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彩也子(2)

 扉を開き、和室の方へと近付く。和室へ続く廊下から先は電気を消しており、全体的に暗い。廊下の右手側に引き戸があり、その先が和室となっている。

 アクション映画の明るい音声とは裏腹に、私の気持ちは下がっていく一方だ。

 この先に感じる不穏。どうか気のせいであってくれと思いながら、私はそろそろと足を前に動かす。


 和室の方から物音は聞こえない。何らかの存在を感じる事もない。それは生きている人間もそうでない人間についても。

私には少しばかり霊感があり、昔から何度かよからぬ気配を感じたり、声や音を聞く事があった。大人になるにつれてその感覚は鈍っていったのか、そういった存在を感じる事は少なくなったが、そういう事もあるせいで私は違う世界の存在について否定的ではない。

 

 和室の前に足を止める。引き戸は開いたままだ。そのまま私は部屋の中に入る。暗くて中はよく見えない。私は部屋の真ん中に垂れ下がる電灯の紐を引っ張り、間もなく部屋に光が灯った。ぐるりと室内を見渡すが、そこには誰もいなかった。


「……気のせいか」


 念のため部屋の戸締りを確認するが、全て鍵は閉まっている。誰かが入ってきたという事はなさそうだった。

 口には出してみたものの、あの物音ははっきりとこの部屋から聞こえた。それだけに、閉めきった空間で鳴り響いたあの音は、空耳の類ではなかった。

 ならば。

 

 背筋がぶるりと震えた。私の霊感はまるで作用していない。しかし、私の感覚が衰えてしまっただけならば、私が単純にそれを感じ取れていないだけかもしれない。


“……デ……ヨ”


 微かに。ほんの微かにだが、耳の奥、というより頭の奥の奥の方で何かが聞こえた。先程さして気にも留めなかったその声のような何かの断片。よっぽどこちらの方が先程の物音と比べれば気のせいで片づけられそうなレベルのものだったが、疑心に陥った私にはそうもいかなかった。


「……何よ」


 何でこんな時に二人はいないの。どちらかでも、誰かがいてくれたら、ここまで恐怖する事もないのに。




『♪♪オフロガ、ワキマシタ♪♪』


 私の気も知らずにまた暢気な機械音が聞こえた。

 こんな状況で一人で風呂に入る気になんてなれない。

 

 ――……ん?


 その時、違和感が頭の中にふと立ち昇った。何かがおかしい。でも何がおかしいんだろう。

 


 がたん!



「……ひっ!」


 突如鳴り響いた大きな物音に思考は遮られ、思わず悲鳴が漏れた。

 物音は、先程まで私のいたリビングの方からだった。


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