#24 新学期は事件の香り
夏休みが終わって、2学期が始まった。
俺は自分の席で、頬杖を突きながらぼんやりと窓の外を眺める。空には鳥と妖怪が楽しそうに遊び、一反木綿も窓の手すりに絡まり、風にはためいている。
俺は相変わらず妖怪が見えたまま。恋焦がれた世界のハズなのに、ため息が止まらない。ずっと瞼の裏に、珊瑚の笑顔が焼き付いて離れないのだ。もう会えないと分かっているのに……未練がましいな、俺。
「悟、おはよう」
蒼太が、ひと組の机と椅子を運び込み、空いていた俺の隣に置いた。その後ろには、蒼太の鞄を抱えた彩葉がいる。
「おはよう、悟。ため息が止まらないね……」
蒼太と彩葉は先日の一件から、少し距離が近づいたみたいだ。寂しさと羨ましい気持ちは勿論ある。でも、2人とも変わらず俺に接してくれて嬉しかった。
「はぁー……。秋は人をセンチメンタルにさせるんだよ」
「まだ秋には遠いけどね」
「うん、暑いよ?」
「うるせーな。何だよその机、転校生か?」
蒼太が机の上に乗せていた椅子をおろし、天板の埃を払いながら説明した。
「そうみたいだよ? 一階で先生と目が合って、頼まれた」
「この新学期、転入生が多いみたいだよ? 4人だって!」
――へぇ~。そんなに。
確かに多いが、俺の心はその情報に靡かなかった。俺は机に体を預けると、しおしおと崩れる。
「本当に珊瑚ちゃんが好きだったのね。無くした眼鏡の代わりも、まだ造りに行ってなかったんだ。重症ね……」
「ああ。思いのほか、心の穴はデカかったみたいだ。そっとしといてくれ」
「はいはい。じゃあ、私はクラスに行くね! また放課後、オカ研で!」
彩葉は眩しい笑顔を振りまき、颯爽と去って行った。
「時間が解決するのを、待つしかないね」
蒼太もそう言い残して、自席へと去った。
新しい出会いだなんて、彼女の代わりなんて誰もいないのに……
俺の心のように重いチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
「みんな久しぶりだな。夏休みも終わって2学期だ。気を引き締めて行けよ! 今日から新しい仲間も増える。さあ、入っておいで」
先生の声に促されて、教室前方の引き戸がガラリと開いた。クラスメイトが「わぁ」とか「おぉ」とか言ってざわつき始めた。
――みんな子供だなぁ。
ふてくされた俺も転入生の姿を見て……心臓が跳ねた。驚きのあまりに、派手な音を立てて、立ち上がってしまう。
「おいおい、みんな静かにしなさい。永島、席に着け。転入生が自己紹介できないだろ?」
クラスがどっと沸いた。俺は驚きを顔に張り付かせたまま、ゆっくりと椅子に座る。教室の前方、転入生としてそこに居たのは……俺が何度もタイムリープして追いかけた、あの子だった。
「はじめまして。白浜 珊瑚と言います。この町で過ごした夏休みが忘れられなくて、来ちゃいました。みなさん、どうぞよろしくお願いします」
「じゃあ、白浜さんは窓際の一番後ろの席に座って」
彼女は笑顔で「はい」と答えると、2本の脚で歩みを進める。彼女は俺の隣の席に座ると、こちらを見て優しく微笑んだ。その笑顔の奥には、悲しみも辛さも何も無い。
まさか、これも夢じゃないかと疑った俺は、久しぶりに彼女の名前を呼ぶ。
「珊瑚?」
珊瑚は微笑みながら「静かに」と、口の前に人差し指を添えた。そして、自身の鞄の中から、小さな包みを取り出す。丁寧に包みを解き、中身を優しく俺の机の上に置いた。
それは、俺が海に落とした眼鏡だった。
彼女は子供っぽく笑って答えた。
「見つけるのに時間がかかって、来るのが遅れちゃいました。やっぱり、未来が見えない方がわくわくするね? これからもよろしく、悟君」
夏のループから抜け出した俺達に待っていたのは、新たな物語の始まりだった。人魚の珊瑚、あやかし、オカルト研……俺の青春は、さらに賑やかなものとなる。
でもそれは、別の話。
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!




