第17話:世界の再誕、そして新たな契約へ
七柱すべての試練を超え、神殿《レガシアの環》に静寂が訪れていた。
中心にあった契約石盤は、七つの封印が解除されたことで輝きを増し、
天へとまっすぐ光の柱を放っていた。
「ついに、ここまで来たんだね……」
リオンは石盤の前に立ち、深く息を吸った。
その隣に立つルシアもまた、長い時を越えてようやく訪れた終わりと始まりを、静かに見つめていた。
《継承者よ。問う――汝は、世界に“魔法”を取り戻すことを、真に望むか》
空間に響くのは、“神”の声。
七柱を統べる存在であり、契約を結び、文明を封じた超越者。
リオンは一歩、前に出た。
「俺は、魔法をただ“戻したい”んじゃない。
人がそれを手にする覚悟を持ち、使い方を選べる世界にしたい。
千年前、ルシアさんが望んだ未来を、今の俺たちが“やり直す”ために」
しばしの沈黙ののち、天から降りてきたのは一本のペンと、一枚の紙。
それは“神の契約書”。
《魔法文明の再誕には、新たなる“条”が必要だ。
継承者よ、汝の言葉で、この契約に“未来の理”を書き記せ》
リオンは受け取ったペンを握りしめた。
手は震えていた。だが、迷いはなかった。
――そして、彼は書いた。
「魔法は奪わぬために在ること。
破壊ではなく、創造のために用いること。
その意思ある者が、“想い”を灯す限り、この理は続く」
書き終えた瞬間、契約書は光に包まれ、空へと昇っていった。
神殿全体が揺れ、七つの柱が昇華するように天へと溶けていく。
――そして世界に、風が吹いた。
それは千年の眠りから目覚めた“魔法の風”。
新たな理を携えて、大地に再び魔力が流れ込んでいく。
木々が揺れ、花が咲き、空が震え、
遠く離れた土地でも、忘れられていた魔導具が再び光を灯した。
魔法が――帰ってきたのだ。
ルシアは、そっとリオンの手を取った。
「おかえりなさい、魔法。――ありがとう、リオン。私の願いを、未来に変えてくれて」
リオンは笑った。
「こっちこそ、ありがとう。ルシアさんがあのとき“諦めなかった”から、今の俺がいるんだ」
空は高く、どこまでも澄んでいた。
そして、神殿の中心にふたりの影が並ぶ。
魔法文明が再び芽吹くこの世界に、新しい夜明けが訪れようとしていた。