火炎
頭上に火の玉が落ちてくる。
その一瞬は槍の一撃の重さも火の熱さも暴風のことすらも忘れていた。
雨のように風に揺られながら火の玉は落ちる。
火の玉が目の前まで迫る。
その瞬間、僕の身体は誰かに引っ張られた。
「アーク、大丈夫?」
気づけば僕は暴風の外にいた。
「はい、ミラさんありがとうございます。」
一瞬、何が起きたか分からなかったが、きっと彼女が僕を助けてくれたのだろう。
暴風は炎を纏い周囲を焼き尽くしている。
肌が焼けて痛い。
暴風の中心は炎の所為でよく見えない。
だが、この規模から考えると真ん中に能力者がいるのだろう。
辺りに灰が飛び散る。
能力者を討伐すれば能力の影響も止む。
能力者自身の身体構造は普通の人間と変わらない。
まだ能力者がこの中心にいるとすれば、中心には人が生きていられるスペースがある筈だ。
大きな炎の光が眼に刺さる。
重たい足を上げる。
体の節々が痛い。
だが、大きな傷はない。
そのまま暴風に突っ込めばこの身体は灰になって終わるだろう。
もし運良く生き残れたとしても中央で能力者とやり合える体力を残せるとは思えない。
上を見上げる。
火の玉は低い高さで産まれて地上に落ちる。
行ける道は上からの道しかない。
竜巻の中から燃えた岩や木が飛んでくる。
先程まで飛ばされないようにと全身に入れていた力を一気に抜く。
地面に突き刺さった槍を手に取る。
足の筋肉は震えているが飛べるだろう。
飛んでくる物を見極める。
既に地面に着いた燃えている岩から落ちてくる岩に跳び移る。
肌が焼ける。
炎の温度を直に感じる。
痛みを振り払いながら跳び続ける。
火の玉が産まれる高さは暴風より高い。
だがこの風を超えられる高さまで到達できれば火の玉なんかはどうにでもできる。
僕から能力者が見えないように能力者も僕を視認できないだろう。
飛んでくる物に合わせて跳ぶ。
行ける。
この方法なら暴風の壁を突破できる。
次の足場を選り好みする暇はない。
飛び移れる足場に縋る。
気づけば身体は熱さを忘れていた。
***
先程まで私の目の前で火の玉に焼かれそうになっていたアークが華麗に飛んでくる物を足場にして飛んでいる。
運だけで一発合格した訳では無さそうだ。
他のみんなもそれに続くように跳ぶ。
私も先輩としての威厳を見せよう。
私は知っている。
あの中心に能力者はいない。
あの暴風はダミーだ。
「そこにいるんでしょ?」
炎の風とは真逆の方向に目を向けて言い放つ。
「なんだ、お姉ちゃん気づいていたのか。」
そこにはまだ年端もいかない位の女の子がいた。
面倒な奴が相手になってしまった。
「何が目的?」
「人々は既に神への信仰を失った。だからもう一度神を信じて欲しいの。」
また似たような返答だ。
言葉を話す能力者は揃いも揃って神の話をする。
これ以上話しても意味はない。
一気に距離を詰める。
「あなたなら分かってくれると思ったんだけどな。」
物理的に空気が重くなる。
「ねぇ、お姉ちゃん。もし今あの人たちがいる所にいきなり強い風が吹いたらどうなると思う?」
後ろの暴風が少し静かになった気がした。
「じゃあ、始めよっか。」
少女は無邪気な笑顔を作った。




