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「―――あの、ジョシュア。遺体は、本当に何もされていなかったの?」「おや。どう言う意味だい、桜」


 興味深げに片眉を上げる彼へ、聡明な少女は問う。

「だって棺桶って普通、各隅を釘で打ち付けるでしょう?なのにあなたの口振りだと、警察はきちんと全ての遺体を検めた風だったわ。つまり発見時、棺は開放状態だった……のではないかしら。どう?」

 返答を聞くまでもない。語り部は満面の笑みを浮かべ、黒目をキラキラさせた。

「大正解だよ、名探偵殿。ついでに言えば、どの死体からも頭蓋骨の一部が盗まれていたんだ。尤も大人達は無能過ぎて、横から覗き込んだ僕しか気付いてなかったけどね」

「ああ……成程、そっち方面の話なのね。如何にもあなたらしいわ」

「桜ちゃん、何か閃いたの?うーん。でもお化けが犯人なら、骨を持って行くなんてするかなあ。死体が歩き出して街中がパニック!とかなら分かるけど」

 メアリー様、また変な本を与えられて……まあ、そこら中に置かれた例の薄いアレよりはマシですが。 

「キューが言うとホント緊張感が無いなあ」クスクス。「ところでアダム、医食同源って知ってるかい?ざっくばらんに説明すると、病気の所と同じ部位を食べて治すって民間療法なんだけど」

「人をアホ扱いするな。それ位知って」


「―――墓守のおじさん。実は病気で倒れて以来、ここが弱くなっちゃってさ」


 コツン、コツン。人差し指で自分の頭を叩く。

「処方箋とは別に彼、粉薬を服用していたんだ。白に少し黄みがかった奴を、毎朝欠かさず一包、ね。ま、効果が出る前に、自分が掘った穴で頚椎折っちゃったけど」


 絶句する家族を満足気に見、カルシウム「だけ」は足りてた筈なのにねー、語り部は最上級の含み笑いで幕を引いた。



 トリは勿論我等が主、メアリー様だ。

「こいつは私がまだ病院勤務していた頃の話だ。総合病院で、私は内科担当だった」

「あんたがか?心底行きたくねえな、その病院」

「何応。これでも当時は美人先生って大好評だったんだぞ」

 ぱふぱふ、枕を叩く。

「でな、診療やってると、患者の容態に因っては入院手続きもせにゃならん訳だ。私が診たあの娘も、そうやって病棟に入って―――不運にもその晩、火事に巻き込まれた」

「は?」

「亡くなられた、のですか……?」

 思わず私が口を挟むと、さあな、元医師は意味深に呟いた。

「だが、新築された病棟には未だに出るらしいぞ。火傷を負いながらも、必死に出口を求めて彷徨う彼女の霊が、な。尻窄みでガッカリしたか?」

「……あんたは後悔してないのか。そいつを入院させた事に関して」

「全然」

「だろうな」

 溜息の途中、ふと“蒼”は顔を上げた。

「おいDr、何故急にそんな話をした?あんたの事だ、俺がチビるような怪談のストックの十や二十は」

「フン、中々鋭いな。見直したぞ、義息候補一号」

「っ!?な、何を藪から棒にぬかしてんだよ、手前!!?」

 赤面する少年へ、はっはっは、常通りの反応のメアリー様。けれど私は気付いてしまった。天才のアメジストの瞳に宿る、形容し難い闇の存在に……。



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