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こぼれ話 アステルの森 その1

 シアラがアステルの森にいた頃のお話です。

 このお話は、シアラがまだ幼くてアステルの森に住んでいた頃のお話。




「シアラー、シアラーどこにいるのー?」


 エルフの国の中心に存在するアステルの森。

 そこはエルフたちの聖地であり、大いなる祖と呼ばれる大樹ドリアドを中心にして、円状に広がる広大な森であった。

 

 アステルの森の木々たちは、そんな大樹ドリアドの祝福を受け成長し、その一本一本が天を突くほどの大きさを誇っている。そして、木々たちは星が持つ膨大な力を根から吸収し、その力を利用して森を覆う巨大な結界を張っていた。これにより、森は長い時間外敵から守られ続けてきたのである。

 

 エルフ達はそんな木々の上に住居を構え暮らしている。自然との調和を一番に作られたその家を、エルフ達は古代語で木の家と言う意味の「エシル」と呼んでいた。

 また、木々の間には蔓のロープと木の板で作られた橋がかけられている。これは木々の間を移動するエルフたちの助けとなる空中回廊の役割を担っていた。

 

 そんな橋の上を一人の少女が走り回ってた。

 闇の中ですら輝きを失わない銀髪と、若葉を思わせる美しい緑色の瞳を持つ少女は、名をリリアといい、アステルの森に住む大樹ドリアドの申し子の一人だった。


「もう、シアラったらどこに行ったのかしら?」


 リリアは不満そうに頬を膨らませ辺りを見渡す。

 彼女は自分と同じ大樹ドリアドの申し子であり、妹でもあるシアラを探していた。


 しかし、30分ぐらい探しても全く見つかる気配がない。


(本当にどこに行ったのかしら?)


 リリアは髪の色から瞳の色、そして顔立ちまで自分とよく似ているシアラの姿を思い出し、ため息をついた。 

 

 リリアとシアラは双子みたいに姿形がそっくりだが、性格の方は全く違う。

 リリアは温厚で御淑やか。女の子らしくおしゃれが好きだし、森に咲く色とりどりの花を愛でるのが趣味のエルフの女の子らしい女の子だ。

 対して妹のシアラは、温厚と言う面ではリリアと一緒だが。それ以外がまるで違う。


 まず彼女は武芸を好む。普段から剣や弓、そして槍といった様々な武器の鍛錬を怠らない。

 シアラの守護を任せれているフィリオなどは、それに対して何度も「私がお守りしますから姫はそんなことしないで下さい」と懇願しているが、つねに「それは嬉しい、なら戦場いくさばに立つときは背中を任せる」と妙な方向に話を捻じ曲げられて、聞き入れてもらえないでいた。


 この他にも、シアラは子供たちと接するのが好きである。

 いや、これはリリアも好きだが、シアラの場合何かが違う。

 

 リリアの場合は同年代や、少し幼い子供と遊ぶような感覚だが。

 シアラの場合、老人が孫に接するような感じで人生の教訓やら何やらを教えているのだ。   


 正直、リリアはその光景を見たとき、いったい妹に何を吹き込んだんだと、大樹ドリアドに問いただしたくなった。 


「はあ~~本当にシアラったら、もう少し女の子らしくしてくれないかしら」


 リリアは本日何度目かのため息を吐く。


「リリア様」


 そんな彼女へ背の高い女性が声をかけてくる。

 リリアは振り返りその女性を見上げた。


「アリシア。シアラは見つかった」


 リリアからアリシアと呼ばれた女性は、少し神経質そうだが整った顔立ちに、微笑みを浮かべると頷いた。


「はい、シアラ様は第三区の方へいらっしゃいました」

「第三区……あの子そんな所で何をしているのよ」


 リリアは自分達のいる場所と反対の場所にシアラがいると知り肩を落とした。

 彼女にとって、第三区は全くノーマークの場所だったのである。その理由としては、第三区は居住区ではなく、兵の詰め所などがある軍事区域だからだ。自己鍛錬は家の庭で終わらせるシアラが、一々行く必要のない場所なのである。

 

 だから、リリアはそんな所にシアラがいる理由が、いまいち分からず首を傾げた。

 アリシアはそんな彼女へ、少し困ったような表情を浮かべながら自分の見た光景を伝えた。


「シアラ様は第三区の練兵場で、兵たちに訓練を施していました」

「………はい?」


 リリアは先ほどと逆の方向に首を傾げる。

 彼女はアリシアの言葉の意味が分からなかったのだ。

 そんなリリアに対し、アリシアはもう一度報告をする。 


「ですので、シアラ様は第三区の練兵場で兵たちに訓練を施していました」

「ちょっ、ちょっと待って!」


 リリアは片方の手を額に当て、もう片方の手をアリシアへ突き出す。

 大切な事なのか、二度も言われた信じがたい台詞にリリアは混乱していた。


「アリシア」

「はい」

「ごめんなさい。もう一度聞かせて……シアラはいったい何をしていたの?」

「兵たちに訓練を施していました」


 凄く大切な事なので三回も言われた台詞に、リリアの中で何かが切れた。


「もう! 本当にもう! あの子はいったい何をやってるの!?」


 リリアは地団駄を踏み、怒りを露にする。

 そんな彼女へアリシアは自分の意見を冷静に述べた。


「特別変わった訓練を施された訳ではありませんが、とても効率的な訓練を提案されました。そしてその訓練方法を下に、兵たちを自分の手足のように動かされていました。あれほどの用兵はルーカス将軍ですら難しいかもしれません。全く、シアラ様の軍才には驚かされるばかりです」

「違うでしょ! そうじゃないでしょ! あなたって妙なところで天然ね! ああ、もういいわ! アリシア!」

「はっ!」

 

 美しい姿でアリシアが跪く。

 

「付いて来なさい! シアラを連れて帰ります!」

「御意」


 そして、リリアからの命令を受けると立ち上がり、彼女の後ろを付かず離れずの距離を保ちながら付いて行った。


 それから数十分後、第三区の練兵場でリリアに正座させられて、怒られるシアラの姿があるのだった。


 

 




 

 

 これから少しずつ今回のような過去編を、物語の補完ということで投稿しようと考えているのですが、どうでしょうか?

 

 もし必要、不必要などのご意見があるなら、感想に一行でも書いていただければありがたいです。

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