第8話「ローストビーフの方が好きですわ」
脱出に失敗し、再び牢へと戻される姫君。
やはり、少し背中に違和感を覚える。
……そして姫は考える、やはり非力な女性であり、お箸よりいやティースプーンより重い物を持った事が無い姫君には、小剣は重過ぎた様である。姫にとって武器は、ただ鉛の様に重い足枷の様にしか感じなかった。
「やはり"ルートA"にした方が、よろしいのかも知れませんわね。」
……そう言いながら、立ち上がろうとしたその時。
──姫の脳裏にある作戦が浮かび上がる。
ご心配なく皆様、今回はまともな作戦です。勿論、今までの作戦も十分まともですよ?
……それは"人質作戦"。
あの、ヘルニア帝国の第三王子であるシュヴァイン王子を人質にして、脱出を計る作戦。
……試してみる価値はあるのではないか?と決断し、姫は七回目の脱出を試みた。
『7回目』
……姫は王子達が来るのを、ただ静かに待っていた。前回と同じく姫の脳裏に恐怖が鮮明に甦り、がたがたと震えが止まらない姫君。無理も無い気丈に振る舞っていても、こんな所にたった一人で閉じ込められ、そして何度も殺されているのだ。それも一度も剣を持った事さえ無い、非力でか弱い華麗な姫君なのだから……。
前回と同様に王子はよだれを垂らしながら奇声を発し、牢の中に入って来る。
──その刹那、姫は駆け出し一気に距離を詰める!
「オラァァ! 歯を食い縛り遊ばせー!!」
──すぱーん!
王子の顔面を勢いよく殴り飛ばし、その隙に小剣を奪い王子を人質にする。
「さあ、兵士の皆さん!道をお開けなさい!さもなければこの王子が、ローストポークになりましてよ?」
「あ、どうぞどうぞ。」
「あ、どうぞどうぞ。」
……二人の兵士の台詞は、見事な調和を見せた。
この後の事は説明する間でも無く、姫の作戦は失敗に終わり再び牢の中へと戻される。
またもや作戦が失敗し、姫は冷たい地面の上に大の字に寝転がる。そしてまるで魂が抜け出したかの様に真っ白に燃え尽き、放心状態となってただ天井の一点を見詰めていた。
「ど、どれだけ人望が無いのですの。あの王子は……。」
あまりにも王子の人望の無さに、苛立つが隠せない姫君。
……しかし作戦は失敗に終わった、それは変わる事の無い事実である。
そして、ラミスは考え方を少し変える事にしてみた。
脱出する策が無い以上、こうなったら良い案、悪い案。関係無く片っ端から試して行き、そしてその失敗から学び、そこに活路を見出だす。
そういった作戦に、姫は打って出た。そんな途方もない作戦に、それは決して楽な道のりでは無い。
ラミス姫は、茨の道を進む覚悟を決めた。ここを脱出する為に、姉と妹に会う為に。
『8回目』
Bルート。鉄格子の影に隠れ、居ないように見せ掛ける作戦。……丸見えな為、失敗。
『9回目』
Bルート。部屋の隅に隠れ、既に逃げたと思わせる作戦。……そもそも、隠れる場所が無かった為、失敗。
『10回目』
Bルート。"剣が使えないなら、投げればいいじゃない?"作戦。
王子から小剣を奪い止めを指し、その後兵士に向かって、えいやっ!と小剣を投げ付けるラミス姫様。
──カランカラン。
案の定、姫様には重過ぎた為。全く飛ばずにただ地面を転がる小剣。
「…………。」
「記録五十四センチメートル、と言った所かしら?」
……の為、失敗。
その後、姫はBルートを数回試みたのだが。
……全て失敗に終わり、また姫は牢に戻される事となる。




