#19 出会った君は、また溺れていた
「――と、言う事で人魚の珊瑚を助けたいんだ!!」
タイムリープ説を疑う彼等に、事のあらましを説明した。
オカルト研究会所属だけあって、2人ともこの手の話は飲み込みが早い。
「まぁ、悟はおっちょこちょいだけど……祠をわざと壊す程バカじゃないわね」
「そうだね、信じる信じないは保留にして、この後の様子を伺おうか。森宮さん」
――おお! 親愛なる友よ!!
「つまり、これから人魚が溺れるから助けるんだよね?」
「そうだ。俺が沖から彼女を助けて連れて来るから、蒼太は浅瀬からこの浮き輪のロープを引いてほしい。彩葉は、持ってきたタオルで人魚の脚を吹いて欲しいんだ。ちなみに俺達以外に彼女の存在がバレるとバッドエンドだから、通報はしないでくれ」
「とりあえず分かったけど、大丈夫? 悟、カナヅチでしょ!?」
「問題ない! なぜか泳げるようになっている! 蒼太、すまんが、先にお爺さんに祠が壊れた旨を連絡してくれ」
「わかった。来たら壊れていたって連絡するよ」
俺は二人を連れて海岸まで戻ると靴とバッグを置き、シャツと靴を脱いだ。問題ない、今日の俺は準備万端だ。水着を着て、着替えまで持って来ている。
「泳ぐ気満々じゃない……」
彩葉に引かれながらも、準備体操をした俺は、浮き輪を持ってずんずんと沖へ進んだ。途中妖怪たちが興味深げに近づいて来るが、手で軽くあしらう。
ここだろうか? 珊瑚を助けたポイントまで到着すると、海の底からポコポコと空気が湧いた。空気の泡と一緒にピンク色の陰が浮上してくる!
そして、白い手が海面から現れた。
俺はその見覚えのある手を、力いっぱい引き寄せた。苦しそうな彼女は俺にしがみ付き息を吸うと、驚いた顔で俺を見た。
「さと……」
何か言いかけて、彼女は慌てて自身の口を手で塞ぐ。生きている彼女を見て嬉しさがこみ上げ、力いっぱい抱きしめた。
「珊瑚!! 会いたかった!!」
――もう失敗はしない、絶対に彼女を助ける。
しかし、珊瑚の体は何者かに引っ張られるようにグっと沈む。海面から覗くと、珊瑚の鰭を掴む金髪の女がいた。
「珊瑚、浮き輪に捕まって」
俺は彼女の腕が浮き輪に絡むのを確認した後、海に潜った。彼女の鰭を掴んでいたのは、俺達と同じ年頃の青と白の鱗を持つ人魚だった。恐らくこいつが、珊瑚に薬を飲ませた張本人、黒潮真珠だろう。
すると、俺の存在に気付いた真珠が目を見開き驚いた。紳士にあるまじき行為となるが、俺は真珠に向けて思いっきり蹴りを繰り出した。その拍子にバランスが崩れ、視界が一気にぼやける。
――ああっ! 眼鏡付けたまま海に入ってたっ!! 俺の眼鏡!!
普段、泳ぐという行為をしない代償である。だが、俺の蹴りは手ごたえがあった。
蹴りをまともに受けた真珠は珊瑚から手を離し、後ろによろめく。
――この兄妹の所為で、珊瑚死んでしまう。
二人に怒りを覚えた俺は真珠の青い鰭を掴み、海面へと浮上した。
「お前も来ぉぉぉい!!」
真珠の鰭を掴み、浮上した俺を見て珊瑚は目を丸くした。先ほどの蹴りで気を失った真珠がプカリと浮かんだので、彼女の顔が海面から出るようにひっくり返す。
左腕で真珠に腕を回して抱えると、右腕で珊瑚が掴んでいる浮き輪に腕を回した。息を吸い、海岸に向かい叫ぶ。
「蒼太ー! 引いてくれーー!!」
蒼太が右腕を上げ合図する。
視界がぼやけているが、俺は必死に陸に向かい足で水を蹴った。
今回は珊瑚に意識が有るので、彼女も俺を手伝う様に大きな鰭で俺達を押してくれる。
――絶対に負けねーーー!!!
必死に泳いでいると海底が黒く染まった。大きな影が足元から近づいて来た。
――何だ何だ!? 鯨? いや、海坊主だ!!
海坊主が思いっきり俺達にぶつかり、海水ごと俺達を押し上げる。
「うぁあああ!!」
それは、イルカが水中からトレーナを持ち上げるかの如く。俺達三人はその勢いで波に乗り、浅瀬まで流された。
波が引くと、5人は波打ち際にいた。俺と珊瑚はぺたんと座り、真珠は仰向けになって呻いている。……取りあえず、第一段階は成功した! 真珠を捕まえるという想定外はあったものの、ほぼ予定通り……
「なあ、悟? 聞いてた話と違うんだけど……」
「ひきゅしゅん!!」
その声で振り向くと、先程の海坊主の起こした波を浴びて一緒にずぶ濡れの、蒼太と彩葉がジト目で俺を見ていた。すまん。




