首輪
「安心して、あなたが言うことを聞いてくれればあの人たちを殺したりはしないから。」
暴風に向かう彼らは既に少女の人質だ。
「……何をすればいい」
「言うこと聞くようになってくれたんだ。でも安心して、お姉ちゃんやあの人たちの命を奪うような命令はしないから。とりあえず、着いてきて。」
下手に動けば全員殺される。
今はこの少女に従うしかない。
そうして私は仲間が見えなくなる所まで連れてこられた。
「じゃあ、お話ししよっか。」
少女が私の方に振り返り、そう言い放つ。
風がいつもより鋭い音を鳴らしていた。
「まず最初に聞くけど。お姉ちゃんはここがどんな場所だったか知ってる?」
「天の神に祈る場所だったんだっけ。天災が来ないようにとか、豊作を願ってとか。」
冷静に言葉を選ぶ。
「詳しいね、もう100年以上前に無くなった文化なのに」
「あなたが言ってる神って天の神のこと?」
少女から一瞬笑みが消える。
「天の神は偶像崇拝。私の信仰している神は本物の神様だからね。」
少女は続けて話す。
「お姉ちゃんは質問しないで、私の聞いたことに答えるだけでいいからね。」
「……分かった。」
少女は話したいのではなく話を聞いて欲しいのだろう。
「お姉ちゃん。じゃあ質問に正直に答えてね。嘘はだめだよ。」
「うん。」
風が一段と重くなった気がした。
「お姉ちゃんは神様はいると思う?」
「………いいえ」
「そうなんだ。にしては天の神についてよく知ってるね。」
風が勢いを強める。
一歩下がろうとする。
「お姉ちゃん。一歩も動かないでね。」
「…………はい」
私が止まると風は勢いを弱めた。
逃げられない。
「お姉ちゃん怖いの?正直に答えて」
「…………」
首を縦に振る。
声が出ない。
「ごめんねお姉ちゃん。すぐに解放してあげるから。」
少女は私の周りを歩きながら質問を続ける。
「じゃあ少し空気を和ませよう。好きな果物何?」
「……………りんご」
声を出して初めて自分が泣いていることが分かった。
「声出すのも辛い?じゃあ首を縦に振るか横に振るかで答えてくれたらいいからね。」
また少し風が強くなる。
「さっきの人達以外にも仲間はいる?」
「…………」
首を少し縦に振る。
「そっか、正直に答えれて偉いね。じゃあその人達はお姉ちゃんの居場所分かる?」
首を横に振る。
「よかった。じゃあまだお話しできるね。」
辺りは暗闇で何も見えない。
聞こえるのは風の音と少女の声と足音だけ。
涙が地面に落ちる。
「大丈夫だよ。ここには誰も来ないから。ね?」
風がピタリと止む。
私の目の前で少女が止まる。
「ごめんねお姉ちゃん。怖かったよね。じゃあ最後に聞くけど、私の信じる神を信じてる?」
首すら動かない。
「お姉ちゃん。答えないのは無しだよ?正直に答えて。」
「……………信じる…から、もう、助け」
声にならない声を出す。
「お姉ちゃんダメだよ。正直に答えないと。」
風が一気に強くなる。
殺意すら感じる。
「動いちゃ駄目、だからね?」
嫌だ、
「大丈夫だよお姉ちゃん。約束破った罰を与えるだけ。どうせ動かないなら足はもう要らないよね?」
嫌だ、嫌だ、
少女は先程降らせた槍を持って近づいてくる。
「一発じゃ取れないと思うから何回か痛いの我慢してね。」
嫌だ、嫌だ、嫌だ、
少女は槍を振り上げる。
目を瞑る。
その瞬間、何かが物を弾いた音がした。
「ミラさん。もう大丈夫です。」
目を開ける。
そこには月の光を反射する槍を持った新人がいた。




