第94話 「将軍と一度、お手合わせをお願いしたい所ですわ」
──ゴパァ!!
一閃。
それは、まさに一瞬の出来事だった。
クリストフ将軍の放ったその一撃は、たった一振りで十数体の豚を一瞬で、ただの肉片に変えた。
「プギィ、プギィ……。」
あの豚が、あの古の怪物である筈の豚が。クリストフ将軍の強さに恐れをなし、逃げ出している。
しかし、それを易々と逃がすクリストフ将軍ではない。
──ガシュ!!
真っ二つに斬り裂かれる豚。古の怪物である筈の豚達を一瞬で肉片に変えた、クリストフ将軍の強さに。総勢三千のヘルニア帝国の兵士達もまた恐怖し、一歩も動けずにいた。
「ひいっ。」
「ばっ、化け物だ……。」
──ドドドドドドドド。
ヘルニア兵達は皆、蜘蛛の子を散らした様に一目散に城へと逃げて行く。そしてまた、同時に沸き起こる大歓声。クリストフ将軍の名を叫び、勝利を喜ぶ兵達の大歓声が街全体に鳴り響いた。
……勝った。
「クリストフ将軍。ここまで凄い御武人だったのですわね。」
ラミスは勝利を喜ぶと同時に、また悔しくもあった。
……私もあの武の境地に、立てるのだろうか?まだまだ自分も未熟だと、己の無力さを痛感するラミス。
城門が開かれ大歓声の中、迎え入れられるクリストフ将軍。ヘルニア帝国を撃退した、その英雄は大勢の兵達に囲まれ、照れ臭そうに笑っていた。
…………。
ヘルニア帝国に勝利した。
後は城を攻め、ツインデール公国を取り戻すだけなのだ。ラミスはその目前の勝利に心から喜んだ。この長い長い戦いの日々が、ようやく終わろうとしている事を。
リン、ナコッタ、ミルフィー。姉妹四人が揃い、クリストフ将軍など公国の最大戦力が整っている今なら。ヘルニア帝国を打倒し、ツインデール公国を取り戻す事が出来るのだと。
ラミスはそう確信し、姉達に微笑みかける……。
……おや?
一人いない、確認。
えーと、リンお姉様、ミルフィー……。
おや?ナコッタお姉様は?ナコッタ姫様は何処へ?姉ナコッタは城門が開いた時に、兵達よりも早くクリストフ将軍の元に向かっていた。
…………。
大勢の兵達に囲まれ、仲良さそうに笑っているクリストフ将軍とナコッタ姫様。
…………。
んー。
……おや?
「おやおや?」
すすすと、リンお姉様に吸い込まれる様に移動するラミス、ミルフィーシスターズ。
「お姉様、お姉様っ、あの二人、何やらいい雰囲気ではございませんこと?」
「わっ、私もそう思いますぅ。」
ミルフィーもラミスと同じく、興味津々のご様子である。
「えー。普通に喋ってるだけじゃなーい?」
それに引き換え、全く興味を示さないご様子のリンお姉様。




