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「シヴィル。この子が魔法騎士団長の息子のオーディだ」


タイタム王が紹介したのは、短髪赤毛の浅黒い肌をした少年だった。魔法騎士団の制服だろうか?彼は黒地の軍服を着ていた。ちなみに今日のわたしは、きちんと正装をしている。


「お目にかかれて光栄です。シヴィル殿下」


そう言ってオーディは胸に手をあてわたしにお辞儀をした。5歳の子供が軍服で敬礼する姿は、なんだか可愛らしい。


「これからオーディはシヴィル専属の騎士になるために魔法騎士団に入隊する。羨ましい」


本音がもれている。王の言葉に驚いたのだろう。オーディは目をぱちくりさせていた。


「ではオーディ下がって良いぞ」

「は、はい」


まだわたしは彼と一言も話してはいないが。

オーディは戸惑いながらも、王とわたしに最敬礼をし、部屋から出ていった。彼は5歳とは思えないほどしっかりしていた。


「父上。魔法騎士団長は本日いらっしゃらないのですか?」


昨日バハルトに聞いたときは分からないと言われた。

先程オーディといなかったということは、彼は来ていないのだと思うが、もしかしたらと密かに期待してしまう。


「シヴィ!私というものがありながら、騎士団長の話をするなんて。言ってくれれば仕事なんぞ放り出して、遅くまで遊んでやるぞ!」


騎士団長が来ないことが分かると、わたしは早々に部屋から出た。タイタム王が何か言っていたが気のせいだろう。



魔導書を取りに書庫へ向かう途中、オーディが少女と親しげに話をしていた。

彼女は可愛らしいプリンセスラインの黄色いドレスを着ていて、栗色の髪はきっちり編み込まれている。遠目からで顔は見えなかったが、彼女はきっと可愛いのだろうと思った。


彼女はオーディの婚約者だろうか?

この国では幼い頃から婚約関係を結ぶことが多かったりする。

魔法騎士団長の息子ならば、婚約者がいてもおかしくはないだろうが、なぜ婚約者が城に居るのだろうか?

オーディ達に気付かれないよう、隠密(ステルス)魔法を使いわたしは彼らに近付いてみた。


「シヴィル殿下に会ったんでしょ?どうだった」


少女は興奮してオーディに詰め寄る。どうやらわたしの話をしていたようだ。近くからみた少女は、パッチリとしたつり目で、思っていた通り可愛いかった。


「人形みたいに可愛いかったよ。俺も結構イケメンだと思うけど、シヴィル殿下には負けるな」


オーディはこんな性格だったのか…なんだか残念だ。

しかしこの世界にはイケメンという言葉はなかったはずだ。オーディは一体どこでそんな言葉を聞いたのだろうか。


「羨ましい。私も魔法騎士団になりたかったわ。そうしたらシヴィル殿下との婚約破棄なんて起こらずに、推しの殿下の側にいられるんですもの」

「確かファンプリだったか?俺には信じられないけど、本当にお前がシヴィル殿下の婚約者になるのか?」

「そうよ。シヴィル殿下の10歳の誕生日パーティーにわたしとの婚約が発表されるの」


彼女はまるで未来が分かるかのように話している。彼女達の話に興味を持ったわたしは、とりあえずもうしばらく様子を見ることにした。


「そして学院に入学するとき。シヴィル殿下はヒロインと恋に落ちて、卒業パーティーの日に私は殿下から婚約破棄を告げられるの」

「でも婚約破棄される理由は、コーネリアがヒロインを虐めていたからだったろ?お前が虐めなければ婚約は破棄されないんじゃないか?」

「そうするつもりだけど、うまくいくかしら」


彼らの話はいまいちよく分からなかったが、気になることがあったわたしは二人に声をかけてみた。


「面白そうな話をしてるね」


隠密(ステルス)魔法を解除して、わたしは二人に話しかけた。

わたしの姿を見ると、オーディも彼女も顎が外れるんじゃないかと思うほど、口を大きく開けて驚いた。


「シシシシシシヴィィィィィルででんか。ななななんで」

「で、殿下。なぜこちらに?」


どもっているのが彼女。わたしに聞いたのはオーディだった。


「二人は転生者なの?」


オーディの質問には答えずに聞いてみる。わたしの言葉にオーディは目を大きく見開いた。


「まさか!シヴィル殿下も転生者ですか!?」


やっぱり二人もわたしと同じ転生者だったようだ。

オーディの問いに、わたしは困ったように笑って、頷いた。


「コーネリア良かったな!殿下が転生者なら婚約破棄イベントは起こらないかもしれないぞ」


オーディが彼女の肩をポンと叩いて言う。


「ええっと。コーネリア?でいいのかな?はじめまして」


わたしが挨拶をすると、コーネリアが驚いたようにわたしを見た。


「殿下は私のことをご存知ない!?まさかファンプリをプレイしたことがないのですか!」

「男がそんな乙女ゲームするか!」


コーネリアの問いに直ぐ様オーディが突っ込む。ファンプリとは乙女ゲームのことだったのか。二人は中々良いコンビだと思う。


「わたしは前世も今も女性だけど、そのゲームはやったことはなかったと思うよ」


わたしが女だということは城の者以外には秘密なのだが…同じ転生者である彼女らには伝えても大丈夫だろうと思った。


「女性ですって!どういうこと!?」

「おおおおおおお、女」


さっきとは真逆な反応だ。

どもっているのがオーディ。質問してきたのがコーネリアだった。


「わたしがうまれたとき。王が私を男と間違えたんだ。でも王は言い訳をして間違えを訂正しなかったんだよね…」


あの頃を思い出しながら、わたしは遠い目をした。


「もしかして、シヴィル殿下だけ裸のスチルがなかったのはそういうことだった…って訳じゃないわよね」


裸?

わたしが眉をひそめて彼女を見ると、彼女は申し訳なさそうにして言った。


「興奮してしまい申し訳ありません。私はバーンクル閣下の娘のコーネリアと申します」


コーネリアは両手でドレスをつまみ上げてお辞儀をした。彼女の姿はとても上品で、先程とは全くの別人に思えた。


「シヴィル殿下。信じられないとは思いますが、今ここにいる世界は私が前世夢中になっていた乙女ゲームの世界で、あなたはそのゲームの攻略対象者なんです」

「は?」


わたしが乙女ゲームの攻略対象者?コーネリアの発言にわたしはポカンとした。


「これから詳しくお話致します」



コーネリアとオーディと別れた後、わたしは書庫へは行かず自室のソファーにいた。


コーネリアの話によると、この世界はファンシープリンセスという乙女ゲームの世界だそうだ。


乙女ゲームの攻略対象者は

魔法騎士団長のオーディ。

魔法騎士団副長のイクシオ。

コーネリアの兄のフリード。

レモラン猊下の息子のシルファ。

平民のルドラ。

そしてカトレバス国王子のわたし。

魔力に長けているわたしは、魔法騎士団員以外で唯一魔法が使えるチートキャラクターらしい。だから魔導書を読んだだけで魔法を覚えることが出来たのだと納得した。


ちなみにコーネリアの父のバーンクル閣下とオーディの父の魔法騎士団長が親友だったため、その子供の二人は生まれた頃から一緒にいたそうだ。まさか二人とも転生者とは驚きだが。


乙女ゲームが始まるのは学院に通いはじめる15歳のときで、その頃のオーディは既に魔法騎士団長になっているそうだ。

攻略対象者達は学院で出会うのが基本だが、平民のルドラだけは隠しキャラクターらしく、平民街に行かなければ出会えないらしい。


そしてコーネリアはヒロインの当て馬役の悪役令嬢である。

コーネリアがヒロインを虐めることによって、ヒロインが攻略対象者達に庇われ、彼らとの仲を深めていくそうだ。

そして卒業パーティー当日、ヒロインを虐めていたことをわたしに咎められ、コーネリアは婚約破棄をいい渡される。

そしてヒロインと攻略対象者は結婚して幸せに。

コーネリアは地位を剥奪され、平民へと成り下がる。


なんだかありがちな話である。

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