第13話:“嫉妬”の影と、選ばれなかった記憶
試練の第四柱、“嫉妬”。
それは他者の才能、幸福、評価、愛を妬む、もっとも人間らしく、そして根深い感情だった。
リオンは三柱を越えた後の疲労を隠すことなく、再び神殿の光柱へと手を伸ばす。
そして、彼の意識はふたたび精神の深層へと引きずり込まれていった。
――そこは、かつてのリオンがいた魔法学園のような場所だった。
教室の中、周囲の生徒たちが輝くような魔法を使い、教師に褒められている。
その輪の外、ひとり座っている少年――かつてのリオン自身。
「あいつ、また授業中に集中できてないらしいよ」
「どうせ才能ないんだよ。家柄だけで入学したくせに」
陰口が聞こえる。リオンの影が、背後で囁いた。
「覚えているか? “選ばれなかった”あの気持ちを」
「お前はずっと誰かの“代わり”だった。
家系に縋り、能力も中途半端で、教師からも期待されず、
挙句の果てに“あの人”ばかりが称えられた――ルシア・ノクターンに」
リオンは震えた。
誰にも言えなかった。心の奥底に押し込んできた、醜くて、触れてはいけない感情。
「なぜルシアさんなんだろうって、思ったことがある……。
なんで、自分じゃダメなんだろうって……」
だがそのとき、リオンの脳裏に、千年前の記憶がまた蘇る。
――ルシアに師事していた、少年・ユーリ。
その背中は、まっすぐで、誰かを妬む暇もないほど、努力していた。
「あれも……俺なんだ。俺は“妬んでるだけ”の存在じゃなかった。
尊敬して、目指して、だからこそ追いかけた。
――俺は、嫉妬してたんじゃない。置いていかれるのが、怖かっただけなんだ!」
そう言いながらリオンは、かつての自分にそっと手を伸ばした。
孤独だった少年の肩に触れ、微笑む。
「でも、今は違うよ。俺にはもう、歩いていける道がある。
誰かを羨むんじゃなくて、俺の足で、俺の想いで、歩いていけるから」
その瞬間、空間が光に満ちる。
《試練・第四柱“嫉妬” 克服認定。契約修復進行度56%》
現実世界へと戻ってきたリオン。
彼の表情は少し寂しげで、けれど穏やかだった。
「嫉妬って……自分でも気づかないところで、ずっと刺さってるものなんだね」
ルシアは静かに頷いた。
「ええ。そしてそれを“認める”のが、最も難しい試練なの。
リオン、あなたはまた一歩、強くなった」
リオンは顔を上げ、残る柱の数を見上げた。
「あと三つ。次は……“暴食”か」