「ぎゃふん」なんて言ってやらない。
輝く金色の髪、凛々しい面構え、口元を緩めれば女性が頬を染め、発する声は通るテノール、シャツを脱げば6つに割れた腹筋。剣の腕は兄弟一で、兄のついでに習い始めた勉強は、すでに兄を超えた。
誰もが認める神童、それが俺、マリス・リュミアン。現在12歳。エステリア王国の第2王子として産まれ育った。
そんな俺は、ある朝目が覚めると、ここが乙女ゲームの世界だという事に気が付いた。俺自身はやっていないが、前世の姉がやっていたのだ。そしてバッグに着けていた推しキャラキーホルダー、それが俺様王子マリス、つまり今の俺だ。
マリスは、婚約者がいるにもかかわらず、ゲームのヒロインに救われ癒され惚れるのだ。
そして、婚約者に婚約破棄を宣告し、ヒロインと結ばれる。
正直、御免こうむる。
なぜなら、ヒロインに嫌悪感しか感じないからだ。
大体、同じ人物だというのに相手によって態度を変える時点で信用ならない。好きな人のために趣味や嗜好を合わせたいなら可愛いものだが、予測して狙って変える時点で胡散臭い。
あと、ピンクの髪の毛は趣味じゃない。茶色か黒に染めてくれ。話はそれからだ。
そして、前世にはとあるジンクスがあった。
「悪役令嬢最強伝説」である。
乙女ゲームに生まれ変わったら、悪役令嬢以外9割近くの確率でその座を追い落とされる。追放される。「ぎゃふん」と言わされる。なんて恐ろしい世界だろう!
ま、正直追放されても傭兵で食っていけそうな自信があるからいいんだが。
●
俺にとって、重要なイベントがやってきた。
13歳の誕生日、決められた侯爵令嬢…つまり将来の悪役令嬢と対面する日だ。
俺の『ヒロインによるヒロインのための逆ハー要員』フラグが立ってしまわないためにも、なんとか令嬢を味方に引き入れたい。
鏡の前で入念に笑顔の練習をして、令嬢を待つ。この日のために、表情筋はかなり鍛えたと思う。
しかし、どうしたら気に入ってもらえるのかね。気の利いたセリフとか言える気がしない。
そうこうしているうちに、王宮へ侯爵および侯爵令嬢が到着したと報告が入った。
正直、姉がやっていたのを後ろで時々見ている程度の知識だ。キャラの名前とビジュアルしか知らない。
たしか、栗色の髪のストレートで、大きいリボンをしていた勝ち気な少女だったような?
「リンドル・リズバーグ侯爵および、ミリア・リズバーグ侯爵令嬢のお越しです」
扉が開くと、威厳を醸し出す男性と、数歩下がって栗色の髪の少女が進み出た。
いや、どう見てもこっちの方が可愛いだろう!?
俺は、心の中で製作者に突込みをいれた。
おっと、それどころじゃない。笑顔笑顔。
「お久しぶりです、リズバーグ侯爵」
すっ、と頭を下げて俺は義父になる侯爵に頭を下げる。侯爵の許しを得て顔を上げると、俺は侯爵の背後にいたミリアと目があった。
勝ち気そうな瞳ではあるが、かわいらしい。
「初めまして、ミリア嬢。私はマリス。マリス・リュミアンと申します」
練習に練習を重ねた他称甘い笑みを浮かべると、ミリアの頬が桃色に染まった。
ふむ、出だしは上々だろうか。
「わ、私は、ミリア・リズバーグです。お初にお目にかかります、殿下」
「殿下などと他人行儀なことは言わないで。マリスと、ミリアのかわいい声で呼んでくれないか」
つん、と人差し指でミリアの唇に触れる。瞬間、背後で負のオーラがした。すみませんお義父さん。だが反省はしない。
「で………でん、か」
「マリスだ。それとも、ミリアは私が貴女の婚約者に不釣り合いだと思っていますか?」
ダメ押しでそういうと、ミリアは真っ赤な顔をしてフルフルと首を横に振った。
そのしぐさが愛らしくて心臓が止まりそうだ。今にも抱きしめてしまいたい。こんなかわいい令嬢を捨てさせるなんて、ありえない。
「マリス、様」
「可愛いっ!!」
腕の中で、ミリアがふるふると震えている。
何この小動物。
すぐに侯爵の手でひっぺがされたが、反省はしない。
俺は、絶対にこの子を嫁にする。ミリアは俺の嫁!
●
そして、3年後、どうしてこうなった。
目の前で、ミリアが高笑いをしている。うん、悪役令嬢としては間違っていないが。でも。
不良生徒(男子)をヒールで踏むのはやめないかな?
「か弱い女生徒を苛めるなんて、男の風上にも置けませんわね」
「ミリアさま……」
やっかみをつけられていたところを助けられて、女生徒は頬を桃色に染めている。
「ミリア」
「マリスさま」
私頑張りました、な笑顔で振りかえられて、俺は笑った。
とどめにぎゅっとヒールで踏んでから、ミリアは俺に近づいてくる。目をキラキラさせて見上げてくるものだから、俺はいつものようにミリアの頭を撫でてしまうのだ。
そもそも、どうしてこうなったのか。
それはきっと、俺が「男は女を守るもの」と言い張っていたからかもしれない。だから、ミリアも女性を守るよう鍛え始めた。ミリアも守られる側だと伝えても。
「私はマリス様にだけ守られていればよいのです。ですから、ほかの女性は私が守ります」
というものだから、困る。かわいらしすぎて、ヒロインが転校してくる前に何とかしたいと、何度も侯爵に結婚を認めるよう突撃したが、怖そうに見えて実は娘に激甘な父親で、俺はことあるごとに撃退されてきた。
ヒロインが転校してくるまでのカウントダウンは始まった。
はたしてこれでうまくいくのか。ヒロイン補正というのがかかって、俺の態度が変わってしまうのか。
判らないことだらけだが、きっと大丈夫。
いざとなったら、ミリアが俺を正気に戻してくれる。きっとそんな気がしてならない。
俺たちの戦いはこれからだぜ!!!
みたいな終わり方です。設定がここまでしか浮かばなかったものですから。ははは。
なろう系悪役令嬢って可愛いですよね!
ヒロイン補正ってめっちゃ呪いなイメージしかしません。
その2、更新しました。