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「待て坊主!!?」「何をしている!?早く麻酔銃を撃て!!」「駄目だ、子供に当たる!!」


 背後の制止を無視し、最初に改札を潜り抜けたのは茶色い大型の四足動物だ。あれはまさか、ライオンか!!?

 雌で鬣こそ無いが、しなやかな四肢で場内を疾駆する様は、正に百獣の王に相応しい。首輪に付属する金色のプレートには、名と思しき速記体が刻まれていた。 

 彼女の約一メートル後ろを走って来たアダムは振り返り、追っ手を確認。忌々しげに舌打つ。

「人間共め!喋れないと思って、好き勝手な真似しやがって!!」

「アダム、何があったんだい!?」

 ようやく私達の存在に気付いた少年は、悪いなオッサン、今取り込み中だ!顎を逸らす。

「お前等が他の養子か?悪いが先に行っててくれ。俺は彼女を逃がしてくる」

「!?いや、待」

「おじさん、説得しても無駄だよ。こんな自分の状況も見えてない直情馬鹿は特に、ね」

 そうこうしている内に、逃亡者達は出口手前まで到達。対し、警備員三人は麻酔銃を構え、彼等に最終通告を述べた。


「チッ―――しょうがないなあ、全く!!」「「「っ!!?」」」


 叫ぶと同時にジョシュアが異能、“イノセント・バイオレット(純潔なる紫)”を発動。精巧過ぎる幻に囚われ、男達の歩みが停止する。

「効き目は二分が精々だよ」

「小父様、今の内に二人を追いましょう!」

「ああ!」

 桜の手を引き、三人揃って外へ。さて、アダム達は何処に―――いた!!

「止まれ、餓鬼!」

「五月蝿え!!」

 応援に駆け付けた駐在へ怒鳴り返し、地面に爪を突き立てて臨戦態勢の獅子の隣に立つ。その蒼い目は奪う者への憎悪に満ち、今にも相方を嗾けかねない最悪の雰囲気だ。

「くそっ!何だったんだ、さっきのは!?」

 しまった、もう暗示が解けたのか。となれば相手は武装した大人四人、対するアダム達は一人と一頭。とても勝ち目など、

「あんな同居人、本気で勘弁したいんだけど―――おじさん、車を回して!あるならトランクも開けといてね!!桜は」

「足止めするわ!」

 恐怖を振り払うように宣言し、地面に両手を付く。そうして臆病な少女は、囁くような声で語り掛け始めた。

「お願い、皆。二人を逃がすために力を貸して!」

 ザワザワッ……“ディライト・ビリジアン(喜びを齎す緑)”に呼応した雑草達が蠢き始め、密かに大人達の靴底へ纏わり付く。そして次の瞬間、


 ステッ!ズテッ、ズルドンッ!!「わっ!」「ぎゃっ!!」「何だ!?こいつ等急に転んで」「驚くのは後でも出来るだろ!いいから乗れ!!」


 船着場前にリムジンが到着したのは、大人達が転倒した正にそのタイミングだった。アクセルを吹かせながら、ハンドル横のボタンを操作。後部座席右側のドアとトランクが開き、三人と一頭が次々と雪崩れ込む。


 バタンッ!バタンッ!!ドスンッ!!「全員乗った!?」「ああ!」「早く出して、小父様!!」


 最後の桜の剣幕に押されるようにアクセルを全開にし、私は愛車を急発進させた。




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