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『セカイの果て』【2000文字】

作者: 有梨束

好きなバンドの新曲がイマイチだった。

今までは苦しい奴らの味方のような歌詞だった、そこが好きだった。

今回は路線変更でもしたのか、未来は明るいから行くぞみたいな歌詞になっていた。

音がいいだけに、惜しかった。

求めていたものではなくて、結構ガッカリした。

別に何処にも行きたくないのに。

ただここにいる私らが、消えないために歌って欲しかっただけなのに。

『新曲、なんか思っていたのと違った』

SNSでそう呟いた。

そしたら、思ったより返信コメントがついた。

『今回も最高だったのにわかってない、にわかやめてほしい』

『バンドの新しい面を素直に喜べない感性乏しい残念』

『そんなこと言っちゃうなんて、本当にファン?』

あ、メンドクサと思って、鍵アカウントに設定し直した。

鍵をかける前に、3人だけ違う意見が来た。

『わかる、なんか期待しすぎちゃっていたみたい』

『コレジャナイ感すごい』

『そっち行っちゃったかあああですよね』

その3人だけフォローリクエストを許可した。

そのあともなんとなく4人で話すようになった。

歳が近いのもあって、打ち解けるのは早かった。

1週間もした頃には、『雪』が作ってくれた4人用のトークチャットで喋っていた。

バンドの話から学校の話まで、誰かがコメントすれば誰かしらは反応する。

そんな日常の一部になっていった。


 N.『学校終わり』

 スン『おつかれ』

 雪『塾向かってる』

 まめ『塾の行き帰りで聴くイドケイドが一番好き』

 雪『わかる 新曲以外ね』

 スン『それは仕方ない』

 雪『新曲はイドケイドじゃないと思ってるから』

 スン『それ他で言うなよ N.が絡まれた時みたいになるから』

 まめ『あれはひどかったよね』

 雪『おかげでうちら繋がったから』

 N.『そうだね それはよかった』


電車の中、イドケイドの曲をシャッフルで流しながら、返信する。

イヤホンからする音が例の新曲だったから、私もそっと飛ばす。

 

 まめ『いつかみんなでライブ行けたらいいよね』

 雪『いいね!行きたい!!!』

 スン『次も同じような歌だったら行くの考えるけどな』

 雪『それもそうか』


みんなでライブか、次のライブまでこのチャットあるのかな。

 

 N.『未成年ってライブ行けないよね 何度悔しい思いをしたか』

 雪『わかるーーー』

 まめ『早く大人になりたいな』

 スン『俺があと半年したら成人するから、そしたら連れていけるぞ』

 雪『それは神』

 まめ『それ助かる』

 N.『スンが私たちの保護者ね』

 スン『はぐれんなよ』

 雪『はーいパパー』

 スン『パパやめろ』

 まめ『ライブのセトリ何がいい?』

 雪『やばいそれ考えるの絶対楽しい』

 スン『デビュー曲は外せない』


それからはどの曲がライブで聴けたら熱いかで盛り上がった。

たのしいな。

家に帰ったら、今朝出しっぱなしにしてきたお皿洗って、弁当箱も洗って。

着替えて、バイトに行って、お母さんが帰ってくる前にご飯出来るかな。

あ、買い出し行ってないや。

新曲が気に入らなくても、私の生活は変わらない。

明日のお弁当のおかず何作ろう。


4ヶ月後、新曲が発表された。

この前の曲は迷走だったと言わんばかりに、味方な歌に戻っていた。

よかった、私の好きなバンドだった。

これでまた、音楽を聴いていられる。

『このイドケイドがすきです』

今も鍵アカウントのまま、そう呟いた。

『やっぱイドケイド最高』

『前回もよかったけど、イドケイドはこれだよね』

『イドケイドが作る音楽はなんでもいいに決まってる』

SNSをぼーっと眺めると、だいたいそんな感じだった。



セカイの果てまで行ってみても クソみたいな人生は変わらなかった



やっぱり何処まで行っても変わらないんだと、安心した。

やっぱりここにいるしかないんだ、私たち。

だからせめてそこでそのまま歌っててくれと思った。

最高だった。

そして私たちのチャットは続いていた。

 

 まめ『待ってた イドケイドおかえりすぎる嬉しい』

 スン『やっっばいぐらい良くなってたな』

 雪『これこれこれーーー!ってなった』

 N.『サビがえぐい』

 雪『しかもツアー決まったね!』

 まめ『新曲と同じ名前の『セカイの果てツアー』なのいいよね』

 スン『最高なのは学生席あること』

 N.『まじそれ』

 雪『それーーー!』

 まめ『僕らも行っていいってことだよね?』

 スン『そう』

 雪『ねえねえみんなでほんとに行っちゃう!?』

 スン『申し込んでみるか 全員4枚で』

 N.『まじで行くなら行くよ』

 まめ『行きたい!』

 雪『行きたいー!』

 スン『行くか』

 N.『行こう』


バイトのシフトを少し多めに入れてもらおう。

足りなかったら、お年玉を崩そう。

お母さんに相談して、ご飯の作り置きをして出かけられるようにしよう。

新しい服で行けたらいいな。

ううん、ライブTシャツがいい。

それで4人で着られたら、もっといい。

 

 N.『ライブTシャツ欲しい』

 雪『めっちゃいい!おそろにしようよ』


雪ならそう言うと思った。

思わず画面の文字に、笑ってしまう。

まだ当たってないのに気が早いな、私たち。

「あーあ、楽しみだな」



毎日投稿11日目。お読みくださりありがとうございました!

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