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第4話:“記憶を封じる塔”と、魔導書の亡霊

 ルシアがかつて生きていた時代、王都には五つの“記録塔”があった。


 魔導知識を保管する【封術塔】。

 国家魔法の記録と血脈の契約を記す【王紋の塔】。

 禁術研究を秘匿する【影の塔】。

 魔力の循環と制御を司る【理式塔】。

 そして、全ての記録を最後に収める【終の塔】。


 


 「生きている塔があるとしたら、まず“終の塔”よ」


 


 ルシアは王都の中心部――半ば崩壊した石畳を踏みながら、少年リオンと共に進んでいた。


 彼女の足取りは迷いがない。まるで昨日までここを歩いていたかのように。

 だが実際は、千年という時が流れている。


 


 「それ、なにを記録してたの?」


 「……すべての魔導知識。

 ただし、私が処刑される直前に“記憶封印術式”をかけたわ。

 下手に利用されないように、ね」


 


 彼女は言葉を区切り、空を仰ぐ。


 そこにそびえ立っていたのは――かろうじて形を保った一つの塔。

 崩れかけの外壁と、蔦に覆われた石造りの建造物が、夕日を受けて静かに佇んでいた。


 


 「残っている……」


 


 二人は塔の内部へと足を踏み入れる。


 内部は暗く、湿気と土の匂いが満ちていた。床には無数の魔導書の残骸、破れた羊皮紙、砕けた記録水晶の欠片が転がっている。


 


 「待って、なにか……いる」


 


 リオンが身を震わせる。


 その直後、塔の奥から――カタリ、と何かが動いた。


 


 ルシアはすぐに杖を構え、空間に式を走らせる。

 すると、宙に浮かぶように一冊の本が姿を現した。


 その表紙は焼け焦げ、背表紙には見えないはずの“瞳”がひとつ浮かんでいた。


 


 「……出たわね。記憶の亡霊」


 


 それは、“知識を喰らった魔導書の残留意識”――


 かつてこの塔にあった無数の情報を吸収し、記憶と魔力を糧に生き延びた“記録喰い”だった。


 


 「ルシア=アルセリア……記録一致。破棄対象……」


 


 魔導書の亡霊が、軋むような声で呪文を唱え始めた。


 空気が揺らぎ、塔の内部に黒い結界が展開されていく。


 


 「……この私を“破棄”ですって? 面白い冗談ね」


 


 ルシアは一歩踏み出す。


 そして、低く構えた杖から力を集め、空中に奔る魔術式を描いた。


 


 「《連鎖崩壊式・反応断ち(システム・ブレイク)》」


 


 空間を満たしていた黒い結界が、ひび割れるように音を立てて砕けた。


 驚いたように魔導書が一瞬浮き上がる。その隙を逃さず、彼女は杖を振る。


 


 「《封呪・永久静寂のセレスティアル・ページ》!」


 


 黄金の光が、亡霊の魔導書を包みこむ。

 光は書の全体を浸食し、浮かんでいた瞳がゆっくりと閉じられた。


 


 その瞬間、塔の奥から――小さな“鍵”がふわりと空に浮かび上がった。


 


 「……記憶の封印キー。やっぱり、ここにあったのね」


 


 ルシアがそれを掌に収めると、塔の最奥にある魔導記録石盤が、かすかに明滅を始めた。


 千年の時を経てもなお、そこに残された“真実”が、今ようやく目覚めようとしていた。


 


 「リオン、これからあなたは、この世界が失ったすべてを知ることになる」


 「……おれ、知りたい。

 魔法がどうして消えたのか、なぜ“ルシアさんが処刑されたのか”も」


 


 その言葉に、ルシアは微笑んだ。


 


 「なら、見せてあげるわ。

 あなたの先祖が葬った“真実”と、それでも私は歩み続けた理由を」


 


 そして、塔の記憶が再生される。


 千年前――“魔法を消す法案”が王国議会を通過した日の映像が、空中に浮かび上がった。

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