表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その村には人魚が沈んでいる  作者: 小波
プロローグ
1/37

残像

 全てが赤かった。

 男の怒号と女の絶叫、視界を切り裂いて落下する二つの影。──水音。

 覚悟はしていたはずだった。だが、想像よりもその音は低く、不吉な響きを帯びていた。芯から突き上げる震えに襲われ、倒れ込むように膝を着く。抑えても抑えても歯の根が合わず、舌を噛み切る恐怖さえ覚える。

 全てが赤かった。

 身を引き絞るような静寂の後、圧倒的な力に阻まれた悲鳴が水面に響き渡った。あがくしぶき、声にならない声、おぞましい腐水の匂い、そして……。

 込み上げるえずきに耐え切れなくなり、身を二つに折って胃の中のものを吐き出す。いや、まるで何かに引きずり出されるかのように、勝手に汚物が喉の奥から地面へと撒き散らされる。


──嫌だ──!


 発作的な嫌悪が、びりびりとしびれるように全身を襲った。息も出来ず、かすむ両目から熱い涙をほとばしらせる。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ、いやだ!!

 その時。

 背後で、がさ、と藪をかき分ける音がした。とびのいて振り向く。あたかも追いつめられた小動物のごとく。はねる鼓動、凍りついた視界。そこには。

 ……全てが赤かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ