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サマー・マーメイド・ループ ~溺れる人魚にハッピーエンドを見せたい俺は、夏休みを繰り返す~  作者: 雪村灯里


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9/24

#9 合宿と風呂と異変たち

 あと2日で『満月の(さかづき)』を探し出さないと、7日後には死んでしまう、人魚の珊瑚(さんご)


 彼女を人魚の体に戻して、海に帰したい。いや、返さないとダメなんだという使命感が強かった。俺の望みに頷いた珊瑚。それを見て蒼太(そうた)が提案した。

 

「じゃあ、変更しなくちゃね。オカルト研究会・今年の課題は『満月の杯』を探す――でいいかな? 会長?」


 彼は優しく目を細めニヤリと笑う。彩葉(いろは)も頷きながら、楽しそうに目を輝かせる……おまえら!!


「よし! オカ研の威信をかけて! 『満月の杯』を見つけ出すぞ!!」

「おーーぅ!!」

「うん!」


 俺達は握り締めた右手を天に突き上げ、気合を入れた。やるなら、とことんやらねば!


「よし! 時間は無駄に出来ない! 今日はウチで合宿だ!!」

「悟、急に泊まって大丈夫なの? ご両親に連絡しなくて大丈夫?」


 ――うっ……。


 蒼太からリアルを突きつけられ、俺はトーンダウンした。この問題をクリアしない限り彼から合宿の許可は下りない。


 俺はスマホを取り出し、両親に電話をかけた。


 ◆


「――と言う事で、ウチでオカ研の合宿したいんだケド……」


「まぁ、彩葉ちゃんも蒼太君も知ってるからいいけど、ハメを外しちゃダメよ?」


 許可は存外(ぞんがい)あっさり出た。

 母上! ありがとうございますっ!!


「分かってるよ。俺達、調べもので忙しいんだ。書斎の本借りるよ?」


「書斎~? え…? ちょっと待って。……うんうん。父さんが、パソコンと机に置いてある本に触らなければいいって。あと私の配信部屋も入っちゃダメよ?」


「もちろん! 触りませんし、触らせません!!」


 むむ? 電話の向こう側が、蝉の声で騒がしい。それに通話の音質も(かんば)しくない。二人はどんな所に居るんだ?


「――で、二人とも取材の調子はどう?」

「もうお守りの数珠を忘れたせいか、ツイてないのよね? 折り畳み傘を忘れたり、電車一本乗り遅れたり。でも何とか到着して、このあと村のお祭に参加するの。奇祭と言われてるのよ~。楽しみだわ! じゃっ! そういう事で、火の始末と戸締りしっかりね」


 母さんは言うだけ言って電話を切った。


 確かに、リビングの戸棚のトレーには、母さんがお守り代わりに付けてる数珠が、寂しそうに置いてある。次の瞬間、数珠のゴムがプチッと切れて、石がトレーの中で散らばった。なんか不吉!


 ――村の奇祭って……なんだ? 


「悟、神妙な顔してるけど、いい返事貰えなかった? やっぱり急だったよね?」


 心配した蒼太が寄ってきた。彼は洗濯し乾燥した、俺と彼自身の服を抱えている。あの時の俺、洗濯機を回したのか。仕事ができる。


「いんや、とりあえず、両親からはOKもらった」

「急に申し訳ないね……あとでお礼言わなきゃ。こちらも祖父から連絡が有った。祠の件、警察に連絡してくれたって」


 そうでした。祠も壊れたんだった。


 珊瑚の件で忘れかけていたが、祠も気がかりだ。悪い事が起きなければいいなぁ。思わず背筋がぶるっとする。


 あれ? 女子二人の姿が見えない。


「彩葉と珊瑚は?」

「お風呂借りるって言ってたよ? 白浜さん海から出た後は、そのまま寝込んでたから」


 それは確かに、風呂に入った方がいい。彩葉も一緒なら安心だここは任せよう。しかし幼馴染()、第二の家の如く馴染んでやがる。


 でも、風呂か……


「悟。煩悩は捨てて。僕達は調べものを進めよう」


 さすが親友、俺の思考まで見抜いてやがる。


 ◆


 我が家の2階は洋室が3部屋ある。1つは俺の部屋、1つは両親の寝室、そして残るは、両親の仕事部屋兼書斎となっている。この部屋が2階では一番広い。


「わぁ、悟のお父さん大学で教鞭を取っているんだっけ? すごいね、プロの仕事部屋だ……いいのかい? これ(資料)、お父さん達の仕事道具だろ?」


 蒼太は目を輝かせながら部屋を見渡した。彼の言う通り、ここには取材した内容を書き記したノートやパソコン、一番目立つのは本でびっしりと詰まった本棚がある。これだけの本を置くので、家の頑丈さにはこだわっているらしい。


 扉の隙間から、一反がひらりと部屋に入ってくる。こいつネコみたいだな。


「大丈夫、許可は取ってある。パソコンと机の物に触らないでくれって」

「了解。あれ? この小部屋は?」

「それは配……母さんの仕事部屋だから入らないで? (たた)られる」

「祟られるんだ。分かった」


 蒼太は小さな防音室に向かい、手を合わせた。律儀な男である。大丈夫だ。お前なら祟られることは無い。


 俺達は早速、人魚伝説の本とこの地方の話が書かれた本を、それぞれ読み始めた。今日は不思議なことが起き過ぎて、混乱を通り越し、受け入れようとする俺が居る。受け入れる前に、頭の切れる蒼太に話してみる事にした。


「なぁ、蒼太」

「なんだい?」

「実は俺、珊瑚ちゃんに逢った事が有るんだ」


 俺の言葉に驚いた蒼太が、本から顔を上げて、こちらを見た。


「逢ったって、どこで?」

「まぁ、その……夢」


 正直、夢で会ったなんて恥ずかしくて言いたくない。


「へぇ、どんな夢だったの?」


 だが、蒼太は馬鹿にせず聞いてくれる自信があった。


「珊瑚ちゃんを食べて不老不死になる夢。夢の中の俺は、彼女が大好きだった。絶対に離れたくなくないって気持ちが強かった。でも、珊瑚ちゃんは死にそうで……死の間際に『私を食べて』って言われた。……食べるって変な意味じゃないぞ!?」


「それで、食べたの?」


「……ああ」


「わぉ、カニバリズム。でも人魚か。彼女を食べるのに抵抗なかったの?」


「俺だって、嗜好じゃないから目が覚めてから引いたよ。でも、夢の中では、珊瑚にお願いされたら、何も考えられなかった」


 蒼太は真剣に考えながら、思考を口から零した。


「う~ん……夢で逢った人魚か。悟の願望? いや、何かを象徴してる? それとも……予知夢? 他に覚えていることは?」


「う~ん。浜辺で月が丸かった」


「満月までに助けられなかったら、珊瑚ちゃんが死ぬって予兆なのかな。う~ん……」


「実は、夢以外にも変なことが有ってさ……」


 それを聞いて、さすがの蒼太もフリーズした。


「本当だって、嘘じゃないって!」


 俺は書置きや自転車の件も話した。説明していて自分でも、今日は異常が起り過ぎていると思う。


「不思議な夢と、書置き。夢の人物と現実で再会……まるで未来から警告されてるみたいだね」


 ――未来からの警告。


「未来……昼間のテキパキしていた悟も、未来の悟だったら、いろいろ知っている事に頷ける。自転車については分からないな。単純に盗まれただけかな?」


 確かに、不老不死なんて嫌だ。夢の中の俺は、とても後悔していた。


『彼女を好きにならければ。彼女を助けなければ……戻りたい。彼女と出会う前に。そして、全てをやり直したい!』――と。


 書置きの一方は、俺が祠に行く事を止めていた。俺は、珊瑚を助けて正解だったのだろうか? どっちが正しいのだろう? 未来が分かれば楽なのに……。


 一反が甘えるように俺の頬にすり寄ってきた。


「さすがにもう、異変は無いでしょ?」


 あ。そうだ、忘れてた。

 

「いや、まだある。変な生き物も見えるようになった。一反木綿みたいな奴」


「は?」


 さすがの蒼太も、3回目は俺をジト目で見るのであった。

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