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ⅩⅢ

「シヴィル殿下?確かエルフの里に行かれたはずでは…?」


わたしは今、バーンクル家に来ている。

エルフの里に行っていたと思っていたわたしが、今コーネリアの前に現れて驚いたのだろう。彼女は目をパチクリさせた。


「色々あってね。結局行かないことにしたんだよ」

「まぁ…勿体無い」


今の時間は正午過ぎだ。バーンクル家はいつも昼食を早めにとることをコーネリアから聞いていたわたしは、この時間であれば、彼女も暇をしているのではないかと思った。


「ちょうど暇を持て余してたんです。どうぞお座りになって下さい」


どうやらわたしの読みは当たっていたようだ。


コーネリアに言われて、わたしは近くにある白いソファーに腰を下ろした。ソファーの前には、可愛らしい猫足の白のローテーブルが置かれている。


「それで、殿下が私の家を訪ねてくるなんて初めてですね。何かありましたか?」


コーネリアの言う通り、わたしがバーンクル家に来るのは初めてだった。


今日わたしがコーネリアのところへ訪ねたのは、昨日のこともあって、城にいるオーディと顔が合わせづらいと思ったからだ。


本当のことを言うのも気がひけたわたしは、コーネリアに苦笑する。そんなわたしを見て、彼女はすぐさま口を開いて言った。


「もしかして、オーディに告白されました?」

「!?」


驚いて声が出なかった。わたしの様子を見て、コーネリアはニヤリと笑う。


「やっと告白したんですね。シヴィル殿下が女性だって分かってから、オーディはずーっと殿下を可愛い可愛いって。本当に煩かったですから」


わたしが女性だと分かってから?

オーディは最近までコーネリアのことを好きだったはず。どういうことだろうか。


「?オーディは最近まで君のことが好きだったはずじゃあ」

「は?何を気持ち悪いことを言っているんですか。オーディとはオムツをつけたときから一緒にいるんです。お互いそんな風には見られませんよ」


気持ち悪いとまで言われてしまった。しかし、オーディがずっとコーネリアのことが好きだと思っていたわたしは、彼女の話をすぐに信じることが出来なかった。


「それで、何と言って告白されたんですか?」

「…告白されてないけど」

「えッ!!?」


告白されてないわたしから聞くと、コーネリアの顔はしまった!という表情を浮かべた。


「早とちりしたわ。オーディが自分で気持ちを伝えるまで、内緒にしておこうと思ってたのに…」


どうやらコーネリアはオーディが自分からわたしに告白するまでは言わないつもりであったらしい。普段はオーディに厳しくしている彼女だが、本当は彼に優しかった。


「でも今までオーディの気持ちに気付かなかった殿下が、なぜ突然気付いたのですか?」

「それは…」


さすがに、キスされたからなんて言えない。

どう答えようかとわたしが悩んでいたときだった。


「コーネリア!遊びにきたよーッ!」


バンッと扉を開けて部屋に飛び込んできたのはアニエスだった。


「ちょっとアニエス…扉が壊れるじゃない。今日は何の用?昨日も会ったじゃない」

「だって暇なんだもの!殿下もいな…あれ?殿下?」

「こんにちはアニエス」


アニエスはコーネリアの時と全く同じく、わたしを見て目をパチクリさせている。しかしすぐに嬉しそうな顔を浮かべると、こちらへやってきて言った。


「殿下!お花見しましょう!」

「え?!」

「はぁ?!」


突然のアニエスの言葉に、わたしとコーネリアは驚いた。なぜ急にお花見が?


「だって春なんですよ!春と言えばお花見です!」

「そんなこと言ったって…この世界には桜はな…」


コーネリアは「ない」と言おうとしたのだろう。確かにカトレバス国には()()()()以外に桜はない。そのことに彼女は気付いたようだ。


「まさか…あんな場所でお花見をするの?」


あんな場所というのは、暗晦(あんかい)の森のことである。薄暗くて静寂に包まれたあの場所は、とてもお花見をするような場所ではないと思う。


「夜のお花見みたいで、楽しそうだよね!」

「夜のお花見ってよりも、肝試しのお花見って感じね…」

「それって斬新で素敵!じゃあ明日の昼、殿下のところで待ち合わせね!お弁当忘れずに」

「えっ!ちょっとアニエス待ちなさい」


肝試しのお花見のどこが素敵なのかは分からないが、とにかくアニエスはお花見がしたかったようだ。コーネリアの制止も聞かず、彼女は行ってしまった。


「まぁ…たまにはいいんじゃないかな」

「そ、そうですわね。桜もあの森に行かないと見られませんもの」


こうしてわたし達は明日、暗晦(あんかい)の森でお花見をすることになった。



「お前ら…こんなところで…一体何をしている?」


桜の木の下でお弁当を広げ、三人で話に花を咲かせていると、眉間に深い皺を寄せたキュクレイが現れた。


「あ!魔王様!お花見ですよ。一緒にどうですか?」

「花見…だと?」

「魔王様はお花見を知らないんですか?桜の花を観賞しながら、美味しい物を食べて、春の訪れを感じる重大イベントのことですよ!」

「一年中咲いてるけどね」


コーネリアの突っ込みにも動じず、アニエスは美味しそうにサンドイッチを頬張った。


「よく分からないが…つまりその花見をするのに、俺の幻術魔法を解いて、ここにいるということか?」

「大丈夫ですわ。モグモグ。終わったら…モグモグ。殿下が…モグモグ」

「そうです…モグモグ。魔王様!心配しなくても…モグモグ」

「お前ら…口の中の物を飲み込んでから話せ」


サンドイッチを美味しそうに頬張るアニエスの姿を見て、コーネリアも口いっぱいにマフィンを頬張っていた。


「キュクレイ。賑やかにして悪いけど、わたしもコーネリアもアニエスもこの花が気に入っているんだ。幻術魔法は必ず掛け直すから、見逃してもらえないかな?」


わたしは困った表情を浮かべ、キュクレイに言ってみた。もし怒られても仕方がない。その時はすぐに切り上げようと思った。


「この花が好きなのか?…お前がそう言うなら構わない。好きなだけいるといい」

「キャーッ!魔王様!太っ腹!」

「心が広いわね。お言葉に甘えて好きなだけいさせて頂くわ」


キュクレイの言葉に、アニエスは手を叩いて喜んでいる。コーネリアも嬉しそうだ。


そんな二人にキュクレイはフンと鼻をならし、わたしの隣に座った。どうやら彼も一緒にお花見に参加するようだ。


「さて!気を取り直して。シヴィル殿下。昨日の続きを聞かせて頂きますわよ」

「昨日の続き?なになに何の話?!」


昨日の続きというのは…オーディのことだろう。


あの後アニエスが来て、話がそれたので安心していたのだが、コーネリアはいつもしっかり覚えている。


「オーディの気持ちに、殿下はどうやって気付いたのですか?」

「えっ!?気付いちゃったんですか?それ私も気になりますッ!」

「どういうことだ?」


コーネリアはそう言ってわたしに詰め寄る。アニエスも興味津々のようだ。キュクレイに関しては不快そうな表情をしている。


「…オーディに好きって言われたんだ。彼はわたしが寝ていると思っていたみたいだけど」

「あら。寝ているときにしか告白出来ないとか、相変わらずオーディは殿下のことに関しては臆病ね」

「なんだぁ。私、ちゅーとかされたのかと思って、期待しちゃいました」


アニエスは鋭い。一瞬、ちゅーの言葉に驚いたが、なんとか心を落ち着けて何事もないようにわたしは振る舞った。キュクレイは何も言わず、ジッとこちらを見ている。怖い。


「それで、オーディの気持ちを知った殿下は、彼をどうお思いですか?」

「どう…と言われても。わたしはそういう風に見たことはなかったから」


オーディを好きかと聞かれても、わたしは分からない。わたしは彼に限らず、他の異性もおなじように見ていた。


「あらオーディ様、失恋ですね」

「まぁ。顔は良いから…いくらでも彼女は出来るでしょ」

「そうだね!確かに顔は良いしね!」

「お前ら…酷いな」


二人の言葉だと、オーディは顔以外何の取り柄がないように聞こえる。わたしは彼が少し不憫に思えた。キュクレイも同じように思ったようだ。


「あらまぁ。恋の話?楽しそうね」

「…母上」

「アニマペイン様キターッ!」


声のする方を見ると、スリットの入ったドレス姿の妖艶な女性がこちらを見てにっこり笑っていた。


この人がキュクレイの母親のアニマペインのようだ。確かに彼女はキュクレイによく似ている。


「久しぶりねキュクレイ。それにあなた。私のことを知っているの?」

「はいッ!あなたは恋愛の神様です!」

「あら。まぁ」


コーネリアやアニエスにとっては、攻略対象者の好感度をMAXにする彼女は、恋愛の神様に見えるかもしれない。

アニマペインはアニエスにそう言われて満更でもなさそうな顔をしている。


「あなた、好きな人はいないの?」

「私が好きなのはフリ×シヴィです!」

「まぁ。そうなのね」


なんということだろう。アニマペインはこの世界の住人だというのに、アニエスの言葉の意味が分かったようだ。

案の定、わたしの横にいたキュクレイは「フリシヴィって何だ?」と首を傾げている。


「でも私は、あなたとあなたが愛してる異性しか結びつけることが出来ないの」

「えぇッ!同性を結びつけるのは駄目なんですか。ショックです」


アニエス、わたしは女だよ。という突っ込みを何回すれば、彼女は分かってくれるのだろうか。それにしても、彼女はどのようにして異性を結びつけることが出来るのか気になる。そんな魔法はなかったはずだ。


「あなたは…もう相手がいるようね」

「ええ。私には必要ありません」


次に彼女が聞いたのはコーネリアだった。コーネリアはバハルトとの婚約が決まっているので結びつける必要もない。


「あなたは…」


わたしも好きな人を聞かれるのかとドキドキしていたのだが、彼女はわたしの顔をまじまじと見て言った。


「あなた、わたしの息子と結婚する気はない?」

「え?」


わたしが驚きを隠せないでいると、隣にいたキュクレイが大きくため息をついた。


「今日はそんなことを言いに俺のところへ来たわけではないだろう?一体何の用だ?」

「あら。キュクレイったら。相変わらずつれないわね」


アニマペインはにっこりと笑うと、わたしの隣に腰を下ろした。今わたしは、キュクレイとアニマペインに挟まれている状態だ。


「でも今回は本当にあなたの結婚相手を探しに来たのよ。キュクレイったら、こんな森いるんだもの。出会いなんてないでしょう?」

「それなら要らぬ心配だ。帰れ」

「それは残念ね。ところであなた。名前はなんと言うの?」


アニマペインはキュクレイから視線を外すと、再びわたしに話かけてきた。


「シヴィルです」

「シヴィル?この国の王子と同じ名前をしているのね」

「彼女は王子だ」


彼女はわたしが王子だとは思わなかったのだろう。わたしをジッと見て「なるほど」とつぶやいた。


「女の子なのにおかしいと思ったのよ。王子だからそんな格好をしていたのね。」

「女だと気付いていたのですか?」


もしかしてアニマペインも「匂い」で性別が分かるのだろうか?しかし彼女は違ったようだ。


「あなた男にしてはあまりにも可愛らしいもの。もし男だったら魔法で女にしていたわ」


アニマペインがさりげなく恐ろしいことを言ったのは、気のせいだろうか?

確かにわたしは、オーディやフリードと比べたら小柄で華奢に見える。しかし学院の皆には、わたしが王子だという先入観のせいだろうか。全くバレることはなかった。


「それで、キュクレイと結婚する気はないかしら?」

「わたしは王子という立場ですから。たとえ恋人が出来たとしても、公の場で結ばれることは叶いません」

「そんなことないですよ殿下!公の場でフリード様とイチャイチャしてくれたら皆が喜びます!」

「アニエス。それはあなたが見たいだけでしょ」


わたしが真面目に答えているというのに、アニエスは相変わらずわたしとフリードをくっつけることしか考えていないらしい。


「母上。俺のことはいいだろう。彼女をあまり困らせるな」

「キュクレイあなた…そう。分かったわ」


アニマペインは突然立ち上がると「これで失礼するわ」と言って転移魔法を使った。彼女は隣国に戻ったのだろうか?


「私達もそろそろお開きにしましょうか?」

「そうだね」

「私もうお腹一杯!」

「片付けと幻術魔法は俺がやっておく。もう外は日が暮れる頃だろう。お前達は先に帰れ」


やはりキュクレイは優しい。彼のお言葉に甘えて、わたし達は先に城へ戻ることにした。

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