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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

「昨日の今日で依頼が来たよぉ」「うそだっ!」

作者: くものす

 カーテンの隙間から差し込んでくる、朝日に顔を照らされて俺は目を覚ました。辺りを見回してみると、自分が見慣れない部屋の中にいることが分かる。

 ここはどこだ?……あっ、そうか、そう言えば魔方陣に吸い込まれて異世界に来たんだったか。

 俺、荒井熊吉、17歳はある日、下校中に魔方陣吸い込まれて異世界送りにされてしまった――というのが、昨日の話である。

 俺は天蓋付きベッドから体を起こすと、クローゼットから適当な衣服を出して着替える。その時、階段をドタバタと上がる音とともに、子供の声が聞こえてくる。


 「くまさーん、朝ごはんできたよっ! ボクの愛情たっぷりだよぉ」


 声の主は、俺が居候している家の主人、クリス(年齢・性別不詳)である。見た目、整った可愛らしい顔立ちをしているクリスは、男でも女でも将来もてること間違いないだろう。しかし、ギルドに対して謎のコネを持っていたり、豪邸に一人暮らしだったり、俺が居た世界の知識があったり、ついでに白髪だったりと、正体は謎に包まれている。

 ――――――ハッ! あいつはもしや、異世界ファンタジーでは定番の神様的存在なのでは?


 そんなことを考えていると、クリスが部屋に入ってきた――扉を蹴破って。

 クリスに蹴破られた扉は、原型を保ったまま吹っ飛び、俺が先程まで寝ていたベッドに突き刺さる。


 「俺がまだ寝てたら、死んでたぞ!」


 今の俺の顔は青ざめているだろう。あんなダイナミック目覚ましを食らったら一生目覚めることはなさそうだ。


 「大丈夫だよっ! ギャグキャラは死なないから」


 その台詞、昨日も聞いたぞ。1日1回言わなければならないノルマ的なものでもあるのか? それと――


 「俺はギャグキャラじゃない!」


 「それはそうと、クリス。おまえって、もしかして……神様…なのか?」


 「え?」


 クリスの動きが止まり、こちらを心配そうな表情で見上げてくる。


 「え?」


 ――もしかして、違ってた?

 俺の言葉の意味を正確に理解したのか、クリスの顔に笑みが広がる。とても嫌な感じの笑みだ。


 「くまさん、精神科、紹介してあげようか?」


 「……」


 「……ふっ…ふふっ…あはははははっあははははははははははははは」


 床を転げまわって爆笑するクリスを壁にめり込ませた俺は、朝食をとるため1人階下に向かうのだった。


_______________________________


 「遅かったねっ! くまさんっ」


 階段をバク宙3回転でスルーした俺がダイニングルームのような部屋に入ると、当然のように席に着いていたクリスが出迎える。

 お前が早すぎるのだ。いったいどこで追い越した。

 黙って席に着いた俺は、テーブルに並べられた食事を見て驚く。焼き魚、ご飯、味噌汁、それに納豆まで――テーブルはこの豪邸にぴったりの、洋風の彫刻が施された高級そうな逸品なのに、その上に並ぶ料理が何故このチョイスなのか。……嬉しいけどさっ


 「いただきまーす」


 「いただきます」


 俺が席に着いたことを確認したクリスが元気よく声をあげ、俺もそれに続く。


 「クリスは料理できるんだな。味噌汁とか美味しく出来てるじゃないか」


 「えへへ~一人暮らしだからこれくらい出来て当然だよっ! でも、お味噌汁って意外と簡単なんだよ。魔法でお湯を注げば完成! それに、ご飯もお魚も最近はチンすれば直ぐにできるんだよ。知ってたぁ?」


 「知ってた。超知ってた」


 むしろ、お前が何故チンとか知ってるのか教えてほしい。先程、素直に褒めた俺の感動を返せ。大体、愛情たっぷりとは何だったのか?


 「それは、ほら、お味噌汁とかボクの愛情まりょくがたっぷり注ぎ込まれてるから、いいよねっ」


 クリスはキラキラとした何かを期待する目でこちらを見ている


 「……(食事に集中しろ、俺!)」


 期待する目でこちらを見ている。


 「……(食事にしゅうty)」


 こちらを見「よしよし、よくできた。いいこだなぁー」

 

 そう言って頭を撫でてやる。しかし、途端にクリスは不機嫌そうな表情になった。


 「ぶぅ、つまんなーーい!」


 こいつは一体、食事に何を求めているのか。


 「……という訳で、くまさん、依頼がきたよっ!」


 何が、という訳なのかさっぱり分からないが、問題はそこではないだろう。


 「依頼ってなんのことだ?」


 「えぇーくまさん昨日のこと忘れちゃったのぉ。グスッ、ひどいっ」


 目を潤ませて、上目づかいで睨み付けてくるクリス。

 ウ、ウソ泣きだってわ、分かってるからな!


 「……昨日のことって……まさか……」


 「そのまさかだよっ! たぶん。依頼が来たんだよ、何でも屋にっ! ヤッタネ」


 「どんな内容なんだ?」


 「この紙に書いてあるよっ!」


 そう言って渡された紙を見てみると――


 ……依頼内容…最近、夫の様子がおかしくて。助けてください…………浮気調査か?


 ……報酬…今日の夕飯…………今日中に終わること前提かっ!


 「おいおい、これはいいのか? 特に報酬」


 「いいんだよっ! それじゃ行くよっ!」


_______________________________


 そう言って連れてこられたのは、隣の家だった。クリスの豪邸ほどではないが立派な家である。玄関の扉をノックし少し待っていると、依頼主である奥さんが出迎えてくれた。目の下にはくっきりとクマが浮かんでいる。夫の浮気に余程ショックを受けているのだろう。


 応接室らしき部屋に通された俺は、単刀直入に切り出した。


 「ご主人はどこにいらっしゃるんですか。俺がガツンと言ってやりますよ!」


 「おぉ~、くまさん、かっこいいよっ!」


 茶化すなそこっ! かっこいいとか言われても嬉しくないんだからね!


 「主人は今、家にいますが……言ってどうにかなるとは……」


 奥さんの表情は優れない。俺はそんなに頼りなく見えるのだろうか?


 「とにかく、呼んできて貰えますか?」


 俺の強気の姿勢に折れた奥さんは、旦那さんを呼びに行ってくれた。部屋に飾られた姿絵の中では、茶髪の真面目そうな男性が、若かりし日の奥さんらしき女性の肩を抱いている。

 この人が浮気を?

 待つこと十数分、揉めてしまってなかなか来れないのかと心配になってきた頃、そいつは部屋に入ってきた。

 40歳くらいのいい歳したおっさんが、金髪オールバックにサングラス、首からはジャラジャラとチェーンアクセサリーをぶら下げている。


 「ヘイッYou! Meになにか用かYo!」


 …………これは……確かに様子がおかしい!……


 「あはははははははははははははは」


 人の家だというのに笑い転げるクリスを見て、奥さんは「あらあら、クリスちゃんは元気ねぇ」などと微笑んでいる。


 「あの、ご主人はいつから、こんな感じなんですか?」

 「あはははははははははははははは」

 「what? なにがそんなに楽しいんだYo!」


 とにかく、情報がなければどうしようもない、そう思い対面に座る奥さんに話しかける。

 

 「数日ほど前です」

 「あはははははははははははははは」

 「ヘイッYou! Come on!」


 「なにか心辺りは?」

 「あはははははははははははははは」

 「チェケラッ!チェケラッ!」


 「……そう言えば、主人がおかしくなる直前、貴重な魔道具を手に入れたと言っていました」

 「あはははははははははははははは」

 「carnival! carnival!」


 「それは、露骨に怪しいですね……静かにしろっ」


 クリスに一撃入れて黙らせると、旦那さんも黙った。連動しているのだろうか?

 

 「子供に暴力なんていけません!」


 「そーだ、そーだ、いけないんだぁ」


 「bad boy! bad boy!」


 何故か俺が奥さん怒られた。その上、このaway感である。俺がいけないのか、そーか、そーか。


 「とにかく、その魔道具がどんな物か分かりますか?」


 「いえ、分かりません」


 「じゃあ、ボクたちで探し出すしかないね!」


 「Let's Go」


_______________________________


 ……という訳で、奥さんに案内してもらって、俺達は旦那さんの部屋に来ていた。部屋を見渡せば足の踏み場も無い程、大量のガラクタが置いてある。奥さんが言うには旦那さんの趣味は魔道具集めらしい。中には高そうな壺や甲冑なんかもある。いったい何に使うのだろうか。

 

 「チェケラッ!」


 「クリス、迂闊に触るんじゃないぞ。なにが起きるか分からん」


 「分かってるよっ!」


 「carnivalだぜっ!」


 それにしても、この人どうにかならないだろうか。先程から、俺の背後にピッタリ寄り添って意味不明なことを言っている。正直扱いに困る。


 「くまさん、気に入られちゃったね!」

 「festival!」


 「こんな状態の人に気に入られてもなぁ」

 「今日も1日、festival!」


 とにかく、早く原因となった魔道具を見つけなければならない。「ヘイッ!」今日中に見つけられずに、明日もこの調子だと持たないだろう。「You」精神的に。奥さんの目の下に濃いクマが出来ていたのも納得できる。「come on!」


 「sing sang sung」


 ――繰り出される右ストレート。


 ――吹き飛ぶサングラス


 ――乱れる金髪


 ――弾けるチェーンアクセサリー


 ――――ハッ! あまりのウザさに、つい手が出てしまった。


 「く、くまさん!いくらなんでも、それはまずいよ!」


 「すいません! 大丈夫ですか?」


 直ぐに旦那さんに駆け寄り安否を確認する。魔道具のお陰で少々おかしくなっているため、殴ったこと自体は問題なさそうだが、怪我をしていたら大変だ。


 「うぅっ、私はいったい何を……」


 ――!……正気に……戻った!?


 「大丈夫ですか?」


 「……君はいったい誰だ! 私の家で何をしている!?」


 その後、俺を不審人物と勘違いし、暴れる旦那さんを落ち着かせるのに苦労したが、奥さんの加勢でどうにか事なきを得た。旦那さんの説明によると、原因の魔道具はサングラスだったようだ。旦那さんも姿が変わる魔道具と思っていたようで、正気を失う効果があることを知らなかったと言う。殴った衝撃でも壊れてはいなかったので、報酬の一部として押し付けられた。……何に使えばいいんだよっ


 「いやいや、先程はすまなかったね! これからはご近所さんとして仲良くしていこう」


 そして、報酬として夕食に招かれたのだった。

 クリスの用意した朝食と違って、洋食の様々な料理がテーブルの上に並んでいる。ところで奥さん――


 「このスープはお湯を注いで作ったものですか?」


 「えっ?」


 なにを言っているのでしょうか?この人という目で見られた。当然だけど。横ではクリスがクスクス笑っている。どうやら、この世界にフリーズドライ食品は無いのだろう。畜生!


 「初めての依頼を無事完了した、ボクたちの冒険はまだまだ始まったばかりさっ!」

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