第12話:“強欲”の試練と、選び取る代償
七柱の封印、第三の試練へ。
神殿《レガシアの環》の中央で、リオンは再び光柱に手を伸ばした。
次に彼を待ち受けるのは、《強欲》――望みすぎる心、終わりなき欲求の罪。
「リオン、気をつけて。この試練では、“お前にとって本当に欲しいもの”が試されるわ。
それは、ただ甘いだけじゃない」
ルシアの警告とともに、空間が歪む。
リオンの視界が白に染まり、意識が深く深く沈み込んでいった。
目を開けた瞬間、リオンは息を呑んだ。
そこには、――“理想の世界”が広がっていた。
再建された王都。輝く魔導都市。
人々は笑い、空を飛ぶ魔法使いたちが歓声をあげる。
そしてその中央に立つのは、堂々とした服を着た自分自身。
「……俺?」
彼は“王”だった。世界を導く英雄。
誰もが彼を称え、跪き、彼の言葉に従う。
その傍らには、ルシアが静かに微笑んでいた。
「あなたがこの世界を変えてくれた。リオン、あなたこそ真の継承者」
全てが満たされていた。
求めていたものが、そこにはあった。
だが――リオンは立ち止まる。
(こんなに……うまくいくわけがない)
彼は知っていた。これは“強欲の幻”だ。
手を伸ばせば手に入る。何もかもが思い通りになる。
だがそれは、**努力も痛みも覚悟もなく手に入る“偽りの楽園”**だった。
リオンは拳を握る。
「そんなの……いらない」
幻のルシアが問いかけてくる。
「あなたは望まないの? 地位も力も愛も、全部手に入るこの世界を?」
リオンは、そっと首を振った。
「違う。“望む”こと自体は、悪くない。
でも、欲望に負けて“過程”を捨てるなら、それは俺の道じゃない」
彼の背後にあった光景が、徐々に崩れていく。
王都が崩れ、民の笑顔が消える。
空を飛ぶ魔法が砕け、栄光の玉座が灰に還る。
それでもリオンは目を逸らさずに言った。
「俺は、ルシアさんと一緒に、“本当の世界”を取り戻したいんだ。
見せかけじゃなく、嘘じゃなく――本物の未来を」
その言葉とともに、空間にひときわ強い光が走る。
《試練・第三柱“強欲” 克服認定。契約修復進行度41%》
現実世界に戻ったリオンは、膝をつきながら深く息をついた。
「……すごい誘惑だった……。でも……負けなかった」
ルシアは微笑みながら、彼の肩に手を置いた。
「あなたは確かに乗り越えたわ。欲望を否定せず、きちんと“扱える力”に変えた。
それが、一番難しいことよ」
リオンは立ち上がる。
「あと四柱……俺、全部越えてみせる。だってもう、後戻りはしないって決めたから」