真珠色の短冊
駅前のアーケードに色とりどりの吹き流しが風に揺れている
七夕まつりに向けて準備が進められている
祭り当日に向けて賑やかさが増すたび気分が高まりワクワクする
それは昔も今も変わらない
この時期になると思い出す
学生時代、仲の良い女友達と祭りに来たことがあった
2人で人波をかき分けみて回り、食べ歩きしたり水風船のヨーヨーを買ったりして楽しんだ
ソースの焼ける香ばしい匂いをさせる屋台、ライトをキラキラと反射しているりんご飴、店先に並べられる虹色の綿あめ
見える全てが煌びやかだった
うちが厳しかったのもあって夜の街に出る事が少なく、しかも女の子と二人っきりで祭りに来たことなんてなかった自分は終始ドキドキしていた
自分はTシャツに短パンで来てしまったのに隣には綺麗に着付けした女の子
はぐれないようにと差し出された手をそのまま繋ぐことが出来ず、薬指と小指だけを絡ませるのがやっとだった
祭りのメイン会場には大きな笹があった
その下には願い事を書く短冊が置いてあった
”第一志望に絶対合格!”、”家族が健康に過ごせますように”、”次の仕事が上手くいきますように”
すでに吊るされた短冊には思い思いの願い事が書かれていた
「私達も願い事書こうよ」
短冊を手にし祭りの照明に照らされた彼女の笑顔がとても眩しく見えた
”彼女との楽しい時間がずっと続きますように”
——本当は堂々と短冊に書きたかった
でも書けなかった
誰かに見られたら恥ずかしいとか、彼女はそこまで自分の事が好きじゃないかもしれないとか、彼女が短冊見たらどんな顔するのかとか考えてしまう
自分への自信の無さが邪魔をして空白の短冊だけが手元にあった
しばらく考えていたら彼女が短冊を笹にくくりつけているのが見えた
とっさに空白の短冊をカバンのポケットに差し込んだ
自分の短冊をくくり終えた彼女がこちらに向かってくる
「願い事出来た?」
「ああ、もう笹にくくったよ」
「なんて書いたの?」
「えっと…内緒だよ」
正直に言えず目の前にいる彼女から目を背けた
祭りを楽しんだ後、2人の関係は友達以上恋人未満が続いた
そのまま進展も無く高校を卒業
それぞれ別の大学に進学し卒業するまで会うこともなかった
あの日持って帰って来てしまった何も書かれていない短冊
捨てることもできずまだ大事に取っておいたままだ
大学で付き合った女の子もいたし恋愛をしなかったわけじゃない
それでも心のどこかでこの空白の短冊が引っかかって本気になれない自分がいた
「そろそろちゃんと気持ちにケジメつけないとな」
空白の短冊をみつめて呟いた
真珠のように白い和紙に淡い藤色で上下が染色してある綺麗なままの短冊
机に座りペンを握り短冊に向き合う
意を決して書いていく
”大好きだったあの子が幸せでありますように”
今の自分の正直な、でも精一杯の気持ちだった
少しでも気持ちを伝えていれば良かったのか
もっと早く素直になれば良かったのか
ちょっとの勇気があれば良かったのか
今になっては分からない
今年の七夕飾りにくくり付けに行こう
あの時と同じ七夕まつりのメイン会場
思い出の笹はもう少し背が高かった様な気がする
願いが叶ってほしくて目立つところにくくり付けた




