第15話:“憤怒”の審判と、ルシアの罪
七柱の試練、第六柱――それは《憤怒》。
それは、正義の名の下に行使される破壊の感情。
悪に抗い、理不尽に叫び、誰かを守るために噴き上がる、“怒り”の本質。
神殿の中央、リオンが柱に手をかざすと、今までとは異なる波動が彼の身を打つ。
「……これは、熱い……!」
リオンは言いようのない感情に突き動かされるまま、再び精神の奥底へと沈み込んでいった。
そこにあったのは、千年前の記憶だった。
目の前で、ルシアが“火刑”に処される光景。
人々の罵声。火をくべる神官たち。誰ひとり止めようとしなかった同僚たち。
「なんで……誰も、止めなかったんだ……!」
影の中から、もう一人のリオンが吠える。
「それなのに、お前はただ見ていただけだ! 弟子として、ルシアを“助けなかった”!」
リオンは歯を食いしばる。
「……俺は、弱かった。何もできなかった。だけど――今は違う!」
炎の中で微笑むルシアの姿が浮かぶ。
そして今、リオンの隣に立つ、変わらず静かな笑みを浮かべる現在のルシア。
「俺はあの日の自分を、許さない。だけどそれは、“怒り”じゃない。
悔しさも、後悔も、今の俺を強くしてくれる。
――怒りを、ただ壊すためじゃなく、“守る力”に変えてみせる!」
リオンが拳を振り上げると、空間そのものが震え、炎を纏った巨大な“怒りの化身”が砕け散った。
《試練・第六柱“憤怒” 克服認定。契約修復進行度85%》
戻ってきたリオンを、ルシアは迎えた。
彼女は、少しだけうつむきながら言った。
「リオン……。あなたに一つ、話さなければならないことがあるの」
リオンは顔を上げる。
「……ルシアさん?」
ルシアは、遠くを見つめるように語り始めた。
「私がかつて交わした“七柱の契約”……その一部は、私の意思でもあったの。
魔法を暴走させ、戦争を生み、結果として多くの命を奪った。
神に封印を許したのは、私自身……私の“憤怒”が、文明を滅ぼしたの」
リオンは目を見開いた。
「でもそれなら、どうして俺に継がせたんですか。
もう一度、魔法を蘇らせようとしてるのは……」
ルシアは、静かに答えた。
「私は、ただ滅ぼしたいんじゃない。“やり直したい”の。
あなたのような存在がいる世界なら、もう一度、信じてみたいのよ」
リオンは少しだけ迷い――それでも、彼女に頷いた。
「なら俺が、やり直す理由になる。あなたが背負ってきた“憤怒”も、俺が抱えて進む」