表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

9



「あの日から七年……月日の流れるのは本当に早いものだな、メアリー」


 食堂窓辺。共に中庭を見下ろしつつ、隣に立つコンラッドは紅茶片手に感嘆を漏らした。

 剃髪の痕跡すら無い、見事な濃茶色のオールバック。そして最近生やし始めた、ふさふさの口髭。本人曰く、最近読んだ小説の探偵に憧れてとの談。だが生憎、私は美青年達が愛を語り合う高尚文学しか嗜んでいないので、誰をリスペクトしたかはとんと分からなかった。

 庭では先月七歳になったばかりの娘が元気に駆け回り、昨夜作ったばかりの凧を揚げている最中だ。新しい玩具に全意識を注ぎ、彼女は前方を顧みず突進。その横をあたふたしながらメイドが追走していた。


「危ないですよ、キュー様!ああっ、そっちには楓の樹が!!」「わーい!」


 微笑ましい日常に安堵を覚えつつも、出て来るのは重い溜息ばかり。忠実な家人も考えは同じらしく、傾けたカップの奥で眉根を寄せた。

「……まだ未発見のキャリアがいるとすれば子供。それも親に捨てられた者達の中だろう」

「ああ」

 あれからもランファには時折暇を出し、成人キャリアを捜索させてはいた。が、芳しい成果は上がらず仕舞い。そもそも見つけ出そうとしているのは、一個人の手に余る異能だ。何ら保護を受けず、大人まで生存している可能性は極めて低い。

 提案に、現在複数の事業のスポンサーを務めるコンラッドは深く首肯。窓を離れ、長テーブルに向かいゆっくりと歩き出す。

「だったら私が行こう。裕福な見た目の方が、引き取り許可も得やすい。それに保菌者同士、惹かれ合う物があるかもしれない」

 振り返らずとも見える。一張羅のスーツを着込む逞しい背には、最早かつての孤独は微塵も存在しない。

 空のカップを胸に抱え、ああ、酸欠で喘ぐように応えた。


「身勝手な母親の頼みだが……どうかあの子に、キューに友達を連れて来てやってくれ……」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ