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 バンッ!「何やっている、餓鬼共!!!?」


 温暖なこの地方には珍しく、朝から随分冷え込む日だった。妖族の老人が凍え切った身体を抱え、『ホーム』へ迷い込むのも無理無い程には。

 介抱を子供等が、特に愛娘が率先してやりたがった時点で気付くべきだった。研究がここ数ヶ月進まず、思わず飯の席で愚痴を零せば、次に何を考えるか位は。

「ママ……!」

 キューは小さな拳を握り締めつつ、自分達の行為の結果に淡々と視線をやった。

 四人の子等に取り囲まれたベッド。全身に血膿の発疹が出た老人は幸い、ヘイレンと違って眠ったまま息を引き取っていた。

「馬鹿な事を!」ヒュッ、パンッ!「っ!馬鹿はそっちだよ!!」バシッ!「チッ!?」

 まさか即反撃してくるとは思なかった。流石は我が娘、と言った所か。ジンジンし始めた頬を押さえ、自分の幼少期と瓜二つな顔を睨み付ける。

「ママだって、本当は分かってるくせに!こうするのが一番手っ取り早いって!!」

「だからって手当たり次第に投与出来るか!?外に行けない事は謝る。全部私の」

「違うんです、メアリーさん!」

 娘を庇うように隣へ立ち、泣きながら弁解する“緑”。彼女の肩へ手を置き、“蒼”も首を小さく横に振った。

「桜の言う通りだ。キューはあんたを心配して、その上でこいつをやったんだ」

「私を、だと?ハッ!まだ分別の付かない餓鬼の分際で」

「子供だからだよ!!私を治すためにママ、もう何年もずっと籠もりきりで……本当はやりたい事一杯あるんでしょ?なのに……」

 潤み盛り上がったアメジストの瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。


「―――ママ。生まれてきて、本当にごめんね……」頭が文字通り、真っ白になった。


「私さえいなかったら、きっともっと自由に生きられたのに……ねえ、ママ」

 止めろ!頼むから止めてくれ!!謝らなければならないのは、不甲斐無い母親の私の方なのに……!

「私、一生治らなくてもいいんだよ。ママが元気にさえなってくれたら、それで……産んでもらった意味はあるから」

「……馬鹿を、言うな……!!」

 子供を踏み台にする親なんざ、最低以外の何者でもない!

「ママ!!?」

 余りのいたたまれなさに、無意識に研究室へ逃げ込んだ。途端、失敗作ばかりの机が目に入り、更に惨めな気分に襲われた。思わず頭を抱え、扉を背に入口へ蹲る。


「これもお前を殺した罰なのか、ヘイレン……嗚呼、だとしたら何て罪作りな男だ。反吐が出過ぎて、私は、私は……!!」




 コン、コン。慟哭の室内に響く、遠慮がちなノック。

「申し訳ありません、メアリー様。私が、ちゃんとあの子達を見てさえいれば……」

 扉の外で啜り泣くランファに、いや、お前のせいじゃないさ……、慰めを口にする。

「悪いのは私だ。あの子達の考えを予見出来なかった挙句、あんなにも追い詰めてしまった」

 ガンッ!肘をドアに叩き付ける。

「全く、情けない母親だよ……手前でさえなかったら、宇宙一惨たらしく殺してやれるのに」

 曲げた腕を戻しつつ、ゆっくりと起立。続いて奥のストレッチャーへ手を伸ばし、入口へ移動させてから扉の内鍵を外した。

「メアリー様?」

「遺品の処分を頼む」

 冷静に命じ、再度客室へ。そして、おい!微動だにせず立ち尽くした四人へ喝を入れた。

「病理解剖の時間だ。見たくない奴はとっととベッドへ行け」

 殊更粗暴に告げ、赤衣のポケットから取り出したビニール手袋を嵌める。と、目の前に差し伸べられた四つの掌。

「頂戴、ママ」

「私もお願いします」

「俺もだ」

「皆物好きだなあ。あ、勿論僕もね」

「……ケッ。ほらよ」

 手袋を配布後、まだ温かい遺体をシーツで包み、全員でストレッチャーへ乗せる。


 ガラガラガラ……ガタン。「先に言っとくが、私の人使いは荒いぞ。素人だからって一切容赦はしないからな」「望む所よ」


 地下へ続くエレベーター直前。私の放った脅し文句に、餓鬼共は揃いも揃って真剣な面で頷いてみせた。



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