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少女の説明の甲斐あって、迷わずクッキー・グランマ宅へ到着。木製のドアの隙間からは、焼き菓子の香ばしい匂い。どうやら件のおやつの準備中らしい。
訪問前に中を窺ったが、どの窓もレースのカーテンが掛かって殆ど見えなかった。仕方なく玄関口に戻り、チャイムを押して紳士的にノック。
コンコン。「突然済みません。少々宜しいでしょうか?」「はいはい、今開けますねー」パタパタパタ、ガチャッ。
現れた老婆は推定七十歳前後。調理中の証拠に、使い込まれたエプロンには所々小麦粉が付着していた。
「あら、素敵な殿方。ごめんなさいね、こんな格好で」
「いえ、こちらこそお邪魔して申し訳ありません。私、こう言う者です」
常通りそれらしき肩書きの名刺を手渡す。エプロンのポケットから取り出した老眼鏡を掛け、研究所のベイトソンさんねぇ、はいはい、彼女は大仰に頷いてみせた。
「先程、そこの孤児院で小耳に挟んだのですが、お孫さんが一人いらっしゃるとか。失礼ですが医療機関に掛かった事は?」
「いいえ、一度も。ジョシュア坊やったら、昔からお医者さんが嫌いで。でも風邪一つ引かない子ですし、特に心配要らないかと」
「それは調べてみないと分かりませんよ。健康そうに見えて、意外な持病を持つ子もいますから」
現に自分も“金”の副作用か、これまでとんと病を患った経験が無い。“赤”も潜伏状態のキューはともかく、発症済みのメアリーは年中風邪と無縁だ。ウイルスが免疫機能の向上に貢献している可能性は十二分にある。
懇々と検査の必要性を説明するも、老女は余り乗り気ではない。まあ急な訪問の上での申し出だ。これでは押し売りと変わらない。
「済みませんねえ……坊やを心配して頂けるのは嬉しいですけど、今日の所はお引取り」「僕なら別に構わないよ、お婆ちゃん」
奥からひょこっ、と顔を出したのは、黒髪をショートに揃えた九、十歳程の少年。いや。端正な目鼻立ちと言い、美少年と呼んでも差し支え無いだろう。
無垢な黒い両眼で私を捉え、初めましておじさん、ジョシュアは純真な笑顔でペコッ。
「って言っても、僕の方は二回目だけどね。あ、メイドのお姉さんを入れたら三回かな」
「!!!?」
混乱する私を他所に、ねえお婆ちゃん、少年は祖母へ語り掛ける。
「クッキーも後はオーブンから出すだけだし、雨が降らない内に買い物してきなよ。お留守番は僕がしててあげるから」
「え?で、でも……」
私と孫を交互に見て困惑する様は、とても演技には見えなかった。
「このおじさんなら大丈夫だよ。ホントに心配性だなあ」
「そうかい?ジョシュア坊やがそう言うなら、行ってこようかねえ……」
痛むのか、腰を庇いつつお辞儀。
「済みません。一時間で戻りますからその間、坊やを宜しくお願いします」
「分かりました」
安心感を与えられるよう、私は努めて力強い口調で応じてみせた。




