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未確認来訪者  作者: 1N0R1
第二章
15/21

鼓動

飛来する槍は鋭く僕の皮膚を裂く。

あと少し反応が遅れていたら殺されていただろう。

出てきた血を風と雨が洗い流す。

能力者を中心に風が吹き荒れる。

嵐が大きく、激しくなっていく。

目を開けるのがやっとな程の雨と風が辺りを包む。

それに紛れて殺意を込めた槍が飛来する。

槍は肩に深く刺さる。

痛い。

このままだと僕は能力者に殺されてしまう。

殺す勇気はまだ無い。

けれど今やらなければならないんだ。

足を能力者の方向に向ける。

向かい風は僕を拒む。

肩に刺さった槍を抜く。

幸いにもまだ腕は動く。

力を入れると血が垂れる。

それでも、抜いた槍をしっかりと握る。

雨は僕の視界を奪う。

飛来する槍は僕の命を狙う。

力を振り絞って飛来する槍を弾き飛ばす。

その内の幾つかは僕の皮膚を削り取り、再び傷をつけた。

少しずつ足を速める。

雷雨と暴風の音が鼓膜を震わせる。

血を流しながら、足を前に進める。

足を進める度に風は強くなり僕の身体を押し戻そうとする。

その度に考えてしまう。

殺したくない。

殺さない方法だってあるかもしれない。

まだ殺すことを恐れている。

前に進めない。

相変わらず雷雨と暴風の音だけが聞こえる。

雨の匂いの中に血の匂いが混じる。

きっとこのままだと僕は死ぬ。

あの少女が力尽きた僕を殺すだろう。

そこで初めて僕が我儘だったことに気づいた。

殺したくないという感情は少女への慈悲ではないことに気づいた。

あの子のためを思うなら、

あの子の手を殺しに染めさせたくないと思うなら。

僕が、

僕がこの手で、

僕がこの手であの子を殺すしかない。

足を再び前に進める。

誰も殺させない。

少女も殺意を顕にする。

あの子に誰も殺させない。

暴風の中、雷雨の中、僕は走った。

槍が飛んでも、雷が落ちても、僕は走った。

水溜りを蹴る音が聞こえ始める。

殺したくはない。

でも殺さないといけない。

あの少女の為にも、誰かを殺す前に、誰かを傷つける前に、

奥に無邪気な笑顔でこっちを見る少女が見えた。

少女の鼻唄が小さく聞こえる。

雨風は少女に近づく度に強くなり、雷の音は激しく鳴っていた。

殺意を向けた槍が無数に飛んできても、僕は殺されないように、死なないように全て弾いた。

「もう殺しにきたの?」

少女の声が聞こえるようになった。

怖がるような声でも、怒るような声でもなく、

少し寂しそうな声でそう言ってきた。

「まだ、死にたくない」

少女はまだ遊びたいというようにそうポツリと呟く。

間合いに入った。

少女は手に持った槍でぎこちなく反撃を試みる。

その姿は今まで戦ってきた誰よりも健気だった。

強い風と殺意を持った槍が襲ってくる。

飛んでくる槍を弾きながら、少女の槍を往なしながら、葛藤していた。

手に力を込める。

せめて苦しくないように、

刹那、手に持った槍を少女の胸に突き刺した。

少女が手に持った槍が落ちる。

風が止む。

雨は勢いを弱め、雷は地面を揺らすのをやめた。

雲の裂け目から月光が落ちる。

月明かりは少女と僕を優しく照らした。

槍を伝って少女の心臓の鼓動が聞こえる。

とても弱々しかった。

とてもゆっくりだった。

少女の足元に血が落ちる。

「ぁ……あぁ……」

少女の口から声にならない声が漏れ出す

鼓動が遅く、小さくなっていく。

雨は止み、残り香だけが漂う。

糸が切れたかのように動かなくなる少女。

鼓動が止んだ。

この子が落とした槍もこの子を貫く槍も消えて、支えのなくなった少女は地面に倒れ込んだ。

血が流れ始める。

貫かれた胸以外は傷一つなく綺麗なままだった。

東の空が少しずつ明るくなっていく。

冷たい夜を朝日が溶かした。

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