第96話 「しばらく、豚肉は見たくもありませんわ」
「オオオオオオオオー!!」
突撃する兵士達。攻めるのは簡単だった。ツインデール公国が落ちる際、豚の攻撃によって南門が既に破られているからである。ラミス達は南門から突撃し、ヘルニア兵士を撃破していく。
公国軍は優勢だった。いや、圧倒的だった。ほとんどのヘルニア兵は、剣を捨て投降し始める。豚は全てクリストフ将軍が倒し、ラミスは……。いやその場にいた全員が公国の勝利を確信した。
ヘルニア兵士の大半は降伏したものの、まだ次々とわらわら湧いてくる豚達。クリストフ将軍が倒した豚の数は、ゆうに百を超えていた。
「まだ、こんなに沢山いらっしゃったの?豚さんは。」
圧倒するツインデール公国軍。その勝利は近い。いや、既に目と鼻の先と言えるだろう。もう、勝利は間違い無いと確信するのだが。
……しかし、何かこう。腑に落ちないラミス。
ひょっとしたら私は、何かを見落としてしまっているのではないだろうか?
と、ラミスはふと考える。
そして、ちらっとクリストフ将軍を見た。将軍は次々と襲いかかる豚達を、瞬く間に斬り捨てていた。
圧倒的とも言える戦力。我が公国が誇る"剣聖"の称号を持つクリストフ将軍。
これだけの強さを誇る将軍が、何故あれだけの傷を負っていたのだろうか?
何故、こんなにも強い将軍率いる公国が敗れたのか?
クリストフ将軍の刃の前に、次々とただの肉片と化す豚の群れ。止まらない豚の数に、次第にラミスの脳裏に一抹の不安が過る。
…………。
……何故、クリストフ将軍はあれ程の致命傷を負っていた?
……一体、何故?
「……あの、クリストフ将軍。」
ラミスは、おずおずとある疑問をクリストフ将軍に尋ねてみる。
「……奴です。」
……奴?
──ズシィーーン!!
「ブヒヒィ!!」
ラミスは目を疑った。そこに……。奴はいた。
……奴が。
"王の名を持つ獣"が……。
ラミスは、新たな獣を前に立ち竦み。恐怖に怯えていた。
『古の魔獣と龍の姫』編 完結
『王の名を持つ獣』編 開始
"豚王"オークキング。
「ブヒヒィ!」
…………。
「…………なん…………です…………の、この化け物は。」
その王の名を持つ怪物は、大木程ある巨大な戦斧を持ち。また、その巨大な体は山程の巨体で、通常の豚の十倍を超える大きさだった。
「あいつは危険です。奴にバラン将軍は敗れ、この俺もまた瀕死の重傷を負いました。……姫。俺が殺られたら、すぐに撤退して下さい。そして、ホースデール王国に援軍を。」
「……クリストフ将軍。」
クリストフ将軍はそう言い残し、豚王に向かって行く。
──ヒュッ。
それは、一瞬だった。いや、ラミスには何も見えてなどいなかった。あの巨大な大木の如く戦斧が、ラミスにはいつ動いたかすら、気が付かなかった。
気が付いた時には既に、クリストフの体は肉片と化していた。
…………。
「ブヒィーー!!」
ラミスは絶望の闇の中、豚王の刃で斬られ。意識を失っていった。




