第37話 「お帰り頂きたいですわ」
ヘルニア兵、二百に囲まれるラミス。
「…………。」
……数が多過ぎる。可憐で華奢なラミスが倒せるのは精々五、六人が限度だろう。
周りには既に、味方の兵士の姿も見当たらない。公国に五人しかいない"剣豪"の称号を持つ、グレミオ隊長の姿も見当たらない様である。
「公国の、お姫様かー?」
ラミスの背後から、へらへらした態度のヘルニア兵士が一人近付いてくる。
──ドガッ!
「はぁ……。敵兵の皆さんが、全員こういうおバカさんなら助かるのですが……ねぇ?」
ラミスは頬に手を添え、ため息を付きながら裏拳で殴り付けた。
──ドゴォ!
「プリンセス延髄ですわ!」
不意打ちを喰らい、よろけるヘルニア兵士に強烈な回し蹴りを喰らわすラミス姫様。
「なんだぁ?昼間っから、酔ってんのかぁ?」
倒れて起き上がらない仲間の兵の姿を見ても、まだ一人の兵士がラミスに近付いてくる。
──コン。
ラミスは静かに、ローキックを決める。
「おバカさんで、助かりますわ……。」
──ガガガッ!
ローからミドルへ、ミドルからハイキックへ。更にそこから回し蹴りで、後頭部を穿つ。
「プリンセス連脚ですわ。」
「貴様ぁ!」
流石にラミスの実力に気が付いたのか、ヘルニア兵が殺気立ち剣を構える。
じりじりと、ラミスに詰め寄るヘルニア兵士達……。
「まて……。俺が戦ろう。」
兵達を掻き分け、中から一人の剣士がラミスの元へやってくる。
その男は長剣を手に不気味とも言える程、禍々しくそして恐ろしい殺気を放っていた。
その者は鎧や兜を一切身に付けずに、剣のみでラミスの前に立ち塞がる。
鎧を着けていない敵ほど、ラミスにとって戦いやすい敵はいないだろう……。しかし、ラミスはこの向かい合う敵の強さを、肌で感じ取っていた。
……恐らく、この男はガルガ隊長よりも強い。
ラミスは敵の攻撃に備え、慎重に身構える。
「行くぞ。」
男が剣を抜いた、その瞬間──。
────────。
──!?
…………。
ラミスは気が付くと、牢の中で天井を見上げていた。
「は、速すぎますわ……。」
……ラミスの体を真っ二つに引き裂いた、その剣速は恐ろしい程の速さだった。
ラミスはその高速の剣に、対応すら出来なかったのだ。
「世の中は広いですわね。私に一対一で勝てる人が居るなんて……。私もまだまだですわ。」
…………。
「まあ、負けた事は仕方がありませんわ。」
ラミスはすぐに気持ちを切り替え、すっと立ち上がる。負けた事は仕方がない、姉にも会え再会を果たした。
……しかし。
村を全て回ったのだが……。長女であるリンの居場所が、分からないままなのである。
「リンお姉様は、一体どちらにいらっしゃるのかしら……。」




