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「あの日から七年……月日の流れるのは本当に早いものだな、メアリー」
食堂窓辺。共に中庭を見下ろしつつ、隣に立つコンラッドは紅茶片手に感嘆を漏らした。
剃髪の痕跡すら無い、見事な濃茶色のオールバック。そして最近生やし始めた、ふさふさの口髭。本人曰く、最近読んだ小説の探偵に憧れてとの談。だが生憎、私は美青年達が愛を語り合う高尚文学しか嗜んでいないので、誰をリスペクトしたかはとんと分からなかった。
庭では先月七歳になったばかりの娘が元気に駆け回り、昨夜作ったばかりの凧を揚げている最中だ。新しい玩具に全意識を注ぎ、彼女は前方を顧みず突進。その横をあたふたしながらメイドが追走していた。
「危ないですよ、キュー様!ああっ、そっちには楓の樹が!!」「わーい!」
微笑ましい日常に安堵を覚えつつも、出て来るのは重い溜息ばかり。忠実な家人も考えは同じらしく、傾けたカップの奥で眉根を寄せた。
「……まだ未発見のキャリアがいるとすれば子供。それも親に捨てられた者達の中だろう」
「ああ」
あれからもランファには時折暇を出し、成人キャリアを捜索させてはいた。が、芳しい成果は上がらず仕舞い。そもそも見つけ出そうとしているのは、一個人の手に余る異能だ。何ら保護を受けず、大人まで生存している可能性は極めて低い。
提案に、現在複数の事業のスポンサーを務めるコンラッドは深く首肯。窓を離れ、長テーブルに向かいゆっくりと歩き出す。
「だったら私が行こう。裕福な見た目の方が、引き取り許可も得やすい。それに保菌者同士、惹かれ合う物があるかもしれない」
振り返らずとも見える。一張羅のスーツを着込む逞しい背には、最早かつての孤独は微塵も存在しない。
空のカップを胸に抱え、ああ、酸欠で喘ぐように応えた。
「身勝手な母親の頼みだが……どうかあの子に、キューに友達を連れて来てやってくれ……」