ⅩⅣ
「オーディ様。いつみても格好良いわ」
「あのサラサラの赤い髪に触れられたら…」
「剣を振っているオーディ様の顔って素敵」
魔法騎士団の訓練場には大きな窓がいくつもついており、そこには目当ての騎士団員を見ようと、大勢の女性人が窓に張り付いていた。
「彼女達が見に来てるのは、ほとんどオーディね」
「こうやって見ると、オーディ様以外はパッとしない顔ですからね。他の人は眼中にないんでしょう」
まだ学院は春休み中であったが、魔法騎士団員だけは休みの日も腕が鈍らないよう、常に訓練をしている。ただ今日は普通の訓練の日ではなく、以前にもあった練習試合の日だった。
「シヴィル殿下。王子の姿のままでしたら浮いていましたよ。女性の姿で来て正解でしたわね」
「確かに…いつもの服ではここには居づらい…ね」
黄色い声援を上げてる女性人の中に一人、王子がいたら異様に見えるだろう。訓練場に行く前、コーネリアに「必ず女性の姿でいらして下さい」と言われたときは何故かと思ったが、ここへ来てみて納得した。
「あ!コーネリアのことが大好きなイクシオ様ですよ」
「あのドMね。オーディにボコボコにされればいいわ」
「オディ×イクシオかぁ…うーん。萌えないなぁ」
散々言われているイクシオの姿はガタイが良く、茶色い髪も坊主に近い。見た目は騎士というより戦士という感じだ。彼にもファンの子はいるようで、イクシオの名前を呼ぶ声もちらほら聞こえる。
「しかしここからだと人が多すぎて良く見えないわね。中に入れないかしら」
「訓練中は騎士団以外は入ることは出来ないから、諦めるしかないね」
「でもシヴィル殿下が一言オーディ様に言えば、入れてもらえそうですけど」
「そうよね」
そう言って二人はジッとわたしを見る。
「彼等の練習の邪魔をするわけにはいかないからね。そんなに見ても今回は無理だよ」
「そう…ですわね」
「うーん。やっぱり近くで見たい」
アニエスはそうつぶやくと「ちょっと聞いてくる!」と言って、訓練場の入り口に走っていった。
「もうアニエスったら。思い付いたら、動かずにはいられないんだから」
「彼女は本当に素直で真っ直ぐだね」
「物は言い様ですね…殿下はどうかそのままでいてください」
しばらくするとアニエスが満面の笑みで戻ってきた。
「オーディ様もイクシオ様も殿下とコーネリアが居るって言ったら、喜んでOKしてくれたよ!さぁ行こう!」
ということで、わたし達は窓に張り付く女性人に睨まれながら、魔法騎士団の訓練場の中に入っていった。
*
「今日はまた雰囲気が違いますね。その姿もお似合いですよ」
オーディが言うのはおそらく髪型のことだろう。
わたしがドレスを着るときはいつも、髪を下ろしていたのだが、今回は髪を編み込んでアップにしている。
「コーネリア!俺に会いに来てくれたのか!」
「そんな訳ないでしょイクシオ。わたしはバハルト様以外に興味はないわよ。あっちへ行ってくれる?」
「コーネリアは冷たいな。でもそこが魅力的だよ」
本当にイクシオはドMのようだ。
コーネリアに冷たくあしらわれたにも関わらず、彼はうっとりとした表情で彼女を見ている。
「オーディがオススメ出来ないって言った理由がよく分かったよ」
「あんな変態に貴女を渡すわけにはいかないですからね」
「でもシヴィ×イクシオなら萌えるかも」
「萌えるな」
さすが、いつもコーネリアに突っ込んできたオーディ。彼の突っ込みはコーネリアよりも早かった。
「騎士団長。そちらの方々は?」
「あぁ悪い。彼女達は俺の友人なんだ」
この姿のわたしを王子というわけにもいかない。オーディはわたし達を友人として騎士団員達に紹介した。
「コーネリア様はお会いしたことはありますが、そちらのお二方は?」
「私はアニエスよ!こちらの絶世の美女様はティリア様です!」
ティリアというのは私のことだろうか…?絶世の美女というのは大げさなのでやめて欲しい。
しかし名前を名乗れずにどうしようかと思っていたところを、アニエスが機転を利かせてくれたのは助かった。
「確かに…ティリア様はお綺麗ですね。なんというか王女様のような感じに見受けられます」
「そうなんですよ!中々見る目ありますね!」
騎士団員はお世辞で言っているのだろうが、そのことに気付かないアニエスは激しく頷くと、彼の腕をとりブンブンと振っている。
「シ…ティリア様。試合中は危険ですので、あちらのお席で観賞なさっていて下さい」
「そうだね。ありがとうオーディ…様」
「ッ!」
幼馴染みのコーネリアはともかく。わたしがオーディを騎士団員達の前で呼び捨てにしていたら、怪しく思われるだろう。
とっさにオーディを敬称で呼ぶと、彼も驚いたようだ。
「オーディったら、まだ試合前なのに悶えてるわね」
「シヴィル殿下に敬称で呼ばれたから、萌え苦しんでるんですね!羨ましいッ!」
とりあえずオーディに言われた通り、壁際にある椅子にわたし達は腰を下ろした。ここは彼等からは離れているので、わたし達の会話は聞こえない。
「そういえばアニエス。シヴィル殿下につけたティリアって名前はまさか…」
「はい!ヒロインの源氏名です!」
「源氏名って…どういうこと?」
何か嫌な予感がするが…つい気になって聞いてしまったことを、わたしは後々後悔することになる。
「ファンプリのバッドエンドが、高級娼婦のNo.1になるというものなのですが、そのときのヒロインの源氏名がティリアなんですよ!」
「…娼婦」
「シヴィル殿下。アニエスは頭が弱いので、気になさらないでくださいね」
わたしが眉間に皺を寄せるのを見て、コーネリアは必死にフォローをしてきた。
「と、ところでシヴィル殿下。オーディとは普通に話が出来ていたようですね。安心しました」
オーディにキスをされてから、わたしは彼に顔を会わせるのが恥ずかしかった。キスをされたことは知らないが、コーネリアもそのことには気づいていたようだ。
しかし彼はわたしの護衛騎士であるため、避けるわけにはいかない。最初は必死にポーカーフェイスを装っていたが、普段と同じ態度のオーディに、わたしも意識せずにいられるようになった。
「あっ!練習試合始まりましたよ!」
アニエスに言われ、わたし達は騎士団員達に目を向けた。どうやらオーディとイクシオが戦うようだ。
魔法騎士団とは言うが、練習試合は剣技訓練が主のようで、お互いに剣技のみで戦っている。
「…すごい」
剣と剣のぶつかる音が響き渡る。イクシオは体が大きい分、剣を振ったときの威力が強いのだろう。彼が剣を振るとこちらの方まで風圧が届く。しかしオーディは、そんなイクシオの剣を難なく受け止めた。わたしは思わず声が漏れた。
「オーディって本当に強かったのね」
「私も顔だけだと思ってたのでびっくりです!」
相変わらずオーディに対しての扱いが酷い二人だが、今回の試合を見て、彼を見直したようだった。
「あっ!イクシオ様がおされてます!」
アニエスの言う通り。あの体の大きいイクシオが、オーディの剣を受け止めきれずに怯んだ。
「勝負…ありましたわね」
イクシオが怯んだ隙に、すぐにオーディが二撃目を入れて、剣をはじきとばした。試合にはオーディが勝ったようだ。
「オーディ!コーネリアが見てるんだから、手加減してくれてもいいじゃないかッ!」
「試合で手加減出来るわけないだろう」
イクシオはオーディに抱きついて泣きじゃくっている。オーディの服はイクシオの涙と涎でベトベトだ。
そういえば以前の練習試合のときに、彼は服が汚れたと言っていたことを思い出す。まさか彼は試合が終わる度に泣きじゃくっているのだろうか…
「なんというか…酷い光景ね」
「そう…だね」
「私もイクシオ様の見る目が変わりました…」
他の令嬢達はこの副団長の姿をどう思うのだろうと思い、わたしはふと窓の外へ目を向けてみた。
意外なことに、ドン引きしていた人はなく、彼の姿を見て一緒に泣いてる人が多かった。よくよく考えてみれば、窓の外には声が聞こえない。彼女達は何か酷い思い違いをしているのだろう。
「さて、オーディの試合も終わったし。行きましょうか」
「そうですね!他の方は興味ありませんから」
そう言って二人は立ち上がると、試合の終わったオーディの元へと駆け寄った。二人の発言に驚いたわたしはすぐに反応出来ず、後から彼女に続いた。
「オーディ!私達を魔法で家まで送って頂戴!」
「オーディ様。よろしく!」
「お前ら…」
オーディはハァとため息をつくと、コーネリアとアニエスを転移魔法で送り届けた。
「何てことを!まだ俺はコーネリアとお別れのキスをしていなかったのに」
コーネリアが居なくなり、近くにいたイクシオは膝をついて落ち込んでいる。オーディはそんな彼を見ることもなく、今彼の側にたどり着いたわたしに目を向けた。
「…ティリア様。今日は何故…練習試合にいらっしゃったのですか?」
「実は…魔法騎士団の練習試合というから、魔法で戦うのかと思って」
そう言ってわたしは苦笑した。オーディも「なるほど」と納得して困ったように笑った。
「では今回は満足して頂けなかったかもしれませんね」
「想像してたものとは…まぁ違ったけどね。剣技も迫力があって中々面白かったよ」
「それでしたら良かったです」
その後オーディは「引き止めてしまって申し訳ありません」と言うと、転移魔法でわたしを城に送った。




