#21 わかりあえる時を目指して
打ち合わせを終えた俺たちは、合宿の準備を始めた。
両親に合宿の許可をとるついでに、彼等の旅の進捗を尋ねたら『全日程順調♪』とご満悦の答えが帰ってきた。
――変なフラグが立たなくて良かった。思う存分旅を楽しんできてくれ。
「悟、ご両親の許可はとれた?」
「ああ、問題ない。そうだ! 蒼太、彩葉! 俺がタイムリープしてるって信じてくれただろ?」
「まあ、そうだね」
「う、うん。何企んでるのよ……」
――おっ? さすが幼馴染、勘が鋭いな。
「2人が名字呼びだと、俺はこのあと大変な目に会うんだ。だから、それを回避するために2人とも名字呼び禁止な」
俺は彩葉のために1つ嘘をついた。――君ら仲良くなれよ。
しかし、耳まで真っ赤にした彩葉は抵抗する。
「ふぇ!? なに言って……ああっ! 悟! その顔は!!」
「彩葉ちゃん」
「ふぇっっ!!」
蒼太に名前で呼ばれた彩葉はプルプル震えながらフリーズした。
「悟が酷い目にあうんじゃ、仕方ないね。僕も苗字で呼ぶのは、堅苦しいかなと思っていたし。彩葉ちゃんって呼んでいいかな?」
「ふぇ……う、うん。いいよ……蒼太君」
蒼太に優しく尋ねられ、観念した彩葉は素直に頷いた。
俺は心の中でガッツポーズを決め、彼等にミッションを課す。
「俺がこのあと買い出しに行くと、大変な目に遭うんだ。だから、二人で夕飯の買い出しを頼む。彩葉のカレーは絶品だし。米は俺が炊くから。な? な?」
「わ、分かったわ……ありがとう、悟」
2人はスーパーへと買い出しに向かった。俺と珊瑚が玄関で見送りをしていたら、珊瑚がチラリと俺を見る。おかしそうにクスクスと笑って言ったのだ。
「悟君、さっき鼻がピクピクしてましたよ?」
「うそ! じゃぁ、嘘って彩葉にバレてるじゃん!!」
なんて、やり取りをしていたら……客間から、シーツをすっぽり被った真珠が現れた。
「喉、渇いた……お水、くれるかしら」
◆
今回、彩葉には2名分のコーディネート一式を揃えてもらっていた。彩葉と蒼太もカンパしてくれたお陰で、俺の財布はライフはゼロにならずに済んだ。
フリルのついた白いワンピースを纏う真珠。
「人間の服も悪くないわね!」
すっかり機嫌も直ったようだ。俺が麦茶を入れたグラスを差し出すと、「何この濁った水!」と文句をブー垂れたが、珊瑚が見本に飲んで見せると、嫌々ながらも飲んでくれた。
「何この味! 美味しい!! もっと飲みたい!!」
グラスも空っぽ。いい飲みっぷりである。
「香ばしくてうまいだろ? 麦茶って言うんだ。あ! 脚に液体を溢さないように気を付けろよ? 人魚の脚に戻るぞ」
俺は、人間の飲み物を誉められて嬉しくなり、つい余計なことを言ってしまった。
「……人魚の脚に戻るですって? そんなわけ無いわ! 私が作った薬よ!?」
バァン!!
プライドを傷つけられた真珠は、テーブルを思いっきり叩いた。その衝撃でグラスが跳ねて倒れてしまう。珊瑚のグラスの中に残っていた麦茶が、紺色のワンピースの裾を濡らした。
もちろん珊瑚の脚が、人魚のそれに戻ってしまう。この光景を見た真珠は絶句した。珊瑚も予測していなかった事態に口を押え、慌てて拭くものを探している。
「珊瑚、これを使ってくれ」
俺は持っていたタオルを珊瑚に渡した。珊瑚はタオルを受け取り急いで水滴をふき取り、人間の脚へと戻る。
「何で?……レシピ通りなのに。人魚に戻れるなら、魅了も使えるんじゃ……!」
しかし、隣にいた珊瑚が真珠にコソコソと耳打ちする。すると、真珠はみるみるうちに青ざめた。慌てて口を塞ぎ。俺に向かってぼそりと呟いたのだ。
「あんた……鬼ね」
――ええ?
「真珠ちゃん、そんなこと言わないで? それに、わかったら魅了は使わないでね?」
真珠は無言でコクコクと頷く。――珊瑚さん? 何、吹き込んだの??
「何で、悟は薬が不完全だって知ってるの?」
「珊瑚から聞いた。不完全だから人魚に戻っても水の中で呼吸が出来ないし、人間の姿でも7日しか生きられないのも知っている」
真珠は青ざめた顔で珊瑚を見つめた。
「なんで、不完全な薬の特性をそこまで知り尽くしているの? 飲んだばかりよね? それに、何でさっきは驚いたの? あんたの先見、何かおかしいとは思っていたの…………悟、席を外してもらえるかしら? 珊瑚とふたりで話したい」
「ヘイヘイ、喧嘩すんなよ? 庭で一反と遊んでるから、終わったら呼んでくれ」
俺は日の傾きかけた庭で一反と戯れる。珊瑚が言ったっ通り、夕方になると妖怪達の姿が多く見えた。空にも鳥の群れに混ざって、妖怪らしきものが飛んでいる。
「あーあ。一反。俺、しばらくしたらお前の事も見えなくなるらしい」
一旦はそれを聞くとオロオロした。全力で俺に頬擦りしてくる。言葉は話さないが感情豊かで可愛い奴だ。
「ありがとう、忘れねーよ。見えなくなっても、こうやって頬擦りしてくれたら分かるからさ」
一反も珊瑚もずっと近くに居ればいいのに。別れを思い寂しくなっていると、リビングのサッシを軽くノックする音が聞こえた。珊瑚が話し終えた合図をくれた。
俺が室内に戻ると、いつもと変わらない珊瑚と悲しそうな真珠がいた。
「話せたか?」
「うん、ありがとう……。私、お兄ちゃんを説得するわ。お兄ちゃんと珊瑚と3人で海に帰る!」
「何だよ、どんな風の吹き回しだ?」
「珊瑚に全部吐かせたの。本当、2人して何無謀なことしてるのよ……2人ともバカなんだから。泣かせないでよ、妖力がもったいない」
◆
「何これ! 刺激的な香り! 彩葉、この料理何て言うの!!」
しゅんとしていた真珠は、彩葉のカレーですっかり上機嫌になっていた。
「うん! 美味しいー!!」
「悟くんの言う通り、彩葉ちゃんのカレーは美味しいね」
「そんなぁ~。照れちゃうなぁ~」
人魚2人に褒められて満更でもない彩葉。気持ちの表現は不器用だが、手先は器用だ。
「僕も好きだな、彩葉ちゃんの作るカレー。隠し味に何使ってるの?」
「う、嬉しいな……それは蒼太くんでも秘密」
「インスタントコーヒーだろ? ――!」
テーブルの下で脛を蹴られた。怖ぇ! いまどき暴力ヒロインは流行らんぞ!?
「彩葉、私もっと食べたい!」
「うん、おかわりもって来るね♪」
何とも賑やかな食卓となった。何か吹っ切れた真珠は、薬づくりと料理にシンパシーを感じ、彩葉に質問する。もともと世話好きの彩葉も、可愛い後輩が出来たみたいで、甲斐甲斐しく教えていた。
夕食を食べ終え、俺と蒼太は並んで食器を洗う。
彩葉には沢山働いてもらったので、食後はゆっくりしてもらってる。女3人、話に花を咲かせていた。
「悟、ありがとう。少し彩葉ちゃんと仲良くなれた気がする」
「そりゃよかった。俺も酷い目に会わずに済みそうで良かったよ」
「とうとうこの後だね。覚悟はできてる?」
「ああ、問題ない。もしも俺になんかあったり失敗したときは……」
「彩葉ちゃんを連れて逃げろだね」
「ああ、悪いけど彩葉は頼んだ」
◆
楽しい時間にも、必ず終わりはやってくる。
満月へと育つ月に照され、俺たち五人はしらほし海岸にやって来た。昼間はあんなにも優しく見えた海も、今では真っ暗でとても不気味だ。
海岸には先客がいた。スーツを着た細身の男。
「シイラ、待たせたな」
「ふん! 来たか。ゾロゾロと群れやがって。例のものは持ってきたか」
「あぁ、ここにある。取引を始めよう」




