第57話 「腕の一本くらい、安いものですわ」
──ダッ!
リンは凄まじい速度で動き、次々とヘルニア兵士達を斬り裂いていく。
──ザシュ、ザシュ!!
そのリンの動きはあまりにも速く、残像を残しリンの姿が何人にも見える。
「ひぃー!」
そのあまりの速さと豚を打ち倒す、リンの圧倒する強さに恐怖し。ヘルニア兵士達は皆、散り散りに逃げ出して行った。
「ふぃー。」
闘いが終わり、剣を手に持ったまま汗を拭うリンお姉様。
「どーお?ざっとこんな物よ!」
残っていたヘルニア兵を全て倒し、リンは無邪気にケラケラと笑い出す。
──!?
「お姉様っ。お、お腕がっ!?」
ラミスは姉リンの元に近付くと、姉の腕の異変に気が付いた。……リンお姉様の腕が大変な事になっていたのだ。
「ちょっと下手して、アイツの攻撃がかすったのよねー。あ痛たたたたぁ……。」
それは誰がどう見ても、かすった程度では無いのが明らかだった……。このまま放置しておけば、リンの左腕は二度と使い物にならないだろう。
「ミルフィー、貴女魔法で治せるんでしょ?治療お願あーい。」
「は、はいっ。お姉様っ。」
あせあせしながら、慌てて姉に近寄り、必死に力を込めるミルフィーだが。やはりミルフィーの魔法は発動せず、リンの左腕が治る事はなかった……。
「ご、ごめんなさいお姉様。どうやら私魔力切れみたいで……。」
「……え?」
…………。
「えーっ、そんなぁ……。」
治らないと分かった途端、余計に腕のケガが痛みだし、泣き出すリンお姉様。
「うう、痛いよぉ……。>△<」
……しくしくお姉様。
「姫様ー。」
「お姫様ー。」
先ほどからラミス達の戦いを陰ながら見守っていた子供達や、城に住まう民達がラミスの元へと集まって来た。
ラミスは集まって来た子供達を、手厚く抱きしめる。
「もう……。もう大丈夫よ。怖かったでしょう、もう大丈夫だから安心して……。」
ラミスに抱きしめれた子供達は安心したのか、また涙を流し始めた。
ミルフィーとリンは、その光景を微笑ましく見守っていた……。
そして大丈夫だからねっ、と子供達に歩み寄るミルフィー。
しかし、まだ危険は去ってなどいなかった……。
──ズシン!
またあの足音が響き渡り、木々や建物が震える。
「ブヒィ!」
豚。それも一体ではない。複数体の豚と大量のヘルニア兵達がぞろぞろと湧いてきたのだ。
「これは少し、ヤバいんじゃない?」
リンは痛む左腕を押さえながら、少しの焦りを感じていた……。




