表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サマー・マーメイド・ループ ~溺れる人魚にハッピーエンドを見せたい俺は、夏休みを繰り返す~  作者: 雪村灯里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/24

#15 人魚の運命

※残酷描写あり

 珊瑚(さんご)の同胞であるシイラによって、満月の(さかずき)と一緒に(まつ)られていた鏡は壊された。


 壊された鏡から現れた黒い塊に、シイラは喰われてしまう。絶命し、泡となったシイラの体は、ぶわりと風に吹かれて空へ散った。


 隣で空を見上げた珊瑚は、悔しそうに言葉を零す。


「ごめん、シイラ君……」


 鏡から現れた黒い存在は地面でボコボコと(うごめ)く。内側から殴るように成形しながら膨らむと、それは完成した。


 大きな黒い狐のあやかし。大型犬ほどの大きさで、太い尻尾をパタンパタンと振る。狐はこちらを向くとニヤリと笑って言った。


『やっと出られた……口惜しいだろ?』


 背筋に寒いものが走る、それに狐も俺達に向かって走ってきた! とっさに珊瑚を抱きしめて庇った。


 恐らくこの狐は、昔話に出てきた人魚を食べる陸の妖怪(あやかし)!!


 痛みと強い衝撃を覚悟したが、代わりに「トトトン」と背中の肩に軽い衝撃が走る。狐が俺の背を飛び込み板代わりにしたのだろう。


 狐は青い空をバックに、空中でくるりと身を翻した。


 スローモーションのようなその時間、俺は狐と目が合った。金色の目に、にたりと笑う赤い口。


『九尾になったら、アマミもオマエも喰いに行く。怯え暮らすがいい』


 奴は珊瑚に宣告し、地面に着地する。そして、疾風と共に丘を駆け下りて姿を消した。


「きゃっ!……何、この風!! 犬!?」


 階段から彩葉(いろは)の声が聞こえた。彩葉と蒼太(そうた)が石段から現れたのだ。


「すごい風と犬だったわね?……って悟?」

「お取込み中だった? ごめん」


 2人の登場に俺は自分の現状を確かめる。俺の腕の中には珊瑚が居て……珊瑚は悲しそうな顔をして俺を見つめた。何もできなかった俺は、2人に簡潔に伝えた。


(さかずき)が壊されたんだ……」


 みんな言葉を失い、波の音だけが辺りに響いた。


 ◆


 俺はその場で2人に説明した。蒼太は終始冷静に聞いて、彩葉は次第にポロポロと涙を零し始めた。


「そんな……珊瑚ちゃんは助からないの?」

「他に方法は無いのかい? それか陸で生きる方法とか……」


 珊瑚は目を伏せて、なにも答えなかった。彼女は一呼吸すると、顔を上げて穏やかに笑って、軽やかに語る。


「私は、ここで終わりのようです。悟君・彩葉ちゃん・蒼太君、短い間でしたがお世話になりました」


「何だよ……お別れみたいな事、言わないでくれよ」


「お別れなんです。今はまだ自我がありますが……海で最期を迎えられない人魚は、次第に自我が消え人を誘惑します。甘い言葉を使って、人間に自身の肉を食べさせようとするのです」


 それは、夢に見た珊瑚の行動と似ていた。同時に、夢の珊瑚が言った『好き』の意味を知って胸が痛い。


「人魚の肉は人間を不老不死にかえます。そして、人魚の願いも人間に託してしまう。それだけは絶対に許されないのです……だから、そうなる前にお別れです。これは私の運命なんです」


 『運命』そう語る彼女は、今にも泣きそうだった。笑顔の裏に隠していた正体はこれだった。もう、心から笑う彼女は見れないのだろうか? いや……


「なにが……運命だ。そんな運命、俺が捻じ曲げてやる! 珊瑚を助ける為なら、俺はどんなことだってする!!」


 珊瑚は、この言葉を聞くと目を丸くして驚いた。次第にその目は潤んで涙をためる。彼女は言葉を詰まらせながら俺に尋ねた。


「なんで……悟君はいつも……親身になってくれるんですか? 私の所為で辛い思いを何度もしているのに」


「分らない。でも、何とかして君を助けたいんだ!」


 俺は、孤独に震える彼女を抱きしめた。


 あの時、彼女を疑わなかったら運命は変わっていたのかもしれない。俺が分岐を間違えて、彼女を迷子にしてしまった。


 だからもう、間違わない。


「もう……泣かないって決めたのに……」


 珊瑚の涙を指で拭おうと頬に触れた。すると、それはキラキラと輝く宝石に変わる。夢で見た物が現実の掌に現れて、固唾を呑んだ。


「……驚かせて、ごめんなさい」


 彼女は俺の胸を軽くトンと押し、腕から逃れ一歩下がる。そして、自身で涙を拭い笑顔を見せた。


「みんな、これは夢なんです」


「「「――え?」」」


 俺達は突拍子の無い珊瑚の言葉に、驚きを隠せない。珊瑚は明るい声色で、ニコニコしながら言葉を続けた。でも、誰もその笑顔を見て安心なんて出来ない。今にも割れそうなガラス細工を見ている気分だ。


「夏休みに見た不思議な夢。人魚と過ごした不思議な2日間。……なので忘れてください。とても楽しくて幸せな夢でした。ありがとう」


 そういって彼女は崖に向かい走り出した。ひらりと柵を飛び越えると、そのまま崖から飛び降りる。


 俺は、彼女を止める事が出来なかった。


 崖の下から鈍い音が聞こえた後、キラキラと光る泡が空に向かって飛んで逝った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ