その秘密は盲目で
全てを失った後に、貴方が訪ねて来てくれた。
「もう、この世界にはいないのかと思っていたわ。不謹慎だけど」
「君こそだよ、シルヴィア。まさか生きているなんて、変なところで運がいいんだね」
かつて笑いあった日のように、軽口を叩く。あの日と違うのは、私がベッドの上だということだけだ。貴方は何も変わらずそこにいるのだろう。
「ルチーノ、これから私はどうなるの?」
「どうなるって言ったって、どうにもならないよ。これまでと一緒さ」
貴方が言うのは、いつもそんな曖昧な言葉だ。私は「そう」と呟くと、そのまま黙り込んだ。
私と貴方の間を、春の優しい風が吹き抜けていった。もう、私が春の芽吹きを目にすることはないのに。
そんなことを考えると、なんとも言えない寂寥感に包まれる。
それなのに、風と貴方だけが私のもとに舞い降りてくれる。それはなんと嬉しくも、寂しいことだろうか。
「ルチーノ、貴方は何故私のもとに来てくれたの?」
直後、聞いたことを後悔した。答えを聞かずに、知らないまま貴方の前からいなくなりたかった。
それでも聞いてしまったのは、最後に貴方の声を聞いていたかったからだろう。
「もちろん、心配だからさ。いつ僕の前からいなくなるのかと思うと気が気じゃない」
貴方が、寂しそうに笑った気がした。
「なんだか眠くなってきてしまったわ。せっかく来てくれたのに、ごめんなさい」
「謝ることなんてない。それじゃあおやすみ、眠り姫」
唇に柔らかな感触があった。
二度と感じられないそれを、存分に味わった。
目の前で永遠の眠りについたシルヴィアを、ルチーノは無機質な目で眺めていた。
「⋯⋯やっぱり」
彼女が頑なに外さなかったアイマスク。数分前までそれを抑えていた手からはもう、力を感じられなかった。
アイマスクの下から覗いた瞳は、焦点が合わず白く濁っていた。
「⋯⋯そんなに必死で隠さなくても良かったのに」
(あぁでも、最期に君の瞳に映ったものは何なのだろうか。壁かな。動物とかなら妬いちゃうな)
おどけてみせる。その姿を見せる相手は、もういないのに。
「やっぱり好きなんだなぁ」
あえて、現在形で口に出してみる。彼女の枷にならないようにと必死で隠してきた、その思いを。
彼女は、自分のおどけた姿と気取った姿しか知らないだろう。それしか見せてこなかった。楽しんでくれれば、それでいいから。
ただ。
思ってしまうのだ。
この思いを伝えていれば、と。
「──僕にも秘密くらいあるさ」




