第6話「保険は大事ですわ」
冷たい地面の上で大の字に寝転がり、姫はただ天井を見上げていた。ぼんやりと虚ろな瞳で、放心状態になりじっと天井の一点を眺め続けていた……。
「無理ですわー!!」
姫は、手足をしだばたしながら嘆き悲しんだ。
……しかし、姫が嘆くのも無理は無い。
何度脱出を試みても殺され、待っていても王子達がやって来て殺される。何とか走り抜けても扉には鍵が掛かっており、開ける事が出来ない。……そして姫様の秘策だった、頼みの綱の色仕掛けも通用しなかったのである。
「……もう、為す術がありませんわ。」
……姫に出来る事は、もうじたばたする事しか無かった。しかし、このまま待っていても王子がやって来て死を待つだけなのである。……何とか、この場から切り抜ける方法を模索しなければならない。
しかし鍵が無いと扉は開けれない、脱出するにはあの扉通るしか方法は無いのだから。
……姫は重い足取りで、廊下へと向かう。
『5回目』
姫は前回と同じく、扉を少し開け扉の隙間から廊下の様子を伺った。
「……やはり、居ますわよねぇ。」
時間が巻き戻っているのだから、そこは当然変わる事は無く前回と全く同じ光景だった。
姫は思考を巡らせ、次なる一手を考える。姫は頭の中で、この場を切り抜ける方法を数千通り考えた。そしてその中から、か弱い姫君でも可能な脱出方法を幾つか閃く。
……そして姫は、ある一つの結論を導き出した。
「そうだわ、脱出する方法が無ければ殴ればいいじゃない!ですわ。」
困った時は物理、すなわち暴力!……やはり暴力、暴力は全てを解決する!!
……姫は、走り出した!
──だだだだだだだだだだだだっ!
「なっ、何だ!お前はっ!?」
姫の足音に気が付き、廊下の兵士が振り返って叫んだ。
──その刹那、姫の目が輝る!!
「プリンセスキーック!!」
姫の華麗な飛び蹴りが炸裂し、兵士はよろけて倒れ込む。
「今ですわ!」
廊下の兵士の腰辺りに付けている鍵を奪い、姫は扉に向かって全力で走り出す。そして扉まで辿り着き、すぐに鍵を鍵穴に差し込んだ。
「これで、ようやく!脱出出来ますわ!」
姫の顔が脱出への希望に満ち溢れ、ぱあっと輝き出す。脱出不可能と思われた、この牢獄からやっと解放される。そして、明るい外の景色が見れるのだと。……姫は、心の底から喜んだ。
──カキィン。
「あら、入りませんわね。」
それは誰がどう見ても、明らかに鍵の大きさが違っていた……。
姫は恐る恐る背後を振り返り、絶望の表情で廊下の兵士の顔を見る。
「そ、そんな。……まさか!?」
「残念だったなぁ貴様ぁ、それは偽物よ。本物の鍵は、鎧の内側のポケットの中だ。」
そんなっ、偽物だったなんて。偽物の鍵まで用意するとか、用意周到にも程がある。……そこまでする必要あります??
薄れ行く意識の中、姫はそう心の中で叫んでいた。
姫は再び薄暗い牢の中に戻され、冷たい地面の上で寝転がり虚ろな瞳でただ天井の一点をじっと見続けていた。それはまるで口から魂が抜き出たような、絶望的な面持ちであった。
「……どうして偽物の鍵なんて、持ってらっしゃるの?」
姫は涙を堪え、思考を働かせる。何か行動しなければならない、しかし非力でか弱い姫君にこれ以上出来る事は無かった。
……ある筈が無かった。
ただでさえ非力な女性、しかも剣も魔法も使えない。いやそれ所か、重い物さえ持った事の無い姫君なのだから……。
……ここから脱出する方法など、もう一つも残されてはいなかったのである。
「この状況から、助かる方法あります??」




