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ⅩⅤ

春休みが終わり学院生活も二年目に入った。


午前の授業が終わり、わたしは、コーネリアとアニエスとオーディの四人でレストランに来ていた。今日は全員一致で和食だ。


相変わらず学院では変わったこともなく、アニエスもシルファ以外の恋愛イベントは全く起こらないようだった。


「アニエス。あなたシルファのことが好きなの?」

「全然」


コーネリアの問いにアニエスは否定したが、彼女は婚約パーティのときにシルファと踊っていたのをわたしは見ている。


「でもアニエス。君は婚約パーティのときにシルファと踊っていたよね?」

「ダンスフロアにいれば、殿下とフリード様のダンスを間近で見られると思ってOKしたんだけど…」

「そういえばシルファに思いっきりキスされてたわよね」

「そうよ!すごく良いところだったのに!邪魔するなんて酷いわ!」


怒るところが違うと思うが、アニエスは頬をプゥっと膨らませた。隣でコーネリアがその頬をつついている。


「ブハッ!っと。私はいいんです!それよりシヴィル殿下はどうなんですか!?」

「どうって…言われても」

「私の推しはフリード様ですけど、最近はオーディ様も有りかなって思ってます!という訳でどちらにしますか?」


どっちの洋服にしますか?みたいなノリで言わないで欲しい。わたしが困っていると、後ろにいたオーディがため息をついた。


「アニエス。シヴィル様を困らせるな」

「え?そんなことないですよ!殿下はオーディ様が自分が好きことを知っ…モガッ」

「アニエス。私あなたに聞きたいことがあったのよ。ちょっと良いかしら?」


アニエスが口を滑らせるよりも先に、コーネリアはアニエスの口を手で塞いだ。彼女がいてくれたおかげで助かった。

コーネリアは席から立ち上がると、そのままアニエスを引っ張ってどこかへ行ってしまった。


「…シヴィル様」


二人がいなくなるのを見計らって、オーディは突然真剣な顔をして話しかけてきた。


「俺の気持ちを…知っていたんですか?」


残念ながら、コーネリアの気遣いも無駄だったようだ。鋭いオーディにはバレていたらしい。


「まぁ…ね」

「いつからですか?」

「春休みに」

「どうして…分かったんですか?」


そう言われてわたしは言葉が詰まってしまった。正直に話すべきだろうか。


「少し場所を変えましょうか」


答えにくそうにしているわたしの様子を見て、まわりに人がいるせいだとオーディは思ったのかもしれない。


わたし達はレストランから出ると、人が来ない学院の裏庭に向かった。


「シヴィル様。俺は貴女を愛しています」


さきほどの質問に答えるものだと思っていたわたしは、突然のオーディの告白に驚いて声が出なかった。


「でも俺は貴女を困らせるつもりはありません。俺はあなたの側にいられればそれで」


側というのは、護衛騎士としてということだろうか。


心臓がドキドキしている。おそらく今のわたしの顔は真っ赤になっているだろう。わたしはこの胸のドキドキが、不安に対するものだと思い込んでいたかったのかもしれない。


以前アニマペインにも言ったが、たとえわたしがオーディを好きだとしても、王子という立場では公の場で結ばれることは叶わない。ムウラ王妃に言えば、喜んでわたし達を結婚させると思うが、わたしが王子である以上それは変わらないだろう。


わたしはオーディを好きなんだと思う。しかしわたしは彼の気持ちには答えられなかった。


わたしが何も言わないでいると、オーディは苦笑して「教室に戻りましょうか?」とだけ言った。わたしが頷き歩き始めると、彼は何も言わずにわたしの後ろについて来た。



その日の夜。わたしはコーネリアの部屋に来ていた。

彼女はもう寝る準備をしており、可愛らしいネグリジェを着ている。


「やっぱりバレてしまったんですね。オーディはああみえて意外に鋭いですから」


オーディに結局バレてしまっていたこと話すと、コーネリアはそのことを予想していたようで、驚くことはなかった。


「それで…オーディのことを好きなんですよね?」

「そう…だと思う」

「オーディが聞いたら気絶しそうね。つまり、彼を好きだけど、立場場結ばれることはないってことですね」


コーネリアはうーんと腕を組んで考えているようだ。そんな彼女の姿はベッドの上であぐらをかいている。


「とりあえずこのことは、私に任せて頂けませんか?」

「任せてって…どうするの?」

「殿下にはバハルト様との仲も取り持って頂きましたし、次は私が一肌脱ぐ番です!」


そう言ってコーネリアはガッツポーズをする。なんだか今日のコーネリアはわたしよりも男らしい。


「さて。その話は私が何とかするとして、他に話したいことがあるんです。殿下は、シルファのイベントだけが進んでいることはご存じですよね?」


コーネリアが言ってるのは、前にアニエスが言っていた、シルファの恋愛イベントだけが何故か起こるという話のことだろう。


「実はシルファルートに入ると、二年目の夏にシヴィル殿下とシルファの決闘が行われるんです」

「えっ!?」

「あ。決闘と言っても、剣ではありませんよ」


決闘と聞いて、魔法騎士団の練習試合のように剣で戦うと思ったのだが、どうやら違ったようだ。


「海で遠泳競争です」

「いや。無理だよね」


何故そこで遠泳が出てくるのか分からないが、本当にファンプリは自由なゲームだと思う。


「水着のことでしたらご心配なく。シルファは水着姿ですが、ゲームの殿下はTシャツに短パン姿です」

「…濡れたらバレるよね」

「魔法で乾かしてしまえば問題ありません」


シルファもわたしが魔法を使えることを知っているし、泳ぎ終わった後すぐに乾かしてしまえば問題ないと思う。しかしそれ以前にわたしは聞きたいことがある。


「何でわたしがシルファと戦うの?」

「アニエスの争奪戦です。シルファが王子がヒロインのことを好きだと勘違いして決闘を申し込むんです。ゲームの王子はそんなシルファの意図を汲んで、わざと負けるんですけどね」


この話の流れだと、わたしはその決闘を受けるしかないように思える。しかし遠泳というのは…どうにかならないだろうか。


「剣ではダメなの?」

「シルファは聖職者ですから、剣は扱えません」


この世界の貴族の男性は基本皆、幼い頃に剣を学ぶ。王子であるわたしも剣は使えるため、てっきりシルファも剣を扱えると思っていた。


「決闘の話はそろそろ出てくると思います。シヴィル殿下頑張って下さいね」


コーネリアの目はキラキラしている。この目はイベントを楽しみにしている目だ。彼女は残念がると思うが、わたしはシルファに決闘を申し込まれても断ろうと思った。



コーネリアに一肌脱ぐと言われて一月(ひとつき)が経ち、わたしとオーディの関係も前と変わらず、わたし達は普段と変わらない日々を過ごしていた。


しかしそんな日々も、突然やってきたシルファの一言によって覆された。


「シヴィル殿下。あなたに決闘を申し込みます」


午後の授業が終わり、ルドラに話しかけられる前に急いで帰ろうと思い教室から出ると、そこにシルファが待ち構えていた。


「断る」


一刻も早くルドラから離れたかったわたしは、彼に即答すると、全速力で駆け出した。皆がいなければ、教室で転移魔法を使えるのにといつも思う。


「シルファは一体何でシヴィル様に決闘を申し込んだんですか?しかも彼は剣を扱えないはずですが」

「コーネリアが言うには、アニエスの争奪戦だって。決闘の内容は海で遠泳」

「またイベントですか。それにしても遠泳って…」


ルドラを避けた後、わたし達は学院の中庭に来ていた。


わたしの答えにオーディは呆気に取られているようだ。それはそうだろう。決闘と言えば剣と決まっているこの世界で、遠泳なんて聞いたことがない。


「シヴィル殿下ーッ!」


この可愛らしい高い声は振り向かなくても分かる。アニエスだ。


「アニエス。今日は昼に来なかったね。何かあったの?」


いつもお昼を食べるときは、コーネリアとアニエスの二人は必ず一緒にいた。そんな彼女が昼に来なかったのだが、同じクラスのコーネリアに聞いても分からないと言われ、気になっていた。


「ずうっっと、シルファが私に付いてくるんです。あれはもう情事後の状態ですよ!」

「お前…そういうことを大声で言うなよ」

「オーディ様は黙ってて下さい!ところで殿下。シルファから決闘を申し込まれませんでした?」

「申し込まれたよ。断ったけど」


アニエスの呼び方が、いつの間にか「シルファ様」から「シルファ」になっている。彼女は本当に迷惑しているのだろう。

わたしが答えると、彼女は嬉しそうに目を輝かせた。


「さすがシヴィル殿下!決闘イベントをぶち壊しちゃえば、先には進みません!ありがとうございますッ!」

「…遠泳なんて出来ないしね。アニエスが望んでいたらどうしようかと思ったけど、安心したよ」

「もし決闘イベントがあったら、私食べられちゃってましたよ!シルファは言葉攻めばかりですし、○○○(ピー)○○(ピー)のときに場所を間違えるシルファはお呼びではな…ッ!」


放送禁止用語を使ったアニエスに、オーディは沈黙魔法を使ったようだ。それでも彼女は気にせず話を続けているのだろう、口をパクパクさせている。


「シルファよりも、こいつが一番ヤバイと思うのは俺だけか」


オーディの言葉にアニエスは怒っているようだが、ごめんアニエス。そんな発言をされた後では、わたしは何もフォロー出来ない。しばらくすると、アニエスは大人しくなった。


「もう気は済んだか?」

「…ッ!もう!突然魔法をかけるのは止めてください!」


アニエスが頷くのを見て、オーディが魔法を解いたようだ。沈黙魔法が解けると、アニエスはオーディに怒り始めた。


「おまえがシヴィル様の前で、品のない発言をするからだろう…」

「むぅ。そんなこと言って、前に殿下がうたた寝していたときにオーディ様ったら…ッ!」


アニエスが何か言いかけようとしていたが、再びオーディに魔法をかけられたようだ。


「わたしがうたた寝してたときにって…昨日の昼食後のこと?」


アニエスに尋ねると、彼女はブンブンと首を縦に振った。次にオーディに目を移すと、彼は苦笑していた。


「何をしたの?」

「な、何もしていませんよ」


そう言うオーディをジッと見たが、彼は中々口を割ることはなかった。ということでわたしはアニエスの沈黙魔法を解いてから聞く。


「アニエス。オーディは何をしたの?」

「…何かをしたわけではないのですが、オーディ様は殿下と…」


話の途中でアニエスは消えた。どうやらオーディが彼女に転移魔法を使ったようだ。


ここまで隠されると余計に気になるのだが仕方がない。これ以上詮索することは止めることにした。

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