種の話
少女はタネを守っていました。
そのタネは、少女にとってとてもとても大切なもの。
だから、ははおやにも、ちちおやにも、だれにも知られない場所にそっと隠していました。
少女にとって、タネは全てでした。
少女はそのタネのことをいつも考えていました。
いつ芽がでるんだろう?
どんなつぼみをもつのかな?
どんな花をさかせるのかな?
それとも木かもしれないな
あおい葉かな?
あかい葉かな?
さかないかな?
はやく、さかないかな?
だけれども、少女がいつまで待ってもタネは芽をだしません。
少女が、娘になるほど待っても種は芽を出しませんでした。
待ちきれない娘は、ある日母親に言いました。
「ねぇ、母さん。私、運試しの旅に出るわ。」
「何を言っているの?!あなたは一人娘なのよ?きっと攫われてしまうわ!」
「大丈夫よ母さん、私。どうしても会いたい人がいるの。」
娘はそれはそれは熱心に母親を説得しました。
母親も、そこまで言うのならばと六日間だけ旅を許しました。
娘は何を持っていくかよくよく考え、
庭の木の枝を一本とそれとチーズを一欠けらパンを半分もって行くことにしました。
もちろん、大切な種は大事に大事に持って行きます。
そして、娘の旅が始まりました。
一日目は、大きな川を越えました。
チーズを舐めながら、石橋を歩いていきます。
二日目は、拓かれた道でした。
馬車に乗せてくれるという親切な人の誘いを受けて、御礼に持っているパンを渡しました。
三日目は森でした。
持ってきた木の枝で藪を掻き分け進みます。
そして、娘は家を見つけます。
駆け出したい気持ちを抑え、慎重に木の扉をノックします。
「だれだい。」
「緑の森の賢者様。どうか、私の話を聞いてはいただけませんか?」
「若い娘だね。
わたしゃ、かぼちゃを馬車にはできないし、惚れ薬も作れない、誰かに呪いをかけるのもごめんだね。
そんなワシに何の用だい?」
「貴女の聡明さは、ニワトコのおばあさまから聞きました。
どうか、どうか私の大切な種を芽吹かせる方法を教えてくださいませ。」
森の賢者から答えを聞いた娘は喜びに舞い上がりそうになりました。
それをぐっと押さえ、その方法を実行するために家への道を駆けていきます。
四日目は森でした。
藪に服を、肌を引っかかれながらも娘は駆けます。
五日目は、拓かれた道でした。
合わない靴を履き足まめを潰しながら、少女は駆けます。
六日目は大きな川でした。
服を縛り、靴を途中で無くしながら、種を胸に抱き幼女は駆けます。
そして、ついに家へ着きます。
母親は心配そうに入り口で娘の帰りを待っていました。
幼女はその姿に嬉しそうに笑うと、その胸へ飛び込みました。
そして、弾ける様にその姿は光へと帰ってしまいました。
母親は驚き家の中にいる父親に今見たことを話します。
父親はさめざめと泣く母親を慰め、暖かいスープを進めます。
しかし、母親はそのスープを食べることはできません。
匂いを嗅いだだけで吐き気をこみ上げるのです。
そして、その症状を父親へ伝え子供ができたかもしれないと言いました。
「そうか…今度は双子でないと良いな。」
父親は言います。
「えぇ、本当に。」
母親は赤い目を擦りながら言います。
胎児は種を抱いて、夢を見ました。
あくまで童話風の仕上がりです。
落ちはこんな予定ではなかったのに……一応警告つけました。
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