青い封筒とオレンジ色の灯り
夕暮れ時のニューイングランド地方は、まるで一枚の古い絵葉書のようだった。
10月31日。マサチューセッツ州の小さな田舎町、メイプルウッド。
17歳のエミリー・ワトソンは、自宅の古びたポーチの階段に腰掛け、大きなカボチャと格闘していた。
秋の冷たい風が、彼女のブロンドの髪を揺らし、通りのあちこちに飾られたトウモロコシの殻をカサカサと鳴らす。町はすっかり、ハロウィンのオレンジ色と黒の衣装を身にまとっていた。
「よし、これで最後……っと」
エミリーは小さな彫刻ナイフを引き抜き、額の汗を拭った。
カボチャの表面には、不格好だがどこか愛嬌のある、大きなたれ目が特徴のジャック・オー・ランタンが完成していた。
口元は大きく三日月型にくり抜かれ、笑っているようにも、少し困っているようにも見える。
「うん、上出来。おじいちゃんが作っていたやつに、ちょっとは似てるかな」
エミリーはぽつりと呟いた。
彼女の祖父、アーサーは、昨年の冬にこの世を去った。
毎年ハロウィンになると、アーサーは誰よりも大きなカボチャを買い込み、不器用な手つきでジャック・オー・ランタンを作ってくれた。そして、夜になるとその中に小さなキャンドルを灯し、エミリーに古いアイルランドの民話を語って聞かせたものだった。
今年は、おじいちゃんがいない初めてのハロウィンだ。
エミリーはカボチャの「頭」にあたる蓋を開け、中にティーライトキャンドルを置いた。
ライターで火を灯し、そっと蓋を戻す。くり抜かれた目と口から、あたたかみのあるオレンジ色の光が、夕闇の中へじわりと染み出した。
その光を見た瞬間、胸の奥がキュッと締め付けられるような寂しさが込み上げてくる。
「ハッピー・ハロウィン、おじいちゃん」
エミリーはそう言うと、ポケットから折り畳んだ一枚の手紙を取り出した。
それは、アーサーが亡くなる数日前、病床でエミリーに宛てて遺してくれたものだった。
『親愛なるエミリーへ
これを読んでいるということは、私はもう君の隣でカボチャを彫ることはできないのだろう。
寂しがらないでおくれ。ハロウィンの夜、ジャック・オー・ランタンの灯火は、旅人を導くだけでなく、大切な人との絆を繋ぎ止める光でもある。
もし私に会いたくなったら、カボチャの灯りの向こう側を見てごらん。覚えているかい。君がまだ小さかった頃、私の作ったカボチャの顔を見て、「おじいちゃんみたいに笑ってる」と言ってくれたことを。あれ以来、私は毎年、同じ顔を彫ることにしたんだ。
追伸:キッチンの古いクッキー缶の底に、君への最後のプレゼントを隠してある。カボチャの光が最高に輝く夜に、開けてみなさい。』
手紙の文字は、晩年のアーサーの手の震えを映すように、ところどころ歪んでいた。
しかし、そこには間違いなく、エミリーを包み込むような深い愛情が宿っていた。
エミリーは手紙を大切にしまい、立ち上がってキッチンへと向かった。
棚の奥から取り出してきたのは、色褪せたタータンチェック柄の古いクッキー缶だ。
中を開けると、いくつかの古いボタンや、エミリーが幼い頃に描いた祖父の似顔絵、そしてその一番底に、小さな青い封筒が入っていた。
封筒には、エミリーのものとも祖父のものとも違う、繊細な筆跡でこう書かれていた。
『アーサーへ。1974年のハロウィンの夜に。』
「これって……おばあちゃんの手紙?」
エミリーの祖母、エレノアは、エミリーが生まれる前に亡くなっている。
祖父は生前、祖母との思い出を楽しそうに語ってくれたが、エミリーは祖母の手紙を一度も見せてもらったことがなかった。
エミリーは息を呑みながら、ゆっくりと封筒から便箋を取り出した。
『愛するアーサー。
今夜、あなたが作ってくれたジャック・オー・ランタンは、町で一番輝いているわ。
あなたが「この光があれば、どんなに暗い夜でも迷わずに僕のところへ帰ってこられる」と言ってくれたこと、忘れません。
私たちはまだ若く、これからたくさんの困難があるかもしれないけれど、このハロウィンの灯りがある限り、私たちの心は一つです。
来年も、その次の年も、ずっと一緒にカボチャを彫りましょうね。
あなたのエレノアより
追伸。来年のカボチャも、今年みたいな困り顔にしてね。あなたの作るあの顔が、私は大好きだから。』
五十年以上も前の手紙。
そこには、若き日の祖父母の、純粋で温かい約束が刻まれていた。
エミリーは手紙を胸に抱きしめた。
窓の外を見ると、エミリーが作ったジャック・オー・ランタンが、優しく暗闇を照らしている。
祖父が言っていた「最後のプレゼント」とは、これのことだったのだ。
祖父は、祖母から贈られたこの一通を何十年も大切に持っていた。
便箋の折り目を、エミリーはそっと指でなぞった。
自分の知らなかった祖父母の時間が、そこにあった。
「おじいちゃん、おばあちゃん……ありがとう」
エミリーの目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
それは悲しみの涙ではなく、心が温かいもので満たされたときの涙だった。
エミリーは机の引き出しから便箋を取り出した。今夜は、おじいちゃんとおばあちゃんに手紙を書こうと思った。
そのとき、外から近所の子供たちの「トリック・オア・トリート!」という元気な声が聞こえてきた。
エミリーは便箋を机に置き、涙を拭って微笑んだ。
お菓子を詰めたボウルを抱え、玄関のドアへと歩き出した。
ポーチのジャック・オー・ランタンは、まるで祖父母が微笑んでいるかのように、いつまでも優しく、力強く輝き続けていた。
(END)




