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赤い自転車

作者: 藤谷とう



 赤い自転車。

 それが、月曜の朝にマンションのエントランスに置かれるようになった。

 半年前のことだ。


 毎週管理人によって撤去されているが、ごみ集積所に置かれたそれは、昼にはなくなるらしい。

 そして、また次の月曜になると朝に置かれている。

 繰り返し、繰り返し。

 月曜になれば、住民の頭の片隅にはあの赤い自転車が思い浮かんでいるに違いない。


 最初は、誰もが不気味がった。

 なぜ赤い自転車がエントランスに置かれるのか、なんのために置かれるのか、誰が置いていくのか、全くわからない。

 いたずらだと思った管理人は防犯カメラをつけたが、どうしてか月曜の朝の映像は消えるそうで、そう通達された住民は何も言えなくなっていた。

 どうしようもない。

 だってそれは月曜に置かれるのだ。

 赤い自転車は。




「月曜の朝ですね」


 エレベーターで一緒になった隣人の独身サラリーマンが言う。

 私は軽く頷いた。


「そうですね」

「自転車、どう思います?」

「さあ……なんかもう皆さん諦めてますよね。管理人さんなんて怖がってもないし」

「納得したのかもしれませんね」

「納得?」


 わからなくもないが、とりあえず聞いてみる。

 正直に言うと、彼の声が好みなのだ。そんな邪な気持ちを知るはずもなく、彼は話し始めた。


「最初は心霊現象だとみんな思って怖がっていましたが……今や奥様方は〝不倫相手の自転車〟って言って笑ってますし、子どもたちは〝乗れたら勇者〟って言ってるし、管理組合の会合では〝せめて自転車の色でも変えてバリエーションを増やせ。生ぬるい〟なんて話しています」

「……そんなことに?」

「ええ。水沢さんはどう思います?」


 聞かれ、私は首をひねった。


「そうですね……心霊現象だとしたら、なぜ自転車なのかは気になりますね」

「あれ、折りたたみですしね。楽してますよね」

「確かに。重い電動自転車を持ってくる気合はないんですかね?」

「わかります」


 隣人が頷く。


「もう少し怖いものを選ぼうとしないところに、愛らしさを感じますよね。必死で折りたたみの赤い自転車を運ぶ幽霊……」

「でもすぐゴミ捨て場に」

「回収する幽霊……」

「そしてまた月曜日に運び込む」


 ふ、と二人で笑い合う。彼は無邪気に目を細め、エレベーターの天井を見た。



「管理人さんの負担がないように、台車を置くのはどうでしょう? ここに置いてくださいって張り紙して」

「あ、それ、いいと思います」



 エレベーターが一階につき、開く。



 赤い何かが、ちらりと見えた。










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― 新着の感想 ―
普通に怪談かと思って読み進めれば、意外な展開で、でも人間の「慣れる」能力ならあり得るのかと思っていまいました。 管理人さんも、いちいち粗大ゴミ捨て場に動かさなくとも、それこそ中古屋とか自転車屋に持って…
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