魔物の召喚以外にも書かれているものがあった。それは「呪詛魔法」である。


「もしかして…呪詛魔法を使うの?」

「そうだ」


呪詛魔法というのは、文字通り「呪い」のこと。

この魔法をかけられると相手の姿を何にでも変えることは出来るが、かけた本人が解かない限り一生そのままの姿で居続けることになるのだ。


禁書を読んでいたときは「こんな魔法もあるんだ」くらいにしか思ってはいなかったが、考えてみると恐ろしい魔法だ。


「でもなんで呪詛魔法でシヴィルの姿に?」

「トリスはまだ魔法具を持ってる。このまま互換魔法を使ってもトリスが再び魔法具を使えば、体が入れ替わる。それでは堂々巡りになるだろう?」

「キュクレイがいるなら心配ないと思うけど」


トリスと入れ替わったとき、わたしは馬車ではなく川辺にいた。今キュクレイが互換の魔法を使ったとしても、彼がいるなら魔法具を使うトリスを簡単に止められそうな気がする。


「その入れ替わり方は魔法具特有の物だ。残念だが互換の魔法は魔法具と違って、魂があるところに体が引き寄せられる」

「それって…どういうこと?」

「俺が今互換の魔法を使ったら、お前はこの場所でシヴィルに戻るということだ」

「…トリスは?」

「今何をしているかは知らないが、その場で突然トリスに戻ることになるな」


今のシヴィルは学院に行っている時間だ。そんな公の場でシヴィルが突然トリスになったら…大変なことになるだろう。


「それは…大問題だね」

「つまり俺が魔法を使ったとしても、トリスに魔法具を使われたら、その大問題の渦中にお前が巻き込まれることになる」

「…それは嫌かも」


ふとここであることに気付いた。

わたしはトリスと体が入れ替わったというのに、トリスの所持している筈の魔法具をわたしが持っていなかったのはなぜだろうか?


「ねぇキュクレイ。トリスと体が入れ替わったのに、どうして魔法具はトリスが持ってるの?」

「互換の魔法具は使用した者のところに戻るようになっている。もし相手に道具が渡ればこの道具の意味がないからな」

「なるほど」

「とにかく、これからお前に呪詛魔法をかけてシヴィルの姿にする。その後、互換の魔法を使ってお前を本物のシヴィルの体に戻す」

「うん」

「それなら、入れ替わったことをトリスに気付かれることなく、お前を元の体に戻すことが出来る」

「…うん」

「準備はいいか?」


わたしはキュクレイの言葉に頷いた。

学院にシヴィル姿のトリスがいる限りまだ戻ることは難しいが、元のシヴィルの姿に戻れば少なくとも魔法が使えるのだ。


「…戻ったぞ。気分はどうだ?」

「え?もう?」


呪詛魔法も互換魔法も一瞬だった。


呪詛というくらいだから痛みを伴うのではないかと内心ドキドキしていたのだが、どこか痛むどころか何も感じなかった。

とにかくわたしは自分がシヴィルに戻ったことを確認するため、奇術魔法で鏡を出してみた。


「…戻ってる」


奇術魔法で出した全身鏡には、シヴィルの姿が映し出されていた。魔法も使えたということは、わたしは元のシヴィルに戻ったのだ。ちなみにこの全身鏡は、バハルト王の自室にあったものだったりする。


「あとは魔法具をトリスから奪えばいい。ただ学院に行くときは変化の魔法を使ってトリスになれ。そうしないとシヴィルが二人いることになるからな」

「分かった。色々ありがとうキュクレイ」

「…ああ」

「ところでアドラ。さっきの話の続きが気になるんだけど」


もう一度言おう。アドラの話は面白いのだ。


キュクレイが現れる前、隣国の王子を巡る貴族の女性達の話を聞いていたのだが、それがまるで昼ドラのような展開だったのだ。しかもその後どうなったかを聞く前に彼が現れ、話が終わってしまった。


わたしがいそいそとアドラのところに行く姿を、キュクレイは呆れた様子で見ていた。

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