表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

ドリアドの申し子

 実在の人物とは全く関係ありません。まっ、まあ、最近では戦国武将が女の子になったりしてるからいいよね?



 あれ、ここどこじゃ?

 てか、主ら誰じゃ?


 己の人生を全うし、運よく床の上で静かに死ねたのだが、気がついたら見たこともない森の中に居て、やたらと耳が長く尖った連中の歓迎を受けていた。


「主ら誰じゃ?」


 肌の色は白く、堀の深い顔をし、色とりどりの瞳の色をした連中は自分達をエルフと言った。

 そして、おいのことを大樹ドリアドの申し子といった。


 おいは大樹ドリアドなど聞いたこともないし、申し子とかいう大層なものになった覚えもない。

 だから、あの胡散臭い南蛮人が語る耶蘇教やそきょうの一種かと思い、身を引き締めたが、どうやら彼らの話を聞くかぎり違うらしい。


「ここはどこじゃ?」


 おいが彼らに問うと、彼らの中から小さな女子おなごが出てきた。年の頃、十になったかならないかの可愛らしい女子だ。

 けれど、周りの大人達とは一線を画する存在感がある。豊かな森の緑を思わせる澄んだ瞳、精巧に作られた人形のような愛らしさ、そして何よりその髪の色は吸い込まれるような銀色だった。


 おいは年甲斐もなく、その銀に見とれた。

 こんな綺麗な色がこの世にあるとは思わなかった。

 いや、おいは死んだから此処は黄泉の世界か。ならば、あの美しいのも納得がいく、天上の世界のものならば、浮世にあるはずもない。


 しかし、そうなるとおいは極楽に来たのだろうか。もしそうならば、これほど幸せなことはない、一生の大半を戦場で過し、敵味方と多くのものを死なせてきたおいには勿体無いほどの幸せだ。

 これもあのお方の教えである『いろは歌四十七首』を忠実に守ってきたお陰だろう。


 ………はて、あのお方とは誰だった?


 ズキリと脳裏に痛みを走る。


「ぬっ………」


 脳を潰されるような痛みに溜まらず、頭を抑え蹲る。

 そんなおいを心配してくれたのか、周りのエルフ達が騒ぎ始め、あの可愛らしい女子が慌てて近づいて来た。


「大丈夫? 無理をしないであなたは生まれたばかりなの」

「………生まれたばかり?」


 どういう意味か、今だ痛む頭を押さえながら顔を上げる。

 そんなおいに女子は微笑み、優しく頭を撫でた。


「そう、生まれたばかり。あなたは、エルフの聖地であるアステルの森の大樹ドリアドから祝福を受けて今日生まれたの。その名をシアラ。シアラ=アステル。私の大切な妹」


 女子の言葉の意味は全く理解できなかった。しかし、何故か彼女が語ったおいの名前が、心に染み渡った。これがおいの名前であると、頭で理解するのではなく、心で理解したのだ。

 

 すると、全身に力が湧いてくる。先ほどまで、どこか宙を浮いていた感覚がしていたが、今はどっしりと身体の中心に根がはってある。

 

 なるほど、おいはどうやら極楽に来たのではないらしい。身体から溢れる生気をその証拠だ。

 年老いて久しく感じなかった、若葉のように成長する力強い気の流れだ。


 おいは生きている。


「そう、あなたは生きている」


 心の中で呟いたつもりの台詞に女子が返事をしたので、おいは驚いて彼女を見た。


「声に出とったか?」

「ええ、出てたわ」

「そうか……」


 どうやら興奮しすぎて声に出たらしい。

 ほんと、年甲斐もない。


「恥じゃな」


 おいは自分を諌めるよう呟いた。

 その声も女子に届いたと思うが、彼女は微笑むだけで何も言わなかった。

 場の雰囲気を読める良い子じゃ。将来外面だけでなく内面も美しくなるじゃろう。 


「ところでシアラ」

「うん、なんじゃ?」

「あなた、その言葉遣いは可笑しいわよ」

「そうか? おいはこれが普通じゃと思うが」


 微笑から一転、女子は目を細め、じろりとおいを睨みつける。

 

「だめよ。あなた可愛い女の子なのだから、大樹ドリアドから与えられた知識かもしれないけど、そこは姉として譲れないわ」

「そんなものか? おいには分からん。それにおいは………」


 そこでふと気がつく。果たして、おいは前世では男だったか、女だったか。それ以前に己の名すら思い出せない。ただ良く覚えているのは、槍、刀、鳥銃ちょうじゅうを持って戦場に立ち、丸に十の字の旗を掲げていた事だけだ。

 他にも色々と大切なことはあったような気がするが、記憶に霞がかかり思い出せなかった。


「おいは誰じゃ?」

 

 無意識に口からそんな言葉が漏れる。

 女子はそんなおいにまた微笑む。そして。


「あなたはシアラよ。私の大切な妹」


 此方の迷いを切り捨てるように、はっきりとおいの新しい名と立場を言った。

 しかし、不思議と不快感はない。むしろ、少しスッキリした。まだ、心に靄がかかっているが、それでもこの場の迷いを断ち切るのには、十分過ぎるほど力のある言葉だった。


 そう、おいは一度死んだ。そして、新たな生を得たのだ。

 ならば、今生の名と立場で懸命に生きるべきなのだろう。 


「……そうか。おいはシアラか。そして、ぬしの妹か」

「そう、あなたはシアラ。私の妹」

「ならば、姉上。是非、あなたの名を聞かせて頂きたい」


 女子、いや、姉上は目を丸くして、おいを顔を数秒見つめる。

 そして段々と頬を朱に染め。


「勿論よ! 私の名はリリア。リリア=アステル。あなたの姉よ」

 

 嬉しそうにそういった。

 


------------------------


 耶蘇教:キリスト教のこと。

 鳥銃:鉄砲のこと、ようは火縄銃。



   




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ