表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/36

29



「では、次は私が。構わないかな?」

「どうぞ」

「いいなあ、皆ぽんぽん話せて」 

 如何にも残念そうな姫君に一礼し、忠臣が口を開く。

「尤もこれは実体験ではなく、私の師から聞いた話なのだが」

「お師匠様?へえ、初耳です」

 と言うより、彼が過去を語る事自体が珍しい。

 私の指摘に、そうだね、語り部は蟠り無く肯定。

「彼の世話になったのは、私がまだ子供の頃だったからね。まぁ、その話はまた今度にしよう。とにかく彼の生家には、代々一族に伝わる人形があって」

「ははあ、読めたぞ。大方髪が伸びるとか、寝ている間に金縛りに遭う類だろ?ハッ!そんな子供騙し、誰が怖がるかっての」 

 強がる少年に苦笑し、“金”は続ける。

「人形は厳重に、魔除けの札が貼られた桐箱に保管されていた。が、ある日押入れで遊んでいた男の子が、偶々札を剥がしてしまったんだ」

「封じの札って、また定番な……」

 呟きの大部分を占める純粋な好奇心。この気弱な女の子にオカルト耐性があるなんて、実に意外だ。元々植物の声が聞こえるし、超常現象には慣れっこなのかしら?

「―――翌朝。変わり果てた姿と化した少年は、押入れの布団の間から発見された。彼の五つの首には、荒縄で縛られたような痕。それも余程強い力で引っ張られたのだろうね。首が千切れた胴体は、生前より縦横共五十センチも伸びていたそうだよ」

「へ、へえ……」

 リアルにその血塗れ死体を想像したらしい。ランプの灯に照らされたアダムの顔色は、又もや真っ青だ。

「慌てて家族が件の桐箱を調べてみると、予想通り。人形の口端からは、一筋の赤い物が伝っていた。まるで今し方まで血を啜っていたかのように……ね」

 コホン。

「その人形、元の持ち主も夭逝だったらしい。納屋で遊んでいる最中、運悪く農作業用の縄が身体中に絡まって―――それは恐ろしい死相だったそうだ」

「ば、馬鹿馬鹿しい……所詮は伝聞の又伝聞じゃないか。その師匠とやらだって、手前で直接死体を見た訳じゃないんだろ」

 震える歯牙を悟られないよう、わざと寝返りを打つ。

「どうせ大人共の吐いた、悪戯防止用の嘘に決まっている」

「確かにね。でもだからと言って、呪いが存在しないとは言い切れないだろう?」

 溜息。

「ひょっとするとこの宇宙には、怨みを具現化するウイルスが蔓延しているのかもしれないよ」

「そいつは面白い仮説だな、コンラッド。だが私としては、素直に幽霊がいた方が面白いぞ。あと魔界とか、名状し難き外宇宙とかな。ロマンが満載だ」

 はっはっは!

「非科学的だ。俺は実体のある物しか信じない」

「じゃあ現実主義者のアダム向けに、今度は僕が実際遭遇した怪物の話をしてあげよう」

 あら、次はジョシュアね。未だに謎が多いけど、心霊現象にも遭遇済みなんて本当に不思議な子だわ。 

「えっと、二十年位前かな。地元新聞にも載った話だから、確認したければ御自由にどうぞ」

「話自体よりお前の方が余程ホラーな気がするのは、俺の気のせいか?」

「当たり前じゃないか」

 あっさり否定し、本題に入る“紫”。

「事件当時、僕は墓守のおじさんと暮らしていたんだ。家は墓地の手前、当然滅多に人なんて通らないトコ。―――何で住処にしたかって?別に深い意味は無いよ。強いて言うなら近所付き合いの希薄さだね。僕みたいな可愛らしい居候は、目立っちゃ色々と都合が悪いのさ」

 えへへ。本人はわざとらしいと思っているだろうが、私には充分無邪気な笑みに見えた。

「最初の一週間は、一晩に二、三個の墓が掘り返される程度だったんだ。でも週を重ねるにつれ被害は倍数的に増え、哀れおじさんの仕事はドンドン増えていった。ま、僕にまで作業が回ってこなかったから別にいいけどね」

「ケッ、万年只飯食らいのくせに」

「夢を配り歩いていると言ってよ。ところが税金泥棒共が幾ら調べても、棺や死体に異常は一切無し。愉快犯にしては悪質だよね」

「桜ちゃん、税金泥棒って誰?」

「多分警察官の事だと思うよ」

 ひそひそ。

「仮に心霊現象と人為的原因を除くと、残る可能性としては近所の犬が遊んでいたとか?」

 コンラッドさんの仮説を、馬鹿言え、専門家がバッサリ。

「腐肉と蛆虫塗れの土なんざ、鼻の利くあいつ等が好き好んで触るかよ」

「ふむ、それもそうだね。しかしだとすると、犯人の意図が皆目分からないな」

 一同が首を捻る中、そろそろ……と一本の腕が挙げられた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ