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ⅩⅩⅠ

「お前ら…またここで花見をしているのか」

「あっ!魔王様!また一緒にどうですか?」

「アニエス。そこにあるお醤油取ってくれる?」

「えッ!天ぷらにつけるのは塩でしょ!」


月日が流れるのは早い。気付けばもう、学院三年目の春を迎えていた。つまり今回で花見をするのは二回目になる。


わたしとフリードの恋愛騒動も、一年経った今は落ち着いていた。しかし人の噂も七十五日と言うが、わたし達の噂はその三倍は要した気がする。


キュクレイはアニエスには何も言わず、無言でわたしの左隣に座った。ちなみにコーネリアとアニエスは、料理をはさんで向かい側に。オーディはわたしの右隣に座っている。


キュクレイがわたしの隣に座ると、オーディは不機嫌そうにムスッとしていた。おそらくわたしの隣にキュクレイが座っているのが気に入らないのだろう。


とりあえず彼の機嫌を直すため、わたしはオーディの好きな苺の乗ったショートケーキを奇術魔法で出した。


「俺の機嫌を直そうとしても無駄ですよ」

「食べないの?」

「…食べます」


オーディはわたしからケーキを受けとると、黙々と食べ始めた。無駄と言いながらも、美味しそうにケーキを食べる彼には、思わず笑ってしまう。しかしこの魔法は本当に便利だ。


「シヴィル殿下。私にもモンブランを出して頂けませんか?」

「あ!私も三色団子と桜餅と酒饅頭とわらび餅ときな粉大福と…ええっと」

「シヴィル様。俺もショートケーキを」

「…シヴィル。大変だな」


そんなに一遍に話されても困ってしまうのだが。しかもいつの間に食べ終わっていたのか、ちゃっかりオーディも注文している。キュクレイも同情した目でわたしを見るくらいなら手伝って欲しい。特にアニエスの分を。


とりあえず、コーネリアにモンブランを。アニエスに三色団子と桜餅と酒饅頭と…忘れた。オーディには二個目のショートケーキを出してあげた。


「シヴィル殿下。わらび餅ときな粉大福が足りないです…」


足りないのはわらび餅ときな粉大福だったか…


それにしてもこれだけあれば充分な気がする。アニエス一人でこんなに食べきれるのだろうか?しかし出さないとまた催促されるだろう。とりあえずアニエスには、追加でわらび餅ときな粉大福を出してあげた。


「ありがとうございますッ!殿下はまるでドラ○もんみたいですねッ!」

「アハハ!それはわたしも思ったわ」

「シヴィル様をドラ○もん扱いするな」

「あらオーディ!あなたもシヴィル殿下にケーキ頼んでいたじゃないッ!」

「ドラ○もんって何だ?」

「…なんだろうね」


ドラ○もん…わたしが連想したのは真っ先にマッチ売りの少女だったが。


というのもこの世界の魔法は、詠唱することなく、頭の中で強く鮮明に思い浮かべるだけで発動するものが多い。わたしがラフィムに封印魔法をかけられたことを気付かなかったのはそのためだ。


でも確かに出して貰う側にしたら、この魔法はドラ○もんの道具に思えるかもしれない。しかしキュクレイに22世紀のネ○型ロボットと言っても通じないだろう。とりあえずわたしは知らないふりをしておいた。


「そ・れ・よ・り・もアニエス!私もシヴィル殿下もあと一年で結婚するのよ。あなた本当に誰かいい人いないの!?」


コーネリアにそう言われて、わたしはふとオーディを見た。


初めて会ったときはあんなに可愛らしかったオーディも、17歳になった今は、鍛えられた浅黒い肌に男性らしい顔立ちになっていた。


オーディは部下からも信頼されていて、頼りがいがあって、皆に優しい。最近また騎士団の訓練場に女性達が増えてきているのは、きっとオーディが原因だと思う。


わたしは知らなかったのだが、実はオーディの婚約話は沢山あり、今でも後を絶たないようだ。そう思うと、彼は本当にわたしと結婚してしまっていいのだろうかと考えることもある。


「えー。またその話?特にいないよ」

「でもあなたも商人の娘なんだし、跡継ぎが必要でしょう?いっそシルファと結婚しちゃったらどう?!」

「絶対ヤダ!」

「それなら魔王とか!」

「え~魔王様かぁ~ちょっと違うんだよね」

「お前…」


つい自分のことで頭がいっぱいになってしまっていたが、今はアニエスの話をしていたことを思い出す。


アニエスはちらりとキュクレイの顔を見て言うと、キュクレイは嫌悪感を露にしていた。コーネリアはそんなキュクレイの表情を見て笑い転げていた。


そういえば…アニエスの推しがフリ×シヴィと言うのなら、フリードはどうなのだろうか?そう思って試しに聞いてみた。


「フリードは?」


二人が出会った頃は、フリードはだいぶアニエスを嫌っていたようだったが、最近の彼はアニエスに優しい気がする。


「え!フリード様ですか?」

「確かに!!アニエスなら何言われても凹まないし、ドSなお兄様にピッタリよね!」

「うーん。フリード様かぁ」

「否定しないところをみると、脈ありってことかしら!?でも私はぜーったい協力しないわよ!」

「えー!でも私は、結婚したシヴィル殿下をフリード様が誘拐して監禁するというのに期待しているので却下します!」

「フリードならやりかねないわね!」

「二人とも…怖いこと言わないでくれる?」


実は学院であのBL本が流行った時期、フリードが驚きの言葉を言ったのだ。


「でももしあなたが誰かに盗られてしまったら、私もあの本のようにあなたを監禁してしまうかもしれませんね」


フリードは冗談混じりに言っていたようだったが、コーネリアの言うようにわたしも、彼なら本気でやりかねないと思って笑えなかった。


「シヴィル様「フリードは魔法が使えないのだろう?何かあれば転移魔法を使って、俺のところにくればいい」

「え?そうか…キュクレイの塔に居れば見つからないかもね」


確かにフリードは魔法が使えないので、封印魔法を使われることもない。誘拐されて拘束されたとしても、転移魔法は無詠唱で使えるので、そのまま転移してしまえば安全だ。万が一のことがあれば…その手段を使おうと思った。


「オーディったら!殿下の前だと、いつも肝心なところで格好つかないわねぇ!」

「オーディ様!どんまいッ!」


オーディが何か言いかけていたようだったが、キュクレイに話しかけられたわたしは、彼の言葉を聞き取ることは出来なかった。コーネリアもアニエスもそんなオーディを指してケラケラと笑っている。


…というより


アニエスはともかく。先程からコーネリアのテンションが異常に高いのは気のせいだろうか?


「コーネリア…とアニエスも。もしかして酔ってる?」


そう思って二人に近付いてみれば、やはりお酒の匂いがした。しかしわたしはお酒を出した覚えはない。コーネリアもアニエスもオーディもここへ来るときは手ぶらだったはずだ。あと思い当たるのは…


わたしは訝しげにキュクレイを見た。


「…前回の花見のときに、こいつら酒が足りないって言ってたからな。まさかこんなに飲むとは思わなかったが」


二人とも…そんなことを言っていたのか。


彼女達の前には、空の一升瓶が数本転がっていた。前世は成人していたかもしれないが、今のわたし達は未成年だ。こんなに飲んで大丈夫なのだろうか。


「魔王様!見た目に似合わず気が利きますね!」

「花見の片付けもしてくれたものね!見た目に似合わず!」

「シヴィル…こいつらに転移魔法使ってもいいか?」

「それなら俺も手伝う」


キュクレイの言葉に反応したのはオーディだった。先程の二人の言葉を彼は根に持っているのだろう。


しかし二人にお酒を出したのはキュクレイだ。彼女達はこのお花見を楽しみにしていたし、少しくらいの無礼講はあってもいいだろう。そう思ってわたしは話題を変えた。


「…ところでキュクレイ。あれからラフィムのところには行った?」

「お前いきなりだな…まぁ、いい。エルフの里ならあれから一回行った」


エルフの里から帰ったわたしはキュクレイに、ラフィムの事情を話し、エルフの里に遊びに行ってあげて欲しいとお願いしていた。


祖母のケツァは、わたしに遊びに来て欲しいと言っていたが…別にキュクレイでも問題ないだろう。


「…どうだった?」

「わざわざ閉じ込めなくても友人にくらいなってやる。と言ったそばから、地下室に閉じ込められたな。万が一のことを考えて魔封じ避けをしていたからすぐに出られたが。やはりあいつは元々ああいう性格だ。とにかく俺はもう二度と行かない」


キュクレイには悪いが、わたしの代わりに彼をエルフの里に行かせておいてよかったと思った。これでわたしもエルフの里にはもう行くことはないだろう。


「シヴィル殿下…」

「コーネリア?どうしたの?」


先程までご機嫌だったはずのコーネリアの顔が、今は真っ青になっている。アニエスはというと…コーネリアの隣で爆睡していた。


「き、気持ち悪いです」

「えっ!?」

「コーネリア。お前飲み過ぎだ!」

「まて!そこで吐くなッ!」


ちょうどコーネリアの前にはキュクレイがいる。今にも吐きそうなコーネリアにキュクレイは慌てていた。

わたしは急いでコーネリアを移動させようと立ち上がったが、どうやら遅かったようだ。


暗晦(あんかい)の森にはキュクレイの叫び声が響き渡った。

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