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 案内したベンチに掛けた途端、女性は胸を押さえ、深い前のめりになった。数回苦しげにえづいた後、懐から取り出した錠剤を水無しで服用する。

「不躾な質問ですが、何処かお悪いのですか?折角鍛錬を積んでいらっしゃるのに勿体無い」

「何故……ああ、貴方も武道家だったのか。道理で、普通のビジネスマンにしては身のこなしが違うと」

 大した事ではないさ、頭を小さく横へ振る。 

「昔負った怪我の後遺症で、時々貧血の症状が出るだけだ。にしても、そちらこそよく一目で分かったな。護身術と銃を少々やっている程度なのに」

「ふむ。お仕事は警察関係、ですかな?」

「ええ、まぁ……そんな所だ」

 言い澱む顔には強い苦悩の色。普段『ホーム』で気の強い女性ばかり相手にするせい、のみではない。ただでさえ対人スキルの低い身としては、内心かなりたじろいでしまった。

「ところで、あの孤児院に用があったのではないか?薬も飲んだし、私はもう平気だ。構わず行ってくれ」

「そうもいきません。行きずりでも病人を放置したとなれば、我が主に家を追い出されかねませんよ。元ですが、彼女はれっきとした医者ですので。―――そうだ、良かったらどうぞ」

 革鞄を開け、アップルジュースの缶を差し出す。子供達の警戒心を解くため、メイドに知恵を借りて用意した小道具の一つだ。他にも飴や一口チョコレート、玩具も三種類程常備している。

「何から何まで申し訳ない……では、有り難く頂かせてもらおう」

 プシュッ。プルタブを開け、舐めるように飲み始める。そのシャープな横顔を観察しつつ、私は話を切り出した。

「実はその主より、養子候補を捜すよう頼まれましてね。ただ彼女は些か変わり者でして、どうせ引き取るなら平凡でない子供がいい、と」

 幼子が周囲に異能を隠し通せるとは考え辛い。傍目には知的、或いは精神障害者と映っている可能性が高かった。

「あの院の関係者の方でしたら、何かお心当たりは」

「いや、残念だが違う。しかし」

 ズズッ。

「……非凡と言うのは、どの程度に?」

「正式な話は面談の後に決めますが、取り敢えず一通りコミュニケーションが可能で、後は変わっていればいる程グッドだと」

「……桜」

「え?」

「今の時間なら、森の東で『話している』筈だ。緑髪の女の子で、今年で八つになる」

 複雑な感情を忍ばせた目を伏せ、あの子は酷く臆病なのだ、どうか余り驚かせないでやってくれ、と続ける。

「随分お詳しいんですね。若しや御母上」

「いや、私はただの……親戚、だ」

 余り触れられたくないのだろう。未だ紫色の唇をキュッと閉じ、深々と頭を下げた。




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