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History won't repeat itself.

作者: 蒼井 千尋

 ある日学校から帰ってくると、僕の部屋の真ん中に奇妙なモノが浮かんでいた。

バスケットボールくらいの大きさ、形をしている。素材は水。

一定の速度でくるくるとまわっている。

どうしてこんなモノが僕の部屋にあるのだろう?

そもそも・・・何で水が宙に浮いているんだ!?

目の前にあるモノがだんだん恐ろしくなってきて、居間いるはずの母さんに向かって声を張り上げた。

「母さん!何だよこれ!!」

「また部屋を掃除しちゃったこと怒ってるの?されたくなかったら、自分で掃除しときなさい、って言ってるでしょ?」

「・・・・・・。」

どうやら母さんはコイツの存在を知らないらしい。

いつの間にかこの奇妙な水の球の表面に、これまた奇妙な模様が現れている。

僕はさっきまでの恐ろしさを忘れて忘れて驚いた。

なぜって、その模様が地球上の大陸そっくりだったから。

慌てて机に置いてある地球儀と見比べてみると…そっくりなんてもんじゃない。

全く同じだ!信じられないことに小さな人間まで動いている!


 どうしたら良いのかわからず、この水の球を見つめていた。

しばらくするとずいぶん古風な船が、日本にあたる場所と中国にあたる場所を行きかうようになった。

韓国にあたる場所から二度、船の大群がおしよせたり、黒い蒸気船が現れたりもした。

僕たちが住んでいる地球と全く同じ歴史を辿っているみたいだ。

それを確認するために歴史の教科書をめくり、愕然とした。

教科書の全ページの半分以上が真っ白だった。

遣隋使のページも、元寇のページも、開国のページもない。

水の球の上で起きた歴史のページは、すべて白紙になっている。

「歴史が吸いとられている」そう思った。


 水の球の上でもうすぐ第二次世界大戦が終わる、という時だった。

僕は奇妙な感覚に襲われた。なんと、あの水の球に吸いこまれているのだ。

呼吸ができない!体中の関節がはずれそうだ!…助けてくれ!!

意識を失う直前、ふっ、と全てが楽になった。

立ちくらみに似た感覚に襲われる。目を開けていないのに、視界が真っ白だ。少しふらつく。

まともに立てるようになり、つぶっていた目を開いた。

が、またすぐに閉じた。目の前に広がっている光景が信じられなかった。


 もう一度ゆっくり目を開いてみるとそこにはさっきと同じように、

まだ崩れていない原爆ドームがあった。傍には1945年8月5日を示すカレンダー。

タイムスリップ?でもここはあの水の球の中だし…原爆ドームがなぜ崩れていない?っていうかこの日付どこかで…?あぁ、そういえばおととし家族で広島に旅行にいったなぁ…

めちゃくちゃな独り言が光の速度で脳を通過する。

僕はハッとした。

明日この町には原爆が落とされるのだ。

多くの人が命を奪われ、苦しみ、悲しみ、痛みが町を覆う…。

今この場所でそれを知っているのは僕だけだ。あんな歴史、繰りかえさせるもんか!

水の球の中だけでも、歴史を変えてやる!

僕は夏の空に誓った。空にはB29が飛んでいる。


皆様のこの3分間が無駄ではなかったことを祈ります…

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