プロローグ 「私の名はルシア=アルセリア。……処刑される“悪役令嬢”でございます」
その日、王国全土に“浄火の鐘”が鳴り響いた。
空を裂くような音色と共に、広場に集まった民衆の目は、ひとりの少女に向けられている。
白銀の髪、赤い瞳、緋色のドレス。
処刑台の上に立つ彼女は、間違いなくこの国の王女――ルシア=アルセリアであった。
だが、彼女に向けられるのは、王族に対する敬意ではない。
それは、“悪魔の娘”“魔術の狂人”“王国を呪った異端者”と罵られた、罪人としての視線だった。
「私は、魔法を殺すのではなく、救おうとしただけです。
――あなたたちが、それを理解できなかっただけでしょう?」
凛とした声で言い放ち、ルシアは嘲るように微笑んだ。
その姿に、民衆は怯え、司教たちは呪詛の詠唱を始める。
「……火刑をもって、この異端を浄めよ!」
焚かれた聖火が、ルシアの足元を舐めるように立ち昇る。
だがその瞬間――彼女の瞳が、淡く金色に輝いた。
「千年後に、またお会いしましょう」
それは彼女が最後に紡いだ、禁術中の禁術『時封の魔法』の起動式だった。
火が彼女を呑みこむ刹那、ルシアの身体は光の粒子となり、空間の狭間へと消えた。
そして――千年後。
滅びた魔導王国の廃墟のなか。
崩れた王城の最深部で、赤い瞳の少女がゆっくりと目を覚ます。
「……時は巡り、千年の夢から覚めましたか」
再びその目に映るのは、瓦礫と化した文明の亡骸。
けれど彼女は、怯まずに呟いた。
「この世界、私がもう一度“書き換えて”差し上げますわ。
千年前、私を燃やした“あなたたち”から」