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※この話は『花十篇 カーネーション』の続篇です。
前作のネタバレが多分に含まれますので、先にそちらを御一読頂けると助かります。
また、『前十篇』シリーズはオムニバス形式の作品です。
読む目安は、赤→灰→緑・蒼・白・黄→金→イレイザー・ケース→虹・黒となります。
可能であればその順番でお読み下さい。
「じゃあ、ちょっくら借りるよ」「はい、ごゆるりと」
階上への二種類の靴音を聞きつつ、レストラン・ダイアンの従業員兼店主。ランファ・ダイアン嬢は食器の後片付けを開始した。
店の看板メニューは彼女特製ハンバーグ。女一人の気儘経営のため、メニューは多い日でもデザート含め四種類。それでも家庭的な味付けと、生来の気立てのお陰だろう。幸いにも今日まで客足が途絶えた事は無かった。
デミグラスソースやケチャップを古紙で拭い、粗方綺麗になった皿を洗剤付きスポンジでゴシゴシ。続いて比較的汚れの少ない食器に取り掛かり、残らず水切り籠へ放り込んだ。
(二人共、今夜は多分泊まるつもりでしょうね。なら一応、朝食の準備もしておきますか)
麻製のクロスを使い、指紋一つ残さずグラスを磨き上げながら一人思案。
放浪画家のヘイレン氏に、医学研究者のメアリー・レイテッド。常連客の二人は週二、三回のペースでディナーに訪れている。特に示し合わせてはないらしいが、相手の姿を認めれば自然に同席し、杯と睦言を交わし合う程度の仲だ。
メニューは毎回同じ。万年財布の軽い画家は、一番安価なきのこハンバーグセット。対してメアリーは最高値のDXデミグラスセットに、必ずデザートで裏メニューのフルーツパフェを注文する。一体あの細身の何処に入るのか、仮令閉店間際でも惚れ惚れする程ペロリと平らげてみせた。
―――相変わらず物凄い食欲ですね、メアリーさん。
―――今朝から何も食べてないんだ。うっかり研究に夢中になっちまってね。
―――また?本当に子供みたいだなぁ、君は。
病院勤務を経、フリーの細菌研究者に転向したDrは現在、街から車で二十分の別荘に一人で暮らしている。初来店時の自己紹介通り、かなりアレな変人だ。ひょんな事から腐女子とバレ、しかも過去には同人誌作成に手を染めていたと知り、意気投合してしまった自分も大概だが。
―――別に狙っている訳じゃないけど、僕のパトロンって男ばかりなんだよ。メアリーみたいな美人の彼女がいるって知ったら、皆吃驚するだろうな。
―――何なら永久就職してもいいぞ、デカいネコちゃん。今の所、特に金には困っていないしな。三食おやつ位なら出してやれるぞ。
「二階の空き部屋を一晩貸してくれ」との頼みを承諾したのも、そんな友人達の将来を祝福しての事だ。画家は宿無し、かと言ってレイテッド宅は、購入以来ロクに掃除していないらしい。しかも田舎故、近隣にホテルはおろかB&Bすら皆無。だからと言って独り者、それも女性宅の一室を借りるのもどうかと思うが。
(まぁ、前金で結構貰いましたし、邪魔しないでおきましょう)
最後のグラスを食器棚に戻し、台拭きに手を伸ばしかけた瞬間。リリリン!早速二階からの呼出ベルが鳴った。何か用があれば、と友人に一応持たせた物だ。
「はいはい。今行きますよ」
階段を昇りつつ、何か足りなかったのだろうか、思案を巡らせる。一応乏しい知識を総動員し、必要そうな物は一通り用意しておいたのだけど。
通路手前の自室を通過し、奥のドアをノックする。
コンコン。「ああ、ランファか」「メアリーさん、どうかしましたか?」
まだコトに及んでいないのか、Drの声は至って平静だ。
「少々厄介な事になった。とにかく入れ」
「?はぁ……」
折角だから混ざれ、とか言う気ではないだろうな。変人の彼女なら提案しかねない。
気配でこちらの予想を察したのか、研究者はくつくつと笑う。
「あぁ、心配するな。別にお誘いじゃないさ。ヘイレンの奴も、そんな気は無いそうだ」
「……分かりました。では、失礼します」




