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アステル傭兵団

 一気に飛びます。

 どのくらい飛ぶって?

 まあ、50年くらいですよ。

 

 日の光は見えなくなり、空には星が輝き始める。

 前世でも今生でもシアラが見てきた星達だ。しかし、この星の海には月がない。変わりといっては何だが、一際大きく輝く三つの星が天頂で大地を見下ろしている。

 

 姉の話によれば、あの星には太古の神である三柱がそれぞれ住んでいるらしい。

 その神を信仰しているのは、シアラたちエルフや、ドワーフと言った自然を信仰するものたちであり、ヒューマンといわれる種族、すなわち耳が長い訳でも、尻尾が生えている訳でもないただの人間たちは、過去の聖人を信仰の対象としているようだった。


 シアラはそのヒューマンの宗教に興味がないので詳しくは知らない。

 彼女は他のエルフ達と一緒で、天の三柱を信仰している。もともと宗教に対しては、前世の記憶にある『いろは歌』から、神を敬い教えを守ると教えられてきたので敬虔けいけんである。だが、現在は前世以上に敬虔だ。


 きっと、転生をして二度目の生を受けたことが、その大きな原因だろう。

 この浮世に生れ落ちて早50年。エルフ、それも大樹ドリアドの申し子であるシアラは、ただでさえ長寿なエルフよりも更に長生きをする。


(前は50年といったら、人生の終わりだったのにな)


 懐かしむように戦続きの時代の生の儚さを思い出す。

 そんな時代の真っ只中に生まれ、80年以上生き、床の上で死ねた自分は本当に運が良かった。

 

 シアラは天頂に輝く三つの星を見上げ、そして手を合わせる。

 この祈りの果てに、今まで亡くなった命とこれから亡くなる命が極楽へいけるよう願って。





    ★





 そんなシアラから少し離れたところに数人の武装した集団が、焚き火を囲みそれぞれ思い思いに口に物を運びながら寛いでいた。

 彼らはアステル傭兵団の一員であり、シアラの元に集まった傭兵達である。

 

 そんな中でシアラをジッと見つめていた男が、隣で干し肉を齧っている女に声をかけた。


「団長殿は毎日三ツ星様に祈りを奉げてるんですね。いや、感心なことだ。姉さんはどう思ってるんですかい?」


 呆れたような男の言葉に、女は干し肉を齧ることをやめず、目だけで彼を見た。

 ドラゴニアと呼ばれる種族の大男は、竜であった頃の名残みたいな青い鱗が身体中にあり、額には螺旋模様が特徴的である立派な角が二本生えている。   

 その眼光は一度戦場に立てば、睨みつけるだけで多くの敵を萎縮させるだけの力があるだろうが。今はシアラへの、呆れか、不満か、哀れみか、或いはその全てを含み曇っている。


 腕自慢な新入りが、初めて団長を見るときに良くする目だと、女は干し肉を噛みながら思った。

 彼女はシアラが率いるこの団でも古参に入り、名をキアという。俊敏な獣人族の中でも特に俊敏なケットシーと呼ばれる種族の彼女は、団長に不信感を持つ新人の世話をまた(・・)しなければならないことに、内心ため息をついた。


(お願いだから団長殿には、もっとこう普段から威厳を持って欲しいニャー………。まあ、無理か。あの人見た目すごく綺麗だし。とても傭兵みたいな荒れくれた仕事をしている人には見えない。私だって最初は目を疑ったしね)


 キアは残った干し肉を口の中に放り込み、水筒の水で胃に流し込んだ。


「なあ、キアの姉さん。無視しないでくれよ」


 そんな彼女にドラゴニアの男が厳つい顔を近づける。

 キアは行き成り厳つい顔を近づけられた事に、隠そうともせず表情に出し。


「ちょっと、新入り。厳つい顔を近づけないでよ。私に顔を近づけたかったら団長ぐらい綺麗な顔になってからにしな」


 口に出した。

 男はその言葉に怒った様子は見せず、むしろ、キアを鼻で笑った。


「そいつは無理ですぜキアの姉さん。俺は戦場では常に先頭に立って、相手をこの厳つい顔で睨みながらぶった切るんですわ。団長殿のように儚く美しい顔だったら、切る前に相手から愛の言葉を囁かれて、傭兵の仕事になりませんぜ」

「なるほど、あんたの言葉にも一理あるね。私も戦場で団長にあったら愛の言葉を囁くかもしれないね」


 うんうん、と頷くキアに男は表情を歪める。


「姉さん。冗談で言ってる訳じゃないんだ。本当に大丈夫なんですかい? 俺達の商売は綺麗なお嬢さんの指示で上手くいくほど楽なもんじゃない。はっきり言いますがね。俺は団長殿が毎日神様へのお祈りを欠かさない、教会のシスターみたいな儚いお嬢ちゃんだと知っていたらこの団に参加なんてしなかった」

 

 シアラへの不満を男は一気に吐き捨てる。 

 キアとしてもその不満は、まあ、分からなくもなかった。

 しかし、その考えとは裏腹に彼女は自分の心が冷めていくのを感じた。

 許されるのなら、何も知らない小僧は黙っていろと突っぱねたいが、不幸なことに面倒見のいいキアには、それが出来なかった。


「ねえ、新人。あんたは何でこの団に参加したんだ?」


 キアの問いに男は眉を顰める。


「そりゃ、常勝のアステル傭兵団に参加できるなら、美味い思いができると踏んだからですよ。でも、団長があんなのじゃあ………」

「なら、あんたはこの団に参加する前にちゃんと情報を集めたかい?」


 男の不満を最後まで言わせずにキアは言葉を重ねる。


「……そりゃあ、しましたよ」

「じゃあ、そいつらは何と言っていた」


 男は視線をキアから外し、宙を見上げる。

 彼だって駆け出しの傭兵という訳ではない。ある程度経験をつんだ中級者クラスの傭兵だ。それぐらいになると、情報の大切さと言うのも理解している。だから、この傭兵団に参加する前に、決して安くない金を払って情報収集をしたのだ。そして、彼に情報をくれた誰しもが口を揃えていったことがある。


 それは、『あの団の団長はとんでもない奴だ』ということ。


 多くの者たちがそう口を揃える中で、男の心を特に動かしたのは、同じドラゴニアの傭兵で、二つ名まである男が「あの女はエルフにしておくには勿体無い」とまで絶賛していたからだった。


 男はそのことを思い出し、口を完全に閉じてしまう。

 そんな彼にキアは意地悪い笑みを浮かべる。


「まあ、あんたみたいな奴は今までにも多くいたよ」

「……どういうことですかい?」

「初めて団長を見て、馬鹿にしたり不満を持ったりする奴さ」


 そう言われると男は黙るしかない。事実彼は今でも不満を持っている。


「でもね。そんな奴らは全て自分の認識が間違っていたと思い知らされる」


 淡々としたキアの言葉に、押し込まれるような威圧感を感じた男は目を見開き驚く。

 ドラゴニアである男は、種族的なポテンシャルの高さと、今まで傭兵として積み重ねてきた実績からくる自信とプライドがあった。それゆえに、内心シアラだけでなく、キアのことも馬鹿にしていた。

 彼にとって尊敬すべき存在は、ドラゴニアの戦士らしい力のある者たちであり、足が速いだけのケットシーなど侮蔑の対象にしかならなかったのだ。


 しかし、言葉の一つ一つに自分を萎縮させる威圧感を放つ目の前のキアにドラゴニアとして生を受け、ただ強くあり続けた男はショックで二の句も上げられなくなった。

 

 対して、キアにとってドラゴニアである男の反応はなれたものだった。彼がシアラだけでなくキアも舐めていることぐらい経験上、手に取るように分かっていたからだ。だから、立場を分からせるためにわざと威圧したのである。


(うん、まずは確り自分の立場を理解してもらわないとニャー。戦場でそんな態度を取り続けると戦列を乱すといって、団長に切り殺されないからね。私の優しさだよ。新人君)


 大きな身体を震わせる男にニヤリと笑いかける。

 すると、彼の肩がビクリと大きく震えた。  


「さて、新入り。そろそろ団長のお祈りの時間も終わりだ。作戦は今日決行するから、緊張でしくじるんじゃないよ」

「おっ、おう」


 素直でよろしい。キアはそう呟くと、祈りを終えて此方に歩いてくるシアラの方へ視線を向けた。

 

「団長殿、新人の教育が終わりました!」


 縞模様の猫耳をピンッと立てながら、シアラに大きな声で報告をする。すると、四方でドッと笑い声が起きた。


「はははっ、そうか流石はキアだ。もうその新人を教育したのか!」

「すごいですね先輩!」

「鬼猫の名は伊達ではないですね~」


 シアラの祈りに合わせて静かだったのが、嘘のように騒がしくなる。シアラ自身、キアの報告に苦笑を浮かべ、「ご苦労さん」と彼女を労った。

 それでまた笑いが起きる。けれど、その話題の中心であるドラゴニアの男は溜まったものではなかった。元々プライドの高いドラゴニアは、他人に馬鹿にされるのが一番頭にくることであり、更に今回はキアにビビッてしまった負い目がある。

 

 彼は腹の底から湧き上がる怒りに顔が真っ赤になり、今にも爆発してしまいそうだった。

 

(くそっ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって、俺を誰だと思っていやがる! 俺はドーラだぞ! Bランクのドーラだ!)

 

 未だに続く笑い声に男の中で何かが切れそうになった。

 

 その瞬間。

 彼の右肩に軽く手が乗せられた。

 見れば、細い手が彼の肩に置かれている。白く綺麗な手だった。一瞬、男は怒りを忘れて、その手に見とれた。


「ドーラ、私が団長では不安か?」


 そして、その手の主であるシアラに声をかけられドーラは、弾かれたように顔を上げ、彼女を見上げる。夜空においてより一層輝く銀色の美しい髪と、澄んだ緑色の瞳に見つめられ彼は無意識に息を飲む。


「あっ、いやっ………」


 怒りを完全に吹き飛ばされたドーラは、シアラの質問に答えることが出来なかった。しかし、シアラも彼の答えなど期待していなかった。

 新人とのこのやり取りは、キアと同じで彼女も手馴れている。

 だから多くを語らない。語る必要もない。彼らを納得させる方法などたった一つしかないと知っているからだ。


「いい。私に不安を抱くのは当然だ。とても戦場で手柄を立てるような大将には見えんしな………。じゃけんども」


 シアラはニッと笑う。その笑みは先ほどまでの儚いイメージを吹き飛ばす頼もしい笑みだった。


「そう判断するのはおいの武者働きを見てからにしてくんろ」


 ドーラは雰囲気だけでなく言葉遣いまで変わったシアラの姿に混乱し、口をぽかんと開けて呆然とした。

 彼とシアラが出合って三日。この三日間でシアラと言うエルフの評価は、良くも悪くもエルフらしいエルフだった。穏やかで、優しい、神に対しては敬う、ドラゴニアが軟弱と断じ嫌うエルフの姿のそれだった。

 

(だが、目の前のエルフなんだ? 俺はいったい何を見ていた?)


 ドーラの頭がまた混乱し始めたとき、一人の男のエルフがシアラに苦言を言ってきた。


「シアラ様。またそのような言葉遣いを……」


 彼は金色の髪をしており、背には黒塗りの弓を背負っている。

 その整ってはいるが、神経質そうな顔が今は苦い物を噛んだように歪んでいた。

 シアラはそんな男の肩をバンバンと叩き、朗らかに笑う。

 

「ははは、そういうなフィリオ。良かにせ・・にあったんじゃ。嬉しくてつい素が出たんじゃ」

「素ではありません。いいですかシアラ様。あなた様はアステルの森の大樹ドリアドの御子。いわば我々エルフの王なのです。そんなあなた様がそのような言葉遣いをされては、エルフの品に傷がつくのです」

「フィリオは相変わらずじゃな。まあ、おいも……いや、私も一族の名に傷がつくのは良くは思っていない。何よりも姉上に迷惑がかかるしな」


 フィリオが頷く。


「その通りです。理解の早い主で私も助かります。しかし、願うのならば、もう少しお淑やかになってもらいたいのですが」

「それは無理だフィリオ。私が今、一族と国と姉上に出来ることは武者働きでしかない」


 何時もの願いを何時もの言葉で断られたフィリオは、目頭を痛そうに押さえため息をついた。


「はあ~……確かに今シアラ様のお力は我々には必要なもの。致し方がありません」

「うん、そうだろう」

「が! しかし! 先陣に立つのはお止めください! それはリーダーのあるべき姿ではありません!」

「ははは、フィリオは分かっていないな。手ずから握刃あくじんの功におよぶ将になってこそ、味方には信頼され、敵には恐れられるのだ!」

「シアラ様! いいですか! あなた様は我々エルフの……っ!」


 フィリオは目を怒らせ、顔を真っ赤にしてシアラに苦言をするが、苦言をされている本人はどこ吹く風か。カラカラと笑いながらも自分の意見を引こうとはしなかった。


 そんな二人の様子を見ながら周りがまた始まったと呆れる。

 ドーラなどは完全に置いてけぼりだ。彼は困ったように、隣に座るキアを見る。


「姉さん。あの二人は何時もあんな感じなんですかい?」

「そうだよ。何時もあんな感じ。いい加減フィリオも諦めたらいいのに。団長が聞くわけないのにニャー」

「はあ、ところでその団長殿が言っていた、手ずから握刃なんたらとかって、どういう意味で?」

「ああ、それね。要は自ら剣とか振って敵を殺すことらしいよ」


 キアの言葉にドーラは眉間にしわを寄せる。


「そいつはつまり、団長自ら先頭に立つという意味で?」

「そうだよ」


 大将自ら先頭に立ち剣を振るう。それも決して身体が丈夫とは言えないエルフがである。

 ドーラは信じられんとキアを見つめた。

 そんな彼にキアはまた意地の悪い笑みを浮かべる。


「信じられんかニャー?」

「あっ、いや」

「にゃははは、まあ、それもしょうがない。うちの団長は非常識が服を着て歩いているからね。新人君も直ぐに分かるよ」


 此方を小馬鹿にした言い方にドーラの中で、また怒りが再燃しそうになる。

 彼は今日だけで大分猫嫌いになっていた。特に縞模様でキアという猫が大嫌いになった。

 

「さて、これいじょうは作戦に支障が出るからね。あの二人を止めるか。おーい、お二人さん。そろそろお仕事しよう」


 キアが言い合いを続けるシアラとフィリオに声をかける。すると、二人はピタリと言い合いを止めた。


「うん、わかった。それじゃあ、今夜決行する作戦の軍議をしようか。フィリオ」

「はっ!」


 先ほどまでの言い合いが嘘のようにシアラの命令に忠実なフィリオは、荷物の中から一枚の地図を取り出した。これはこの周辺の地図であり、アステル傭兵団の先行隊の一員が数日かけて作ったものだ。

 それを知らないドーラなどは始めてみる精巧な地図に舌を巻き、どこでこんなのを手に入れたのかと考えながら食い入るように見つめた。

 

 シアラはそんなドーラを含め、全ての団員が地図を見て、軍議に参加する姿勢を作ったのを確認すると話を進め始めた。


「さて、今回の作戦だが。最近勢力を著しく伸ばしてきたゴブリンの駆除だ。情報によると約300のゴブリンが巣穴を作り住み着いているらしい」


 ドーラはその数に驚いた。300匹のゴブリンはかなり多い。国の騎士団が出てもいいレベルだ。とても一つの傭兵団で対処する数ではない。


「かなり数が多いね。こっちは25人しかいないよ?」


 キアもドーラと同意見だったようで、シアラへ鋭い視線を向けて質問をする。

 彼女の発言に他の団員も頷いているのを見るに、同意見のものは多そうだ。


 そんな彼らの意見に答えたのはシアラではなく、彼女の隣にいる小柄なとんがり帽子を深く被ったシルフの娘だった。

 彼女は陽気なシルフとは思えないほど抑揚のない声で問題ないといった。しかし、それで「はい、そうですか」と納得するはずもなく、キアが身を乗り出して何故かと理由を彼女に聞いた。

 すると、シルフの少女はまた抑揚のない声で

 

「風の探索魔法で調べたところ、300の内200が小さな子供などの非戦闘員であり、まともに戦えるのが残りの100ぐらいだからです」


 とゴブリンの実質的な戦力を語った。

 この答えにキアはなるほどと頷き、他の団員達も頷き納得をする。

 一応ドーラも納得した。100対25ならゴブリン相手なら何とかなると彼は踏んだからだ。


 黙っていたシアラは、全員が納得したのを見て再び口を開く。


「さて、皆が納得してくれたようだから今回の作戦をいう。まず、ゴブリンが住み着く巣穴には二つの抜け穴がある。事前の調査によると一つが普段の私生活で使う正面口。そしてもう一つが緊急避難用の裏口のようだ。今回はまず団を二つに分け、私率いる15人が正面口から攻める」

 

 シアラはそういうと木で作られて凸型の模型を、地図の上に置き、ゴブリンの巣穴正面口へ動かす。


「そして、正面口にゴブリン共を釘付けにする。その隙に別働隊10名は裏口から巣穴に攻め込め」


 こんどは同じ凸型の模型を、ゴブリンの巣穴裏口へ動かす。


「別働隊はまず、巣穴の奥で踏ん反り返っている群れの大将の首を取れ。そうすればゴブリン共の群れなんぞ蜘蛛の子ように散る。後は追い首じゃ。最近、魔物の増加の一途だからのう。国もゴブリン一匹一匹に金をくれるといったわ」


 シアラはそういうとニヤリと口の端を吊り上げて笑う。


「一匹殺せば、金が手に入り、お前らの故郷を脅かす脅威もなくなる。よいか? 殺せ。奴らを皆殺しにしろ。子供だろうが容赦をするな。奴らは雄しかおらんからその生まれてきた子も、エルフかドラゴニアかドワーフかシルフかヒューマンかの女子おなごを連れ去って、無理やり孕ませた忌み子じゃ。殺したところで罰も当たらん。むしろこれは正義のおこないぞ。奴らを一人殺せば、連れ去られ、無理やり孕まされ、殺され食われた者の弔いになる。いいか。殺せ。一匹足りとて逃すな。奴らば一匹とて朝日を拝ますな」


 シアラの言葉にドーラは胸の奥底で蠢く熱くドロドロしたものを感じた。これが何なのかは彼には分からない。ただ、激しい衝動のようなものだとは分かった。

 見れば、周りの傭兵たちの瞳にも黒い炎が宿っている。どこか飄々としたキアも、生真面目なフィリオも、あの大人しいシルフの娘も、全員がその瞳に黒い炎を宿している。


「よか、良い目じゃ」


 シアラはそうした団員達を見渡し、満足げに微笑んだ。

 綺麗な、見惚れる笑みにも関わらず、この中で誰よりも彼女は狂っている。

 ドーラはこの傭兵団に参加するという選択が間違っていないことをたった今確信し、また先ほどまで彼女に不信感を持っていた自分を殴りたくなった。


(この団長についていけば楽しいことになる)


 ドラゴニアと言う好戦的な種族がもつ戦いへの渇望が彼の気を昂らせる。そして、この昂りを思いのまま振るいたいと激しく思った。


 当然、押さえるということ置き去りにした若いドラゴニアの闘気にシアラは直ぐに気がついた。

 自分を睨みつける黒い炎を宿したドーラの瞳を見て、シアラは一層笑みを強め喜びをあらわにする。


(良か、良かにせじゃ。おいの思った通りじゃ。こいつは良か武者働きをするぞ。なら、おいもこいつを活躍させる場を与えねばなるまい)


 うんと一回頷くと、シアラは正面口部隊と裏口部隊の編成を口にする。その正面口部隊には真っ先にドーラの名前が呼ばれた。  

 彼は自分の名前が最初に呼ばれたことに驚いたようだったが、直ぐに好戦的な笑みを深め、「応!」と返事を返した。


 天頂の三ツ星が最も高くなる深夜。

 人も魔も眠る常闇の中、25人の傭兵達が動き出した。


 

 



 

 シアラさんは嬉しくなると一人称が私からおいになります。

 そして戦が近づき、味方を鼓舞するときもおいになります。

 方言は適当です。気にせんでくださいバッテン。


 でも、書いてて楽しいね。

 漫画や小説とかで、間違いなくヒロイン級の容姿を持ったエルフの娘が、良い笑顔で皆殺しにしろと命令を部下に下す。たまらんね。

 

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