表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/36

18



 少女の説明の甲斐あって、迷わずクッキー・グランマ宅へ到着。木製のドアの隙間からは、焼き菓子の香ばしい匂い。どうやら件のおやつの準備中らしい。

 訪問前に中を窺ったが、どの窓もレースのカーテンが掛かって殆ど見えなかった。仕方なく玄関口に戻り、チャイムを押して紳士的にノック。


 コンコン。「突然済みません。少々宜しいでしょうか?」「はいはい、今開けますねー」パタパタパタ、ガチャッ。


 現れた老婆は推定七十歳前後。調理中の証拠に、使い込まれたエプロンには所々小麦粉が付着していた。

「あら、素敵な殿方。ごめんなさいね、こんな格好で」

「いえ、こちらこそお邪魔して申し訳ありません。私、こう言う者です」

 常通りそれらしき肩書きの名刺を手渡す。エプロンのポケットから取り出した老眼鏡を掛け、研究所のベイトソンさんねぇ、はいはい、彼女は大仰に頷いてみせた。

「先程、そこの孤児院で小耳に挟んだのですが、お孫さんが一人いらっしゃるとか。失礼ですが医療機関に掛かった事は?」

「いいえ、一度も。ジョシュア坊やったら、昔からお医者さんが嫌いで。でも風邪一つ引かない子ですし、特に心配要らないかと」

「それは調べてみないと分かりませんよ。健康そうに見えて、意外な持病を持つ子もいますから」

 現に自分も“金”の副作用か、これまでとんと病を患った経験が無い。“赤”も潜伏状態のキューはともかく、発症済みのメアリーは年中風邪と無縁だ。ウイルスが免疫機能の向上に貢献している可能性は十二分にある。

 懇々と検査の必要性を説明するも、老女は余り乗り気ではない。まあ急な訪問の上での申し出だ。これでは押し売りと変わらない。


「済みませんねえ……坊やを心配して頂けるのは嬉しいですけど、今日の所はお引取り」「僕なら別に構わないよ、お婆ちゃん」


 奥からひょこっ、と顔を出したのは、黒髪をショートに揃えた九、十歳程の少年。いや。端正な目鼻立ちと言い、美少年と呼んでも差し支え無いだろう。

 無垢な黒い両眼で私を捉え、初めましておじさん、ジョシュアは純真な笑顔でペコッ。

「って言っても、僕の方は二回目だけどね。あ、メイドのお姉さんを入れたら三回かな」

「!!!?」

 混乱する私を他所に、ねえお婆ちゃん、少年は祖母へ語り掛ける。

「クッキーも後はオーブンから出すだけだし、雨が降らない内に買い物してきなよ。お留守番は僕がしててあげるから」

「え?で、でも……」

 私と孫を交互に見て困惑する様は、とても演技には見えなかった。

「このおじさんなら大丈夫だよ。ホントに心配性だなあ」

「そうかい?ジョシュア坊やがそう言うなら、行ってこようかねえ……」

 痛むのか、腰を庇いつつお辞儀。

「済みません。一時間で戻りますからその間、坊やを宜しくお願いします」

「分かりました」

 安心感を与えられるよう、私は努めて力強い口調で応じてみせた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ