第5話「万死に値しますわ」
姫は前回と同じ様に扉を少し開け、扉の隙間から廊下の様子を伺う。
「……やはり、居ますわね。」
廊下の様子は、前回と全く同じ状況だった。
時間が巻き戻っているからなのだろう。廊下には姫の行く手を阻む様に、見張りの兵士が一人待ち構えていた。
……前回と全く同じ状況。つまり姫が前回と同じ行動をし、脱出しようと試みても結果は変わる事が無いのである。
……しかし今回は違う、姫には秘策があるのだ。神算鬼謀の神の一手が……。同じ轍は二度は踏まない、脱出が必ず成功するという絶対的な確信が姫にはあった。
姫は、勢いよく扉を開け中に入った。すぐに扉の音に気が付き、廊下に居る兵士に見つかる姫君。
だが、例え見付かってしまっても姫には全く問題が無かった。そう、姫には秘策があるからだから……。
「おい、お前!そこで何をしている!?」
廊下の兵士の言葉に、姫はにやりと笑いを浮かべる。
──そして、姫の瞳が怪しげな光を放つ!
姫はスカートをたくしあげ、片足を出しポーズを決めた!!
──!?
……兵士は驚いた!
姫の秘策とは、そう!色仕掛けである!!ヘルニア帝国第三王子を骨抜きにし、たぶらかしたこの美貌とプロポーション!!姫様には絶大なる自信があった!もう、自信しか無かった!!
──これ、即ち!
デレデレした所を、ゴンして鍵を奪って脱出!!我ながら完璧で、パーフェクトな作戦だった!!
「…………。」
「…………。」
「……貴様。」
廊下の兵士は呆気に取られ、ぼそりと呟く。
「……貴様、何を……している?」
「……ほえ?」
廊下の兵士のその言葉に、自分の耳を疑う姫君。
姫の頭に疑問が過った、いや疑問しか過らなかった。
「色仕掛の……つもりか?」
……姫の額に何故か、汗がだらだらと流れ出す。
姫のこの神算鬼謀な計略が通じなかった、とでも言うのだろうか?布陣は完璧だった筈なのだ、姫の放つその策略が通じない事など、あってはならないのである。
一体、何故姫の繰り出す神の一手が通用しなかったのか……?
廊下の兵士はドスドスと音を立てて近付き、剣を構え……高らかに、こう叫んだ。
「俺は、女には興味が無いんだよ!!」
────────。
姫の体は斬り裂かれ、死亡した事により時は再び巻き戻る。姫はまた薄暗い牢の一室に戻され、冷たい地面の上で大の字で寝転がり、涙ぐんだ虚ろな瞳で天井を見つめていた……。
……一体、どれ程の時間が経ったのだろうか。その虚無と呼ぶに相応しいその時間は、一秒にもまた永遠にも感じられた。そして姫は、天井を見上げ儚げな瞳でそっと呟いた……。
「……ゲイでしたわ。」
仕方無い。……ならば、仕方が無い。
「そんな……。私の、魅力が分からないなんて罪ですわ……。万死に値しますわ。」
……姫は涙を流し、ふっと笑った。
だが、姫の万策は尽きた。このツインデール公国の叡智と呼ばれた姫の、神算鬼謀を持ってしても脱出は叶わなかったのである。
……もはや、打つ手の無い絶望的なこの状況。
「……もうほんと、詰んでません?これ。」




